「学びは最大のエンタメ」
テクノベート時代の世界No.1のMBAを目指すグロービス経営大学院学長堀義人氏 インタビュー
日本や世界を牽引するビジネス・パーソンを育成する、グロービス経営大学院学長の堀義人氏。堀氏が2022年7月1日にベルギーのブリュッセルに設立したGLOBIS Europe BV(https://globis.eu)の記念イベントが11月15日に同地で、翌16日にロンドンで行われた。講演前の貴重な時間をいただき、堀氏にお話を伺うことができた。短期間の欧州滞在という過密スケジュールであるのにもかかわらず、疲れ一つ見えない顔で、英国ニュースダイジェストの質問に丁寧かつ穏やかに回答してくださった。常に数十年後の未来を起点に今を考えるという、端的で明確な回答に透けて見える教育に対する同氏の思いと当日の会場の様子をレポートする。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

1962年生まれ。京都大学工学部卒業後、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、92年に株式会社グロービス設立。96年グロービス・キャピタル設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学し、現在グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。
https://globis.co.jp
グロービス経営大学院学長 堀義人氏 インタビュー
欧州に進出した理由とベルギーにGLOBIS Europeを設立するに至った経緯について教えてください。
ハーバード大学経営大学院留学時に、「日本にビジネス・スクールを開校したい」と思い、1992年に事業を始動させました。当時のヴィジョンであった「アジアNo.1の経営大学院を作る」を実践し、日本をはじめ上海、シンガポール、バンコクに進出。さらにアジアの拠点を広げる予定でしたが、同時に近年の目覚ましいテクノロジーの発展を見ていると、もはや国境という境界は意味がなくなっていくのではと思い始めました。
実際テクノロジーの進歩は、百貨店からオンライン・ショッピングへ、テレビからYouTubeやNetflixへと、私たちの生活を変化させましたよね。今後、自動車業界など既存の産業も大きく変わるかもしれず、オックスフォード大学やハーバード大学など教育業界の最高峰だったものが、テクノロジーによって新しいチャンピオンに取って変わられる日が来るかもしれない。
そこで、2020年にアジアNo.1から「テクノベート*時代に世界No.1のMBA」へ目標を切り替えました。欧米圏をカバーする拠点として、21年は米国に、22年は新たにベルギーに拠点を開設しました。実際、企業研修のクライアントはグローバル企業がほとんどで欧米圏にもともと馴染みがありましたし、また英語のオンラインMBAを16年から始めた結果、世界各国からアクセスする生徒も増えていました。なので、より学びやすい環境を整えるため、米国、欧州のタイムゾーンを導入しました。ベルギーを選んだ理由は、欧州連合(EU)の首都でありNATOの本部があるなど欧州の中心地であるからです。
*テクノロジーとイノベーションを掛け合わせたグロービスによる造語
GLOBIS Europeでは日本らしいメソッドなど特別なカリキュラムはあるのでしょうか。
日本的なスタートアップのテクノベート系の科目やアジアン・ビジネスの科目が設けられていることもありますが、グロービスとほかのビジネス・スクールとの大きな違いは五つ挙げられます。
一つ目は、アカデミックな教授ではなく現役のビジネス・パーソンが教えること。二つ目はサービス保証に不満があった場合、全額受講料を返済していること。このサービス保証制度は世界中どこのスクールにもありません。三つ目は、グロービスは僕が1から創っているので、創造と変革といった起業文化にフォーカスしていること。四つ目は志。使命感や自分の情熱などの人間的なマインドを強化することをカリキュラムに取り入れています。ビジネスの根幹は経営者のミッション、ビジョン、バリューなので、能力の向上とともに志を上げていくことを掲げています。五つ目はテクノベート時代で実践したVC(ベンチャー・キャピタル)の経験をカリキュラムに組み込んでいること。プラクティカルでありつつ志にもフォーカスし、さらにテクノロジーをも理解できる。サービス公益が高いというが僕らの圧倒的な強みだと思います。
近年テクノロジーはますます私たちの生活と切り離せないものとなっています。ここ数年の目覚ましいイノベーションについてご意見をお聞かせください。
僕はテクノロジーが教育をどう変えるのかをこれまでずっと考え続けてきました。2050年には、教室での授業、紙の教材、そして教員もなくなるかもしれない。――それくらい思い切った発想をしていくと、新しい教育のために必要な努力が生まれてくるだろうと。とはいえ、一気に世界が変わるとは思っていませんでしたが、パンデミックが起こったことによって、多くの大学院では授業がオンラインに切り替わり、時代は加速していきました。
今回のパンデミックは人々の行動意識を変えましたよね。テクノロジーの面から言えば、前からzoomというサービスはあったものの、実際行うとなると躊躇する人が多かった。これらはパンデミック以前にも技術的には可能でしたが、皆がこうしたテクノロジーを使いこなせるようになり、社会実装できるようになるまでに変わったことは、パンデミックがもたらした大きな変化だと思っています。
GLOBIS Europeに興味を持った読者の方々へ向けてメッセージをお願いいたします。
僕は楽しいことは全般好きだけれど、結果的に能力開発こそが「最大のエンタメだ」と考えており、同時に投資対効果が最も高いのも教育だと思っています。自分の教育にお金をかければ多くの可能性を手に入れることができて年俸アップにつながるし、スタートアップして成功すれば経済的リターン以外のものも得られると信じています。多くの人がそれに気が付き、自らの学びを楽しみながら行なってくれるといいと思っています。1番良くないのは何もしないこと。まずは体験クラスの受講など、一歩でも前に出ることが重要です。動き出してからもっと勉強してみようという気持ちになるかどうかは後で決めればいいと思います。
「テクノべート時代のグローバルリーダーの要件とは?」ロンドン会場レポート
2022年11月16日にNobu Hotel London Shoreditchで行われた堀氏の講演。18時30分のレセプション前から参加者が続々と集まり、会場はほぼ満席に。開始時間の19時になるとグロービスの全日制英語MBAプログラムのアカウント・リーダー、スベン・バン・スチケル氏、GLOBIS Europe BVのプレジデント、高橋亨氏の挨拶に始まり、堀氏が登壇した。同氏は今年で開校30年を迎えるグロービスのこれまでの歩みについて解説した後、大学院学長兼VCの代表の立場から、経営のモデルがテクノロジーによって変わってきたことについて解説した。
テクノロジーの変化を理解し使いこなしていくことの大切さを語った堀氏。後の質疑応答にて、セミナーに出席した同校の卒業生は、「テクノベートという言葉は在学当時は全く聞かなかった」と驚きを持って感想を述べていた
これまではグローバル・リーダーの人材要件として知識・論理、考える力、人間関係能力、英語力、国際的視野、異文化コミュニケーションを挙げていたが、現在は「テクノロジーが社会を破壊的に変え」、時代は既存プレーヤーがテクノロジー会社に下克上される「乱世」へ突入したと明言。この時代勝ち抜くためには、上記に加え①テクノロジーの定石を理解する、②テクノロジーで競争優位を築く力を培う、③テクノロジーを使ったコミュニケーションやリーダーシップ能力を発揮できる人材になることをより意識する、の3点だと語った。講演後は、かつての同校の卒業生からロンドンで働く会社員の方々まで、さまざまな背景を持つ参加者たちと堀氏による熱い質疑応答が終演間際まで繰り広げられた。
質疑応答では、ビジネスからプライベートの時間の使い方まで、さまざまな角度からの質問が飛び交い、堀氏が一つひとつ丁寧に回答されていた