帰国のファイナンシャル・プランニング
これから3月末にかけ帰国シーズンを迎えます。今月は帰国時のファイナンシャル・プランニング、その心得や手配についてご説明いたします。在英中にしかできない対応や手続きをきちんと行い、日本での新生活に備えましょう。
英国滞在中に結構ポンドが貯まりましたが、日本に持って帰った方がよいのでしょうか。帰国時の留意点を教えてください。
実務的には通常、英国の非居住者になっても口座を保持することは可能です。最寄りの銀行の支店にて日本の新住所を伝えればステートメントが日本の住所に送られてきます。口座を保持するかどうかはご自身の状況によりますが、検討事項はまず為替と金利です。ポンドは昨年から対円で強くなったので、帰国後使う予定があるのであれば送金されたほうが良いかもしれません。もし長期保有が前提であれば、金利が高い英国に残しておくのも一案です。日本でもポンド建て銀行預金は利用可能ですが、ホーム・カレンシーである英国内の預金金利の方が競争力があるようです。
預金口座例(出し入れ自由)
銀行 | 利率(AER) |
---|---|
Chase | 2.70% |
Nationwide | 2.50% |
Virgin Money | 2.52% |
友人の口座が凍結してしまったと聞きました。このまま英国に残して大丈夫でしょうか。
数年間口座に全く取引がなくて口座が凍結されてしまったという話をたまに聞きます。その場合は銀行へ書面にてRe-activate(再開)するよう指示が必要で、通常、弁護士や司法書士等に認証されたパスポートや住所証明書類コピーが要求されます。日本からこのような手続きをするのは厄介ですので、デビット・カードを利用したり小口の送金をしたりと、口座を定期的に利用することが重要です。なお、英国の銀行のカードはコンビニや郵便局のATM で引き出し可能のようですし、店舗でコンタクトレス決済もできます。
長期の英国生活を終え、帰国する者です。英国の自宅不動産は売るか、貸すか、どちらがいいでしょうか。
帰国者からよく耳にするのは賃貸物件の管理が厄介ということです。賃貸中はメンテナンスや修繕費がかさみますし、日英両国で家賃所得の税務申告が生じます。売却の場合は利益(購入価値と売却金額の差額)に対する税金も検討事項です。英国では自宅を売却して得た利益は非課税ですが、帰国後に売却すると日本では非課税ではないので多額の税金が発生するかもしれません。一方、英国の不動産は基本的に右肩上がりで良い投資と思われる方は多いです。ご自身の状況、投資、税務などあらゆる観点から検討する必要がありますので、専門家にご相談されることをお勧めします。
売却代金はこちらで運用しておいた方がよいのでしょうか。
円金利が低いので、日本での運用先は基本的に日本株式か、外貨建て外国債券、株式、金など(またはその混合)になります。外貨での運用を検討するのであれば世界金融の中心で情報が集まり、優秀なファンドマネージャーも多い英国での運用の方が恩恵があるかもしれません。特に昨年は世界株式が大幅に下落したので今年は開始するタイミングとしては悪くないと思われます。
ISAは日本でも非課税なのでしょうか。
ISA(非課税貯蓄、運用口座)は英国税務当局に認可されたスキームで、日本政府に承認されていませんので、日本では非課税にはなりません。英国に残したISAはもちろん英国では継続して非課税となります。
効率的で経済的な送金方法を教えてください。
フィンテックの進歩により、さまざまなオンライン為替業者が為替取引や送金システムを提供しています。会社によりますが、送金手数料込みで約1円低いレートで利用できるようです。例えば市場レートが1ポンド=160円の際にポンドを売ると、159円で取り引きできるということです。銀行の窓口では、通常25ポンドの手数料と、約6円低いレート(data:bestexchangerate.com)となりますので、154円になります。違いは5円もありますので1万ポンド送金すると5万円の違いです。留意点として、オンライン為替業者には政府の保障スキームが適用されないこと、また基本的にオンライン取引なので決済などに問題が発生した場合、解決に時間がかかるかもしれません。銀行では窓口で問い合わせができるので安心です。一長一短ですが、大手為替業者が両者の中間的な存在といえます。政府の保障スキーム適用はないですが、長期設立の大きな会社で、オンラインだけでなく直接為替レートの問い合わせやトラブルの問い合わせも可能です。
オンライン為替業者の例
国民保険料(National Insurance contribution =NIC)を7年間払ってきました。英国の国民年金は受け取れるのでしょうか。
受給には最低10年間のNIC支払いが必要条件ですので、残念ながら受け取ることはできないと思われます。ただ、帰国後でもNIC を払い続けて受け取り額を増やすことは可能で、現在週15.85ポンドとなっています。帰国前に銀行引き落としにし、続けて支払うことが可能です。
ちなみに国民年金は現在35年で満額(2022/23年度は年9627.80ポンド、月802ポンド)受け取れますが、将来40年などに伸びる可能性もあることを留意してください。
複数の企業年金があります。帰国に際し一つにまとめた方が得策でしょうか。
複数の年金を管理し将来申請するのは、特に海外からは事務的に厄介になるかもしれませんので英国にいるうちに一つにまとめるのも一案です。非居住者になりますと、年金トランスファーなどの新規の金融取引は基本的にできなくなります。無論、利便性の面だけでなくさまざまな条件を検証する必要があります。コストが安く、運用利回りが高く、年金受け取り機能が充実した競争力のある年金プランに、滞在中に一本化することも検討できると思います。またファイナンシャル・アドバイザーに依頼すれば、アドバイザーが英国側の窓口となり、年金の運用・管理や受け取りについて継続した助言や手続きを代行も行います。
4月5日前に、税年度末のチェックをしましょう
- ISA(£20000)・JISA(£9000)枠は消化しましたか?
- 年金拠出金は最大限活用しましたか?
- 売却税基礎控除額は最大限活用しましたか?
- 相続税年間非課税枠による譲渡は済みましたか?
- ほかに税的特典のある金融商品を利用しましたか?
当コラムは2023年2月時点の法制と税制に基づき一般的なガイダンスのために作成されており、皆様のご理解を深めるために内容を簡素化してある場合もあります。専門家の助言なしに記載情報にのみ基づき行動することはお控えください。その場合、筆者は一切責任を負いません。投資助言を含まない税務助言はFCAに規制されていません。資産運用・年金運用は資産価値変動をともない元本割れすることもあります。受け取る年金金額は年金原資価値、将来の金利、また税制等により左右されます。
※ 次回のマネー教室は2023年2月16日号に掲載致します。