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3 Décembre 2009 No 893

MeÅLdecins Sans Frontiéres
小さな助けが大きな救いに 国境なき医師団

街はクリスマス色に彩られ、百貨店では年末商戦がスタート。忙しく行き交う人々の顔もどことなくうれしそうだ。しかし世の中の人々全てが喜びの中にあるわけではない。予測不能な天災や飢饉、病原菌など……。そんな人々に笑顔を届けるべく活躍する人道支援団体が世界に数多く存在する。その中から、現仏外務大臣らが立ち上げ1999年にはノーベル平和賞を受賞した国境なき医師団を紹介する。

(編集部 柳澤創、取材協力:国境なき医師団フランス支部)

タイトル写真:栄養失調に苦しむ生後6 カ月から3歳までの子 供のために栄養治療食を配る国境なき医師団。ニジェール © Virginie Amehame Troit / MSF Niger 2007

国境なき医師団の誕生

1971年12月20日、人道的援助を目的とした団体が誕生した。1968年から1970年にかけて内戦中のナイジェリアのビアフラへ赤十字の医療支援活動のために派遣されたフランス人医師とジャーナリストが中心となって設立されたこの団体は、全ての人が医療を受ける権利があり、また医療の必要性は国境よりも重要だという信念に基づき「国境なき医師団(Médecins Sans Frontières)」と名付けられた(国境なき記者団の名称は、国境なき医師団の理念を参考に付けられたとされる)。

19世紀に誕生した赤十字は、敵味方を区別しない中立機関として人道的支援を行う国境を越えた医療活動の先駆けといえる。しかし、必ずしも良い部分にのみ作用するわけではない。年月と共に強大化した赤十字は、次第に政治的制約なども付加され、時に本来あるべき活動に制限が掛かるようになった。そんな赤十字の限界を感じた医師やジャーナリストによって国境なき医師団は誕生したのだ。現在では、世界70カ国で4700人の医療スタッフが活動を行っており、災害や紛争地域にはどの団体よりも早く現地入りすることで知られている。

活動の透明性:証言活動

国境なき医師団の活動フィールドは、紛争地域、貧困地域、自然災害発生地域など広範囲。活動内容も、診察、外科手術、予防接種などの医療行為の他に、物資の援助や生活環境の改善など多岐にわたる。中でも代表的な活動のひとつが、メディアに向ける証言活動だ。国境なき医師団の証言は、活動地域の治安や紛争、衛生問題などさまざまな事項の分析調査に基づいたもので、情勢が不安定な国の政府に対しては警告を行い、被災地に関しては被害状況を分析した上で必要な物資の救援を要請する。国境なき医師団は国連や各NGO団体と連携して活動することが多いが、国連や赤十字などが活動フィールドでうまく機能しない場合には、証言活動を通じて批判することもある。しかし、この地道な証言活動が迅速な援助活動を可能にしてきたのだ。これまでに数々の賞を受賞しており、1999年に国境なき医師団はノーベル平和賞を受賞した。

医療援助だけではなく人道的活動

1999年10月、ノルウェーのノーベル賞委員会は、設立から28年間の功績をたたえて国境なき医師団をその年のノーベル平和賞に選んだことを発表した。

国境なき医師団といえば、団体名も助け医療援助団体というイメージが強い。しかし国境なき医師団フランス支部の広報は、ノーベル賞を受賞した1999年より行われている「必須医薬品キャンペーン」や2007年に開始した「栄養治療」キャンペーンなど、本来最もメディアなどに取り上げてもらいたい活動内容が国境なき医師団の医療活動の陰に隠れてしまうのが残念だと言う。国境なき医師団の活動目的が医療援助のみでないということは、1999年12月10日のノーベル賞授賞式で行われた国境なき医師団インターナショナル会長(当時)ジェームズ・オルビンスキー氏のスピーチにも現れている。

「私たちは危機的な状況にある人々を助けるため行動します。ですがこの行動に満足しているわけではありません。困っている人々に医療援助を行うことは、人間としての彼らの存在を脅かすものから彼らを守る試みなのです。人道的な活動は単なる寄付や慈善事業以上のものです。尋常な状態ではない地域に尋常な空間を築くことを意図しています。物質的に援助する以上に、一人ひとりが人間としての権利や尊厳を取り戻せることを求めているのです。私たちは独立したボランティア組織として、医療援助を必要としている人々に直接施療する立場をとっています。しかし私たちは真空空間で活動しているわけでもなければ、風に向かって語っているのでもありません。支援したい、変化を起こしたい、不正を暴きたいというはっきりした意志をもって行動しているのです。私たちの行動、声は憤 りを示す行為であり、直接的にせよ間接的にせよ他人に対する攻撃は認めないという拒否の態度なのです」(国境なき医師団日本支部公式サイトより)。

医療援助関連のキャンペーン

患者に適切な治療を施すために必要となるのが、医薬品などを含む医療ツールをそろえること。国境なき医師団は「必須医薬品キャンペーン」を1999年から開始した。

医療援助を求める国での問題は大きく分けて2つある。必要な医薬品が高価であることと、多くの病気の治療方法が存在しないことだ。医薬品の開発企業は、新薬を開発すると特許権により20年間は専売権が与えられる。この特許権が医薬品の価格引き上げの大きな要因だ。もちろん、医薬品の価格は年月と共に下がるが、それでも貧しい国にとっては依然医薬品は高価な物資であることに変わりはない。治療法に関しても同じ問題が指摘できる。病気に効果的な治療法が発見されても、治療試験や薬事法に基づく医薬品の登録など多くの行程を経なくてはならず、医療現場で使用可能となるまでに時間が掛かる。また、治療法や新薬の研究は、将来の市場を念頭に置い て進められているため、過去30年間で発売された医薬品の中で熱帯病や結核を対象としたものは全体の1%に過ぎない(国境なき医師団調査)。

とはいえ、キャンペーン開始から10年が経過し改善点や変化も訪れている。例えば、特許権の消滅した先発医薬品が特許保有企業以外から後発医薬品として発売されるジェネリック競争。発売される後発医薬品は先発医薬品と同じ主成分を含んでいるにも関わらず、特許権による専売権が無いため遙かに安価だ。これに伴い、治療費が従来の1%程度までに引き下がるケースもある。

地道な証言活動によって、アフリカ睡眠病、内臓リーシュマニア症、シャーガス病、マラリアなど製薬業界の研究開発の対象となっていない「顧みられない病気」に関しての関心も高まり、非営利の医薬品開発パートナーシップが複数設立された(国境なき医師団も2003年に「顧みられない病気のためのイニシアティブ(DNDi : Drugs for Neglected Diseases initiative)」を他機関と共同で設立している)。

貧しい国ではびこる難病の治療法開発。栄養失調を防ぐための栄養治療食(RUF)の生産と利用拡大。アルテシミニン誘導体と他の抗マラリア薬の併用によるマラリアの新療法(ACT)の普及など、国境なき医師団の課題は常に多い。

活動フィールドは先進国内にも

人命救済や医療援助というと紛争地域や天災の発生した被災地をまっ先に想像するが、国境なき医師団の活動の場は先進国内にもある。路上生活者の保護や、貧困層の医療アクセスなどがそうだ。例えばフランスでは、経済的に有料の社会保障制度に加入できない貧困層のためにCouverture Maladie Universelle(CMU)という医療制度が2000年に誕生した。これは、フランスに住む社会保障制度未加入のフランス人および外国人全てが無料で加入できる制度(不法滞在の低所得の移民にはAide médicale d'État(AME)という医療費負担制度も存在する)。しかし、仏政府は国の負担が大き過ぎるという理由でこれまでに何度か制度改定(一部有料化など)を検討している(2008年のAMEの国負担は年間4億9000万ユーロだった)。国境なき医師団は、このような政府の行為に対しても警告を発しているのだ。

もちろん、先進国内だからこそ行える寄付金や物資の呼びかけなども定期的に行っており、講演会や展示会などを通じて活動の理解を広めている。国境なき医師団日本支部の公式サイトによれば、2009年8月27日現在の年間総収入は、67億5400万ユーロで、そのうち個人寄付が全体の86.9%、58億7400万ユーロとなっている。

国境なき医師団に参加するには

国境なき医師団では医師、看護師、薬剤師や疫学の専門家など医療関連の人材の他に物資調達管理や財務人事管理、車両保守、建設専門家など現場での活動をサポートする人材を募っている。どの分野でも必要となるのが語学力。基本的には英語力だが、赴任先によってはフランス語やスペイン語などの語学力も必要となってくる。医療関連の経験者でなくとも応募は可能。詳しい募集要項や待遇、そして派遣者の声などは各支部の公式サイトで紹介されているので、興味のある人は是非参加してみよう。

また、公式サイトのオンラインフォームから寄付も可能。現場での活動は不可能でも、国境なき医師団の活動に参加出来る。

国境なき医師団(日本支部) www.msf.or.jp
国境なき医師団(フランス支部) www.msf.fr

国境なき医師団の活動原則
1. 第一に医療援助活動
2. 証言活動
3. 医療倫理の遵守
4. 人権の擁護
5. 独立性への配慮
6. 基本原則:公平性
7. 中立性の精神
8. 義務と透明性
9. ボランティアからなる組織
10. メンバー一人ひとりが参加し動かす組織
国境なき医師団
国境なき医師団設立の署名式。1971年 © François Leduc


1999年12月10日。ノーベル平和賞授賞式後にインタビューを受ける国境なき医師団のマリー=イブ・ラグノー医師(中央)とその同僚(右) © Patrick Robert/Sygma/Corbis


2008年8月にメキシコで行われた第17回国際エイズ会議。国境なき医師団は現場での医療援助の他にも証言活動を積極的に行っている © Marcell Nimfuehr/MSF Mexico 2008


採血をする国境なき医師団の医師。マラリア治療も国境なき医師団が積極的に行っているキャンペーンのひとつ © Anna-Karin Moden/MSF Sierra Leone 2008


世界中から集められた寄付金を元に国境なき医師団は医療物資や栄養治療食を支援している © Asako Tamura/MSF Pakistan 2005


2008年5月、大型サイクロン「Nargis」が直撃したミャンマーに支援物資を運ぶカーゴが到着 © Renzo Fricke / MSF Myanmar 2008


熱帯や亜熱帯地域ではびこる感染病リーシュマニア症の治療に訪れた親子 © Susan Sandars/MSF Kenya 2008


天災被害を被った地域では支援物資は、現地人の協力の下に水路などを使い行われることもある © Michel Peremans /MSF Myanmar 2008


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