
| 春の兆し |
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一年中温暖で晴天に恵まれ、澄み切った空気がおいしい南仏。 ……と、そのはずですが、年が明けてからお日さまの顔を忘れそうになるぐらい曇り空の日々が続きました。雨が多く、ブドウ畑や野原は水浸し、冬には珍しくカエルが鳴きだす始末です。 天気にかんしては、愚痴の多いコゴランの人々。この町に住んでみると彼らの気持がよく理解できます。北の空っ風、ミストラルが吹いて急に冷え込むこともあれば、地中海の湿った大気が北上し豪雨になるなど、天候の変化が極端な結果で現れるからです。今年はミストラルの勢力が例年より弱く、灰色の雨雲が朝から夕方まで毎日のように空全体を覆っていました。
けれど、数日前にミストラルが吹き、久々の青空。いつもだったら、この北風を呪うところですが、この時ばかりは厚い雨雲を追いやったミストラルの威力に敬意の念を抱くほどでした。 幸い、冷え込むこともなく、小春日和の一日となりました。お日さまが顔を出せば、湖のように輝いていた野原の水が瞬く間に退き、あふれ出していた川水は河床に戻り、あるべき自然の秩序が回復しました。数日前までは通れそうになかった橋まで行ってみました。川は両側の木々に導かれるようにとうとうと流れ、川沿いの道には雨の忘れ物がところどころに残っていました。それは舗装されていない田舎道に残された水溜りです。
木の葉っぱを伝い、幹から根元へ流れ、地中へと消えた雨水は湧き水となり地上によみがえります。硬い岩はつややかに、細長い若草は頭を垂れて、水の流れを見送ります。 せせらぎが刻む春のリズムは限りなく軽やかで、心地よく響きわたります。小川は生き物のように素早く、野原を駆け巡ります。静寂に支配されていた森はにわかに活気づき、木の芽が膨らみ始めようとしています。 モール山塊に降った雨水は、コルクガシが茂る山間の沢を抜け、コゴランの平野部でラ・モール川に合流し、サン・トロペ湾に注いでいます。雨は空からの使者、草木を潤す使命を終え、青い海へ帰ってゆくのです。
冬の長雨もこれで終わりです。それを喜ぶのは人間ばかりではありません。暖かな日差しを受けて、アーモンドの花から花へミツバチたちが一時の暇も惜しむように忙しく飛び交っていました。野草はせせらぎの音に目を覚まし、花は虫の羽音に花弁を大きく広げ、待望の春がやっと訪れたようです。
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