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17 Juin 2010 No 906

ジャン=ピエール・レイノー

生命の足跡‐空飛ぶ植木鉢

ジャン=ピエール・レイノー
高さ3.5m、上部の直径が4m近くある
巨大植木鉢。表面は金箔で覆われている
©D.R.

ポンピド-・センター前の広場にあった金色の大きな植木鉢。植物は植えられておらず、大きなオブジェとしてドスンと置かれていたこの不思議な物体は、2009年10月、ニュイ・ブランシュの日に空を飛び、現在は同館6階のテラスに鎮座する。金の植木鉢は85年の誕生以来ここに落ち着くまで、実にさまざまな場所を旅してきた。パリ郊外にあったカルティエ財団の庭に始まり、96年にはベルリンのポツダム広場・北京の紫禁城前に、98年から2009年にかけてはポンピド-・センターの玄関口を飾った。この植木鉢の作者がジャン=ピエール・レイノー氏だ。

自然が好きで、若き日は造園技師を志し、園芸の勉強をした。造園技師として1年間働いた後、転機が訪れる。28カ月間の兵役から戻ると病に倒れ、1年間床に伏した。何もする気がなくなり、生きる気力も失った時、病床で、社会における自身の存在や自由について考えた。自分の表現する力を確かめたい。その時わき出た思いから、レイノー氏は芸術家になることを決めた。

美術館にも行ったことがなかったレイノー氏は1962年、23才の時に芸術活動を開始。ゼロから独学で出発した中で見付けた自分の表現方法はオブジェだった。そして、造園をしていた経験から植木鉢が現れる。彫刻としても美しい形体で、古文書のように自分自身の過去、現在、未来にも関わる私的なオブジェだ。植木鉢はレイノー氏の生命の原型、基準そのものだった。金箔(きんぱく)をはったり、ブルーメタリックに塗った植木鉢もあり、そこには磁気を帯びているような魔力を感じる。静かで強靭(きょうじん)、自然への適性を持ち、自然の次にある自然。レイノー氏の人生の私的な歴史であった植木鉢は、ユニバーサルな生命の世界へ行き芸術作品になる。ゴッホの「ひまわり」やモネの「睡蓮」も私的な次元から絵画の主題となり、世界共通言語となり、観る者に語り掛ける。

ジャン=ピエール・レイノー氏
パリのアトリエでのジャン=ピエール・レイノー氏
©Ren Izuta

植木鉢でコミュニケーションを図るレイノー氏は、庭を造るように作品を作る。パリ郊外に69年から24年の歳月を掛けて制作した陶製タイルの家も代表作の1つだ。24年後に自分で取り壊すまで1人で暮らしたこの家とは恋愛関係のようだったという。作業中も人々がレイノー氏の家を訪問することができた。作品である家を取り壊したのは、芸術作品が工業製品のように人々や社会に消費されることを拒否したため。作品にも人生がある。人々はそれぞれ違った見方をし、その視点が作品を変える。作品が存続するということは、修復、維持にエネルギーが注がれ、公的な場所となりスペクタクルとして見られる。レイノー氏は取り壊すことで、静かで私的な物語の別の方向性を提示した。

これまでの自伝的で私的な作品とは打って変わり、90年代後半は他者との出会いを主題に取り組んだ。98年にフランス国旗をカンバスの代わりに木枠にはった作品を発表。以後、日本、イタリア、ロシア、中国、アラブ首長国連邦、北朝鮮、韓国の国旗で作品を制作。8年間、この作品を持ち、北朝鮮、キューバなど世界各国を旅した。「芸術家は政治的介入すべきではない」と言うレイノー氏。芸術家が価値判断をもたらした場合、人々はその芸術家の行為、作品を悪く捉える。政治的に敏感な国旗もあるが、あくまで芸術家の土俵は芸術という枠の中。その中で芸術家には許された自由があるから、タブーなく表現できる。

芸術とは何かという質問に対して、生命とは何かという質問で答える。誕生から死まで、果たしてそこに何の意味があるのか。レイノー氏は「大きな自由のみがある」と言う。常に自分を再生し、何かを生み出していく。自分の考えを通して自分の足跡を残す。ダンスや文学、芸術、表現は問わない「創造」の自由である。ポンピドー・センターの6階に引越しした金色の植木鉢は7月初旬に修復され、地面に敷かれた水面上に置かれるのを待つ。作品が死なないうちに、芸術家が生きている間に作品にも新しい生命を与えたいというレイノー氏の願いからだった。植木鉢は広場のモニュメントから、改めて美術館の中でより芸術作品として眺められることになる。



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