
年々増加している日仏カップルの結婚と離婚。その実態に迫る。
(Texte : Kei Okishima)
「アムールの国」の背景
そもそも、なぜフランスは「アムール(愛)の国」なのだろう?フランスの歴史をたどっていくと、洗練された文化を築くのに恋愛が一役買っていた時代に行き当たる。12世紀、トゥルバドゥールと呼ばれた叙情詩人たちの時代だ。彼らの詩のテーマは、領主の妻など既婚女性へのかなわぬ恋。これは後に騎士道恋愛(宮廷風恋愛)と名付けられ、騎士は身分の高い女性に恋する中で、その婦人に値する人間になろうと内面を磨き、深い知性と高貴な立ち振る舞いを身に付けた。
その後17世紀の宮廷社会でも、既婚の貴婦人たちは夫以外の男性と恋に落ちるのが常であり、恋愛は宮廷文化の重要な位置を占めた。婦人たちをより美しくみせる装飾品、男女の会話をより豊かにする教養、社交の場に欠かせない豪華な食事など、すべて宮廷社会から生まれた。現在フランス文化としてもてはやされているおしゃれなものは、この時に生み出されたもの。アムールの国フランスには、日本では考えられない恋愛の歴史が根付いていたのだ。
「アムール」と「愛」は同じ?
では、現代フランス人はどんな恋愛観を持っているのか。フランス語のamour は、日本語に訳すと「愛」。しかし、この言葉の間に温度差があるような気がしてならない。
「昨日まで、人前でも『愛している』と言ってベタベタしていたカップルが、次の日には『もう好きじゃない』と言う姿をよく見る。日本人からすると、それは愛じゃないのではないか、と感じる」と語るのは、フランス人との離婚を経験した日本人女性。
特に夫婦や家族間において、日本の「愛」は情に似た貢献的な愛情であり、必ずしも「恋」の要素を必要としない。しかしフランスで「アムール」は相手を思う、燃えるような感情を持つ。この感覚が人生にとって大切であり、それによって自分を高めていく。中世の騎士道恋愛的要素が含まれているのだ。
離婚後子供を引き取った彼女は言う。「離婚後、元夫の兄弟に会うと、必ず新しい恋の状況を聞かれる。息子と一緒にいるだけで幸せだから、新しい恋をする気はないと言うと、けげんな顔をされる」。当然のごとく、元夫には新しい恋人ができているという。
フランス人は個人主義と言われるが、これは決して1人でいることを意味しない。他に流されない自分の意見を持ち、他人に依存せずに自立した生活のできる人であることが、個人主義の大前提。そしてその個人は、もう1人の自立した個人を常に必要としている。
子供に対する接し方も、日本とフランスでは大きく異なる。日本の子育ては、「川の字」になって寝る姿に象徴されるように、子供が夫婦の間に入り、家庭の中心となる。一方フランスでは、赤ん坊の頃から「自立」を求め、一人部屋で寝る練習をさせる。また、生まれたばかりの赤ん坊をベビーシッターに預けて2人で出掛けるなど、夫婦の時間を大切にする。逆にこの夫婦の時間が保たれなくなると、日本人が想像する以上にそれを苦痛に感じるのが現実のようだ。日本人女性と離婚したフランス人男性は、「子供が生まれてから、僕は妻の2番目の存在、給料を家に持ってくるだけの存在になった気がした」と語る。
主婦の座がないフランス
子供がいてもパートナーであることを望むフランス文化の中で、なかなか理解されないのが「専業主婦」である。日本では家計を預かり、子供の教育も担当する「主婦」という座が確立されている。しかしフランス人を夫にもつ日本人女性は「初対面のフランス人女性に仕事を聞かれ、『主婦』と答えると必ず不満顔される」と言う。
フランスの恋愛論を説いた「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?」(棚沢直子、草野いづみ著)の中で、フランスで「母性」という言葉が日本のような意味を持たないことが指摘されている。それによると、父権的なキリスト教が支配権を握った西欧では、「母なる大地」たるものの権威が消し去られ、「母の権威が失墜している伝統のもとでは、母であることは女が生きる拠り所にはならない」としている。
以前、フランス人の友人が「(生後まもない)子供を実家に預けてだんなと旅行に行くために母乳を止めた」と言い、驚いたことがある。日本では可能な限り母乳で育てるように推進されていることを話すと、「だから出生率が上がらないのよ」と呆れられた。あくまでも自分の人生を効率的に生き、子供のために自分の楽しみを犠牲にしない。そんな母親の姿があった。
以心伝心はあり得ない
フランス人をパートナーに持つ日本人が口をそろえて言うのが「ここまで言わなくちゃ分からないのか」と思う瞬間と、「ここまで言うか」と傷つく回数の多さについて。逆にフランス人に言わせると、「フランス人はもっと素直で嘘をつかない。日本人のパートナーが怒りをため込んでいても、爆発するまで気が付けない」そうだ。
そもそも、日本語自体が相手の気持ちを考え、気持ちを察することを訓練させている。特別に意識せずとも幼い頃から言葉を選び、相手を傷つけないことが美徳と考える日本人。それに対しフランス人は、知的な議論の場であったサロンの文化を持ち、自分の意見をはっきりと持ち発言することが大切だと教え込まれている。互いを理解するには、相手の言語と文化を知り、理解する努力が必要だ。
もうひとつのフランス的結婚のかたち
連帯市民協約(PACS)とは、異性・同性問わず、共同生活をしようとする2人の成人が結ぶ契約のことで、1999年に施行された。それまでにも結婚をせずとも法律的に認知された形で共同生活を送ることができるConcubinage(同せい)という選択肢はあったが、これは同性のカップルには認められていなかった。そのためPACSによって、同性愛者にも法的に認められた共同生活の形が広がった。結婚との最大の違いは、離婚に当たる契約解消手続きの容易さにある。離婚と違い、理由を問わず一方からの契約解除申請が可能だ。他にも、カップルの子として養子縁組ができないという違いはあるが、社会保障や共有課税などの優遇処置は結婚と同様。手続きは簡単で、2人の署名が入った契約書、未婚証明書、出生証明書を裁判所に提出し、認められれば成立する。
フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、成立してからのこの10年間で交わされたPACSの件数は、約70万件にも及ぶ。結婚よりもPACSを選択するカップルは年々増加し、2008年は前年度比40%増、2009年はさらに20%増となっている。
どちらの国の法律で離婚するか
国際離婚の場合、基本的に夫婦が離婚時に住んでいる国の法律が適用される。一人息子をフランスで育てる日本人女性Aさんは、イギリスでフランス人男性と結婚し、フランス、日本での生活を経て日本で離婚した。手続きは、「日本式で離婚したので“紙一枚”」だった。しかしその後フランスに戻ったAさんは、フランスで裁判をする。養育費などの権利をきちんと定めておいた方が良い、という周囲のアドバイスを受けてのことだった。
フランスと日本の離婚手続きは異なる。日本の場合、両者が離婚に同意している協議離婚の場合は役所に離婚届を提出するだけで離婚が成立する。しかしフランスでは、協議離婚でさえも弁護士を立て、裁判官による審理が必要だ。「フィガロ」紙によれば、平均で約4カ月、費用が600~2000ユー ロ掛かるという。
メリットもある。裁判所が間に入るため、監視権や養育費の権利内容が離婚協議書内で確定しており、離婚後に養育費滞納などのトラブルが生じたときに解決を図りやすい。逆に日本で同様の問題が起きたとき、口約束で“紙一枚離婚”した場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、裁判官関与の下、解決を図るしかない。Aさんが日本で離婚したにも関わらず、フランスで裁判を起こした理由はここにある。
親権に関する大きな違い
「日仏カップルで離婚するなら、フランスの法律で離婚することを勧める」と言うフランス人男性Bさんは、日本で結婚し、日本の法律で離婚した。Bさんが現在抱える最大の問題は、一人娘との面会権だ。
子供の親権問題は、フランスと日本の離婚で大きく異なる。親権を母親か父親の一方に定めなくてはならない日本に対し、フランスでは両親の共同親権が原則。片方の親が子供と共に住める監護権を持ち、もう片方が定期的に子供と会える面会権を得る。しかし日本で離婚したBさんには親権がない。親権を持った元妻は、毎回なんらかの理由をつけ娘を会わせようとせず、ある時からBさんの連絡を完全に無視するようになった。その後の働き掛けにより連絡は取れたものの、離婚時には自ら拒否した養育費の要求や、面会の条件を一方的に突き付けられた。フランスのように法的な効力を持つ離婚協定書がないため、「何を今さら」と思いながらも身動きが取れない日々を嘆く。「確かに良い夫ではなかったかもしれない。しかし良い父親であったことには間違いない」。
夫の暴力が原因で離婚した実の妹と比較し、「フランスでは妻に暴力を振るった夫でも、子供に危害を加えなければ、面会権が得られる。なぜ自分が娘に会えないのか、余計に辛くなる」と打ち明ける。Bさんは娘に会える可能性が少しでも高い日本を離れられず、1人日本で娘との再会できる日を待ち続ける。
国境を越えた離婚は、その後生じる問題をより複雑にする。国際離婚の場合には特に将来起こり得る問題を予測する必要があり、権利を法的に確定しておくことが重要だ。
子供を連れて帰れない日本人
フランスの法律で離婚した日本人はどうだろうか。子供の親権は両方の親が持ち、外国人である日本人でも監護権を得ることは十分可能だ。ただしそれは、子供を育てられるだけの十分な経済的保障を示せ、離婚後もフランスに留まる場合である。フランスの裁判所は、フランスで育った子供にとって最良の選択は、同じ環境で生活し続けることだという判断を下す傾向があり、子供を連れて日本へ帰ることを認めないケースが目立つ。しかし現実は、フランス人のパートナーを失った日本人にとって、1人海外で子供を育てるのは容易ではない。まして、それまで専業主婦だった人や、フランスでの経済基盤を築けない人にとって、子供を連れて日本へ帰り、母国で一からやり直したいと考えるのは当然とも言える。これが子供の「連れ去り問題」を引き起こし、現在「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」への加盟要請が各国からなされている。この条約は、離婚した夫婦の一方が親権を持つ他方の親に無断で自国へ連れ帰った場合に、元の国へ戻す手続きを規定したもの。ほとんどの先進主要国で批准されているが、日本はしていない。日本人でも、外国人の配偶者に無断で子供を連れ去られる被害に遭い、ハーグ条約加盟を求める声がある一方で、家庭内暴力など、連れ去らざるを得ない状況にある人に対する解決策、支援策はあるのか、そんな声も無視できない。日本の外務省はハーグ条約締結の可能性について検討を進める中で、国境を越えた子供の移動に関する問題について意見を募集している。当事者にしか見えない問題があるはずなので、条約が終結される前に意見がある人は述べてみてはどうだろうか。
外務省「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」に関するアンケートの実施について
www.mofa.go.jp/mofaj/press/event/ko_haag.html
経済的基盤が保障され、フランスに留まり子育てをすることができたとしても、親権が両者にある以上、面会や子供の進路など、何かと元妻・元夫と連絡を取り合わなければならない。相手が別の交際相手を見つけることも、この国では当たり前のこと。異文化の問題を乗り越えて幸せになるには、これらの「起こり得る」問題を念頭に置き、解決策を事前に見出しておく必要がありそうだ。
離婚手続き・親権に関する日仏比較(協議離婚の場合)
| |
日本 |
フランス |
| 離婚成立にかかる時間(2人の意思が固まってから) |
最短1日
(離婚届提出のみ) |
平均4カ月 |
| 離婚費用 |
弁護士を雇わない場合、無料 |
600~2000€(平均) |
離婚協議書の
作成 |
弁護士と相談の上作成可能。証拠書類としてのみ法的効力を持つ。 |
作成が義務。法的効力を持ち、養育費滞納の場合は給料差し押さえなどの処置が可能。 |
| 親権 |
片親どちらか |
両親 |
結婚・離婚にみる日仏比較
日本の結婚総数における国際結婚率

フランスの結婚総数における国際結婚率

日本の離婚総数における国際離婚率

フランスにおける離婚件数

在仏日本大使館にて受理された婚姻・離婚件数 (2008年)

家族や夫婦間でのトラブルに関する相談所(無料、要予約)
Service de médiation et de consultation familiales
47, rue Archereau 75019 Paris
TEL : 01 40 38 63 95
権利に関する対応
PAD Les Point d'accès au droit
13, pl de Vénétie 75013 paris
TEL : 01 55 78 20 56
他、各都市にあり
法律に関する対応
Maison de la Justice et du Droit
vosdroits.service-public.fr/F1847.xhtml
最寄のセンターを検索できる
フランスでの結婚・離婚の手続きや必要書類については、在フランス日本国大使館ホームページに詳細が記載されています。
www.fr.emb-japan.go.jp
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