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19 Août 2010 No 910

ワン・ドゥ

現実のスポークスマン
− 自分も他者の一部として

ワン・ドゥ
巨大な作品が多いワン・ドゥ氏の
パリ郊外にある巨大なアトリエで
©Ren Izuta

風景や肖像など目の前にある現実を自分のレンズで捉え、脳内化学反応を経て、作品として表す。我々を取り巻く現実を「こんな風にも見えないか」と提案するために、いつの世も芸術家たちは奮闘してきた。現代美術においても、表現方法は具象や抽象、概念芸術と多様化し、絵画や彫刻に留まらずビデオ、パフォーマンスなど次々と新しい表現媒体が生み出されている。常に移り変わる現実を映し出すべく、展示空間全体を1つの作品として提示する観客参加型の巨大なインスタレーションを手段に発表を続ける芸術家ワン・ドゥ氏がいる。

2009年のフランスにおける芸術のトリエンナーレ、Force de l'artで展示されたワン氏の作品「International Kebab」は記憶に新しい。中国を練り歩き撮った何千もの写真を一枚一枚ポスター大に拡大し、高さ9メートルの塔に積み上げた。巨大な紙の塔は、店先でゆっくりと回転するケバブをほうふつとさせる。観客は塔を囲む階段を上りながら、イメージの一片をナイフで自由に切ることができる。

1990年に中国からパリ近郊にアトリエを移したワン氏は現在、世界を舞台に活躍する。幼少から芸術家になることを夢見、激動する母国の現実と向き合ってきた。文化大革命のただ中にあった70年代初頭、中学を卒業後中国中部湖北省の武漢にある鉱山内の工場で7年間働く。その間、勤め先の会社が運営する絵画研究センターの研究員として選ばれ、文革派の注文で版画やポスターなどを労働の傍らに制作した。そこでは、公式注文の受注勤務以外の時間に、色彩やデッサン、絵画の修練を積むことができ、ワン氏はここで事実上の美術教育を受ける。センターの講師たちは文革前の欧州式アカデミー教育、ロマン派とレアリスムの影響が色濃い美術学校で学んだ世代だった。その後、夢に見ていた広東の美術学校に入る。25歳未満という年齢制限がある中、ぎりぎり24歳で突破した。しかし、夢の先にあったのは失望。学校に自由はなく、ワン氏は校外で友人らと前衛的な活動を始める。80年代の中国政府は経済発展に夢中で、情報管理に手が回らず、広東には同時代の現代美術に関する海外の情報や出版物が入ってきた。特に80年代半ばには過去に対する反逆志向が高まり、美術の再生を目指す運動が起きた。文革中やそれ以前は孤立した砂漠のように世界から遠ざかっていた中国各地で、芸術家たちは小さなグループを結成し展覧会や講義を開いたり、美術協会を作ったりして独自の活動を始めた。中国現代美術にとってこの時期は、それまでの教育や過去から頭を洗う時期として重要であるだけでなく、パフォーマンスやインスタレーションなど新しい創造へ向かう準備期間でもあった。北京にある美術協会が発行していた週刊誌「Fine Art of China」は、当時の芸術家にとって唯一の効率的な情報源だった。ポップアートや60、70年代のポストモダンの建築に中国の若い芸術家は影響を受ける。自分たちの価値を見出そうと必死だった。ワン氏は美術学校を卒業後、教鞭(きょうべん)を執りながら芸術活動を行う。90年代初頭までは、芸術家という「職業」は中国に存在しなかったからだ。

今年で在仏20年。近年、作品の中でワン氏は今日の現実の風景としてマスメディアを多く扱う。今見ている現実は虚構の現実か、はたまた現実はなくなってしまったのか、マスメディアに現実は超えられてしまったのか。ワン氏は言う。「自分自身の視点で、自分ならではのやり方で、どのように思考を発展させるか、物事を見ることができるかが勝負。表現における自分自身のシステムを作った上で、そこから自分自身を超える能力が必要だ。なぜなら僕らは皆他者の一部分であり、現実の一部分なのだから。芸術家は他者の、そして現実のスポークスマンでなければならない」。今日もパリ郊外の大きなアトリエで大きな作業音と共に、ワン氏は現実の代弁を試みる。

ワン・ドゥ
2007年、ドイツとベルギーでの個展で発表した
「Berceau(ゆりかご)」。巨大ベッドの上には
テレビモニターの房が天井から垂れ下がる。
観客はベッドの上に自由に上り、テレビ番組を
リアルタイムに見ることができる
©Raimnnd Zakowski



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