人形遣いの手によって生命を吹き込まれた人形が、様々な物語を演じる。それが人形劇。フランス語の「Marionnette」(マリオネット)の語源は中世まで遡る。一説によれば、聖母マリアを指す「Marie」(マリー)が変化したものとされている。そんなことから、当初「マリオネット」は宗教的行事などで多く利用されていた。しかし、現在では宗教の枠を超え、生身の人間が演じる演劇の如くあらゆるジャンルで人形劇は展開されている。
![]()
人形劇というと皆さんは何を思い浮かべますか?
日本では、糸あやつり人形、人形浄瑠璃文楽をはじめとした様々な人形芝居が約4世紀に渡り伝承されてきました。フランスではどうでしょうか? 17世紀初期に、イタリア即興喜劇「COMEDIA DELL'ARTE」(コメデイア・デラルテ)より影響を受けた縁日芝居が流行り、19世紀半ば頃に操り指人形「GUIGNOL」(ギニョール)が誕生しました。しかし、日本のように長い年月を掛けて伝えられる伝統芸能とは違い、フランスでは時代ごとに人形劇革新が起こります。
現代のフランス人形劇先駆者は、アラン・ルコワンさん。1948年に人形遣いになり、演出家としても数々の作品を生み出し、1976年パリに人形劇場「Théâtre aux Mains Nues」(テアトル・オ・マン・ニュ)を創立してからは、人形操作技術のためのアトリエを組織して、人形芸術専門学校の入学試験を受ける生徒の教育や劇団を設立したい人形遣いたちの援助を行っています。
現役82歳。情熱的活動家アラン・ルコワンさんが、「現代フランスにおける人形遣いと人形劇の革新」、そして今年11月にパリで開催される「パドックス人形祭」について、熱く語ってくれました。
[Texte et Interview par Michiko HYUGA]
![]()
なぜ人形遣いの道を選んだのですか?
人形遣いになったきっかけは、偶然の出会いからでした。私は裕福でインテリなブルジョワ階級に育ちましたが、社会階級は将来のキャリアを保障するものにしか見受けられなかったので、20才になった時には退屈していたのです。
しかし、パリのソルボンヌ大学で哲学を専攻していた時に、偉大なる演出家ガストン・バチと出会いました。彼は大人向けの人形劇団を創設したばかりで、アシスタントを探していたのです。私はすぐに彼と意気投合して、今思えば、それがわたしの60年にわたる人形遣い人生の出発点でした。
ですが、その当時(1940年後半)フランスでは、人形遣いはまるで浮浪者のような扱いだったので、わたしは完全に社会の枠から外れた人生を選択したということになります。
現代のフランスでは、どのような人形劇の発展がありましたか?

テアトル・オ・マン・ニュー前の
ルコワンさん
私は、現代人形劇に大きな進展があった第2次世界大戦後から仕事を始めましたが、その当時フランスに人形遣いは50人ほどしかいませんでした。今では、約700の人形劇集団が存在します。
1950年代、知識人の溜まり場となったバーがいくつも出来て、歌手や語りべなどの演目とは対照的な「視覚的ショー」を行うために人形遣いが必要とされ、人形劇は大人の客の心を捉えることに成功しました。さらに、学校などでの公演も順調に増えはじめ、それと平行して人形遣い達は価値のある作品作りに力を入れるようになったのです。
人形の構造や操作について追求する造形芸術家が増えたのもその頃です。そして映画、アニメ、漫画の発展とともに人形劇はもはや一般的な人形をもちいるだけではなくなり、時には抽象的で前衛的な道具をもちいるショーに変わっていったのです。
1961年に国際人形劇連盟フランス支部が誕生し、1976年に「シャルルビル・メジャール世界人形劇フェステイバル」がトリエンナーレ開催(3年に1度)として定着してから、人形劇は社会的認識を少しずつ獲得してきました。今日フランスでは、人形劇業界は演劇業界と同等の社会的地位を確立しています。
人形遣いとしての心構えは何ですか?
美しく、面白く、強く心に残る素晴らしい芸術を人々に見せられるように努力していきたいと思っています。また、審美的で知的な芸術スペクタクルとして見せるだけでなく、生きている芸術の生み出す隠喩作用によって、問題を個々に抱えている観客の慰めに少しでもなれることを願っています。
![]()
万聖節の休暇(Vacances de la TOUSSAINT)に企画されている
「パドックス人形祭」について
アラン・ルコワン
私の劇場「Théâtre aux Mains Nues」(テアトル・オ・マン・ニュー)があるパリ20区のサン・ブレーズ界隈で、初めて「パドックス人形祭」を行います。(パドックスとは、宇宙人のような等身大の人形のこと)。パドックスは、有名なフランスの人形劇団「Cie Dominique Houdart-Jeanne Heuclin」(ドミニック・ウダールとジャンヌ・ユクラン劇団)が1997年に創作したキャラクターで、 30人ほどの人形遣い達がそれぞれパドックスをかぶり人々と直に触れ合います。ヨーロッパをはじめ、 パドックスは世界中で大成功を収めました。

左)宇宙人のようなパドックス
右)パドックス人形祭の為に勢揃いしたパドックス人形
今回私が企画しているパドックス人形祭では、まずパドックスになりたい一般人(2才~)からプロの人形遣いまで40人ほど希望者を募り、3日間の研修を行います。その後、研修生はパドックスをかぶり1日4回サン・ブレーズ界隈にあつまり、人々の日常生活に介入します。ビストロへ入ったり、道端を歩いたり……。そして10日後の最終日には、彼らはビバルデイーの「四季」にあわせてスペクタクルを公演します。パリ20区の住民をはじめ、パドックス人形祭に訪れる人々と、きっと素晴らしい交流ができることでしょう。無邪気で気配りのあるパドックスにぜひ会いに来てください!
| 日時 | 10月28日(土)〜11月4日(土)毎日18:30頃まで 最終日スペクタクル:11月5日(日) 15:00 |
| 場所 | rue Saint Blaise |
| 最寄り駅 | Porte de Bagnolet 3番線 |
| Théâtre aux mains nues 7, square des cardeurs 75020 Paris Tel:01 43 72 60 28 http://perso.orange.fr/tmn/ Compagnie Dominique Houdart-Jeanne Heuclin 58, rue de la Rochefoucauld 75009 Paris Tel:01 42 81 09 28 http://d.houdart.free.fr/ |
|
![]()
2006年シャルルビル・メジャール 世界人形劇フェステイバル
「シャルルビル・メジャール世界人形劇フェステイバル」は、ベルギー国境近く、フランスの北東部アルデンヌ県の県庁所在地、シャルルビル・メジャール市(パリからTGVで2時間30分)で行わ れた世界的に有名な人形劇フェステイバル。初年は1961年で、1976年からはトリエンナーレとして定着してきました。
第14回目にあたる今年は(9月15日~24日)「地中海」がテーマで、「様々な民族と文化が交流する地中海を人形を通して表現したい」という意味が込められており、フェスティバルは大成功を納め、朝から晩まで多くの人と人形たちが町中が埋め尽くしました。
フェステイバルの実行委員会は今年、世界34カ国から148劇団を招待し、日本からは東京の人形劇団「どんどろ」が参加しました。10日間で35カ所750公演が行われ、招待劇団以外の70劇団も、フェステイバル企画とは別に約180公演を街頭で披露していました。
日本からの来客者のなかに、フェステイバル経験5回の(15年前から)聖徳短期大学部保育科教授で人形遣いでもある幸田眞希さんも参加しており、今回はフェステイバル同時開催の国際会議 「人形劇とセラピー」で、「なぜ子供は人形劇が好きなのか?」という研究発表をされたようです。彼は「人形劇関係者だけではなく、美術、ダンス等の芸能分野や医療分野に携わる人の話が聞けて、今後の障害者教育の参考になりました。」と笑顔を見せてくれました。 彼いわく日本は、障害者向けの人形作りと人形劇教育が、世界で最もすぐれている国だそうです。
2006年シャルルビル・メジャール世界人形劇フェステイバル は、年初に亡くなったアラン・ルコワンさんの友人で、フェステイバル創設者ジャック・フェリクス氏の功績をたたえました。
「友情と熱意、その夢物語が現実になる……」ジャック・フェリックス氏の言葉を現実に目た私は、目頭が熱くなりました。
日向倫子
展覧会
「アラン・ルコワン 人形遣いとして60年の歩み」
アラン・ルコワンさんが60年間に創作したスペクタクルの舞台装置、写真、人形の展示。
「Tout s'emboîte」(すべてはまる)
フランスの劇団「Le Grand Manipule」(ル・グラン・マニピュール)による14才から鑑賞可能な、5つの小劇からなる道具人形劇。これでもかというぐらい様々な道具が出てきて笑いにはまる。ジルベール・エプロン演出、見事な4人のチームワーク。2007年12月まで地方公演が予定されている。
www.legrandmanipule.com
「Manger ours, manger chien」
(熊を食べて、犬を食べる)
初演の大人向け指人形劇。アラン・ルコワンさん演出、パトリック・ボーマン台本の社会風刺のコメデイー探偵物語。アトリエ卒業生によって結成された劇団「Théâtre aux Mains Nues」(テアトル・オ・マン・ニュ)は、9月30日から10月27日まで独自の劇場で再演、その後フランスの地方を巡回する。
http://Perso.orange.fr/tmn
「Bistouri」(外科用メス)
ベルギーの「Tof THEATRE」(トフ劇団)による7歳から鑑賞できるセリフなし人間大人形劇。腰が曲がった外科医(人間大の人形)が患者のお腹にメスを入れて内視鏡手術を遂行する。突然モニター上に現れたものは? 赤頭巾ちゃんだった。アラン・モロー演出のビジュアルなコメディ ー。劇団独自のサーカステントとトラック劇場が見もの。
http://www.toftheatre.be
「Méfy, méfie-toi !」
(メフイー、気をつけなさい!)
フランスの劇団「La Toupine」(ラ・トピン)による4歳からの子供教育人形劇。喜劇芸人ルネ・グレロが狐のお面をかぶりジャーナリストのメフイーを演じる。時には小さな人形になって、家庭内で起こりうる危険を調査。多くの幼稚園生や小学生たちが課外授業として来ていた。
www.theatre-toupine.org

「Manji」(マンジ)(写真左)
日本の「どんどろ劇団」による大人向けのセリフなし 人間大人形劇。
「ベトナム伝統人形劇」(写真右)
ベトナム国立人形劇団による水上人形劇。

「Gulliver」(ガリバー)(写真左)
チリの「Compania Jaime Lorca」(ジェム・ロルカ劇団)による糸操り人形劇。
「La boîte à joujoux de Claude Debussy」
(ドビッシーのおもちゃ箱)(写真右)
フランスの劇団「ARKETAL」(アルケタル)による誰もが楽しめるセリフなしの音楽人形劇。人形劇のためにドビッシーが作った曲に合わせて恋愛ドラマが展開。シルビー・オスマン演出。 http://www.arketal.com
シャルルビル・メジャール世界人形劇フェステイバルに関する情報
http://www.festival-marionnette.com









