
絵本の「ババール」が生誕75周年をむかえる今年、ついにフランス国立図書館はこの名作を国宝に認定。たかが絵本とあなどるなかれ、愛好家の間ではウサギの「ミッフィー」、ネズミの「フレデリック」と並んでアイドルとあがめられる存在なのです。もちろん、この殿堂入りによって彼の人気が「倍ゾウ」することは間違いなし。そこで、この愛すべきキャラクターの誕生秘話と魅力を、みなさまにたっぷりとお届けします。(Texte et photo par Kazushi Takeuchi)
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アイドルを生み出したフランス人
「ババールはやさしくて勇気のある象の王様。セレストビルという美しくてしあわせなゾウの王国を森の中につくり、一生懸命政治をしています。ピクニックをしたり、子供達と一緒に遊んだり、旅行しているときが一番幸せです」。
現在、150カ国以上の国のこどもたちに愛されるこのキャラクター。それを生み出したのは、絵を描くのが好きな1人のフランス人でした。彼の名はジャン・ド・ブリュノフ。子供達に勇気と正義の心を与え続けた人です。
妻がつくった物語がヒントに
芸術書物の編集人を務める父のもとで育ったジャンは、パリの学校で芸術を学び、1924年、友人の画家エミル・サバローの妹でピアニストのセシルと出会い結婚します。この出会いこそが後の名作誕生への架け橋となるのです。
結婚からまもなくして、彼らの間に2人の子供「ロランとマシュー」が産まれます。ジャンとのセシルは息子たちを大切に育てました。特に妻のセシルは彼らが寝る前にはいつもグリム童話やアンデルセンを読んで聞かせました。そんなある晩のこと、彼女はひとつの物語を思いつきます。それはハンターにお母さんを殺された子ゾウが、大きな町へと逃げていく話です。スリリングでファンタジックなこの話は、子供達をすっかりとりこにしてしまいます。そんな息子たちをほほえましく見ていたジャンですが、ここでひとつのアイデアを思いつきます。
「ストーリーにぴったりの絵を描いてみたらどうだろうか。そしていつか絵本を作ろう」。1931年、出版人の叔父の助けを借り、ジャンはついに本を出版します。主役の子ゾウにジャンは「ババール」と名づけました。
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ババールの第1作目の表紙 |
息子ロランの奮闘
この絵本は出版してすぐさまフランス中で話題になります。シンプルなキャラクターが多くの子供達に受け入れられたからです。ジャンとセシルにとっては幸せの絶頂期だったことでしょう。しかし、幸福な時間は長くは続きませんでした。1937年、ジャンは結核が原因で帰らぬ人となります。37歳という若さでした。絶望にくれる若き妻セシル。そんな彼女をひとつの希望が勇気づけます。長男のロランです。ロランは高校卒業と同時に父親と同じ道を歩みはじめます。彼は「ババールを生かすことこそが父を生かし続けることになる」と悟り、わずか20才で初めての本を出版します。彼は父親の功績を受けつぐとともに「悪役キャラクターを登場させる」といった独自の世界観を加えていき、そして見事に「ババール」を生き返らせることに成功したのです。そして「ババール」誕生から75年目の今もなお、世界中の子供達にロランは夢を与え続けています。日本でも1974年から評論社から全11話16冊の絵本が出版され約20万冊が発行されています。

左)ババールの家族と仲間達
右)ブリュノフが描いたスケッチの1 つ、「ババールとカメラマン」

「フランスの至宝」と聞いて読まないわけにはいきません。しかもこんなチャンスがなければ絵本なんて読まないという方も多いのでは。ということで「ババール」と出会える人気の絵本屋さんをご紹介します。
Les Cousins d'Alice |
50年代の復刻版おもちゃがいっぱい
まるで不思議の国のアリスに出てくるようなファンタジックな本屋さん 「Les Cousins d'Alice」(レ・クザン・ダリス=アリスの従兄弟の意)。店中に足をふみ入れると、50年代の復刻版おもちゃがいっぱいならんでいます。左手の奥には絵本のコーナーが設けられていて、カラフルな絵本を前にすると幼稚園の図書館にいるような温かい気分になります。中でも「ババール」の 本は豊富に揃っていて、大手にはない珍しい「ババール」も見つけることができます。
「ババール」で知るフランス人のツボ
店長のブルイュさんが「ババール」の魅力を解説してくれました。「『ババール』はフランスが世界に誇る名作です。古い作品なのに現代でも十分通じるユーモアもあり、すべての面においてとてもバランスのよい絵本だからです。一方で、フランスのことがとてもよくわかる絵本だともいえます。なぜなら、フランス人の習慣や考え方、笑うツボといったこと全てがこの本にすべて含まれているからです」。 なるほど、それだけで読む価値がありそうです。
店長ブルイュさんのオススメ「フランスの絵本の良いところはひとつのスタイルにとどまらず、作家が自分の個性を追求しているところです。他の国にはない絵のタッチや個性的なテーマが魅力です。もちろんうちにある本は私のお気に入りばかり」と話す店長のブルイュさん。 |
1.「HiSTOiRE DE BABAR」ゾウのババールがいろんな体験をしながら大人になるまでのお話。ババールはいろんな出会いや試練を乗りこえて、立派なゾウの王さまになれるのでしょうか。 |
2.「LE VOYAGE DE BABAR」ババールは王妃セレストと新婚旅行にでかけます。気球に乗って出かけた2人ですが、嵐にあい島についらく。そしておそろしい事件に巻きこまれます。彼らの運命はいかに!? |
3.「le géant de Zeralba」 TOMI UNGERERが描いた絵本。人さらいの悪い男と料理が得意な女の子の話。女の子が作る美味しい料理に悪い男はしだいに癒されていきます。そして意外なラストが! |

左)不思議の国のアリスのキャラクターが 描かれたLes Cousins d'Aliceの外観
右)かわいいおもちゃやぬいぐるみが山積みされた店内は、こどもたちにとって夢のような世界。「ママ見て!」という声が聞こえてきそう。
| Les Cousins d'Alice | |
| 住所 | 36, rue Daguerre 75014 Paris |
| 最寄り駅 | Denfert-Rochereau 4、6番線 |
| TEL | 01 43 20 24 86 |
| 営業時間 | 10:00-13:30、14:30-19:15、日11:00-13:00 |
| 定休日 | 月曜日 |
Chantelivre |
日本人は「ババール」偏愛!?
「日本のお客さんはよく来てくれますよ。ありがたいことです。でも彼らが買う絵本は90%くらい同じです。その代表が『ババール』です」と説明してくれたは店長のピエールさん。「うちには約5万種類の絵本があります。なのに日本のお客さんが買うのは『ババール』ばかりです。他にも面白いのがたくさんあるんですけどね」となんだかこの絵本にうんざりしているご様子。「ババール」のことが心底嫌いではないのでしょうが、それにしても、国宝にうんざりできるフランス人はすごい。
フランス人がこどもに読ませたい絵本
もちろんピエールさんは「ババール」についてしっかり語ってくれました。「フランスでもあいかわらずの大人気です。その理由は、古きよきフランスの雰囲気がこの本に詰まっているからだと思います。だから本を買うのは子供ではなくて大人がメインです。おばあちゃんやお母さん自身が子供の頃に読んだことを覚えていて、ぜひ孫や子供に読ませたいというパターンが多いようです」。なるほど、日本でいう「おとぎ話」のような存在ですね。ピエールさんもきっと「ババール」にお世話になったんでしょうね。
店長ピエールさんのオススメ「ドイツの絵本の場合は教育色が強いのに対して、フランスの絵本は単純に楽しさだけを追求しています。なぜならフランスの子供は規則の中できびしく育てられていますから、絵本は息抜きになるんです。『ババール』もいいけれど、いろんな種類の本を息抜きに読んでみてください」。 |
1.「BABAR et le Pére Noël」いよいよクリスマスシーズン到来!この時期に「ババール」を読むならサンタクロースになったババールを見たくありませんか? 12月にぴったりの作品です。 |
2.「Gaspard et Lisa au Japon」ANNE GUTMANとGEORG HALLENSLEBEN の作品。「リサとガスパール」2人の主人公が人気の絵本。当書は作者が来日したときの経験が絵本のアイデアになっています。 |
3.「le géant de Zeralba」 店長のピエールさんが「最高」と太鼓判をおす作家Claude Pontiの作品。漫画タッチで、現実には起こりえないことが次々と起こる創造の世界。 |

左)まさに絵本の専門店と言うにふさわしい、広い店内
右)フランスでも人気の安野光雅さん(左)と市川里美さん(右)の絵本
| 住所 | 13, rue de Sèvres 75006 Paris |
| 最寄り駅 | Sèvres-Babylone 10、12番線 |
| TEL | 01 45 48 87 90 |
| 営業時間 | 10:30-19:30、月13:00-19:00 |
| 定休日 | 日曜日 |

フランスがブリュノフなら日本は・・・・・・。芸術家を比較するなんて下衆なことと知りつつも、フランスに負けない日本の美しい絵本を紹介したい。そこで白羽の矢をたてたのがあの人です。「ことりのくるひ」でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞し、「あめのひのおるすばん」では絵本を芸術にまで高めたといわれる人物。そう、いわさきちひろです。
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10カ月と1歳を描き分ける
55年間のみじかい生涯。描いた絵は9300点をこえ、その多くは子供をモチーフにしたものでした。いわさきちひろ。絵本に興味がない人でも、無垢でせつない彼女の絵を目にしたことがあるのではないでしょうか。モデルなしで10カ月と1歳のあかちゃんを描き分けるするどい観察力は、子供の あらゆる表情を鮮やかに うつしだしました。母親 として子育てをしながら、20年余りもスケッチを積み重ねる中で、彼女 が描いた子供達は、絵の中で様々なことを感じ、無邪気に動きまわる、小さな妖精のようです。
洋画と習字がベース
ちひろが洋画に出会ったのは14歳のとき。母の紹介で洋画家の重鎮、岡田三郎助のもとへ入門します。幼い少女は四苦八苦しながらも日夜デッサンにはげみ、着実に力をつけていきます。独特の水彩画の基礎はここで培われたといっても過言ではありません。とくに印象派の画家たちの影響を強く受けたといわれています。
彼女の水彩画が花開するきっかけになったのは、藤原行成流の和仮名との出会いです。輪郭線をつかわずに色の面だけで描く「没骨法(もつこつほう)」や、筆勢をいかしてかすかれた筆跡をのこす「渇筆法(かっぴつほう)」はちひろの得意な技法ですが、洋画と書道が混ざり合った躍動感のあるタッチはこのとき誕生しました。
さらに、パステルとの出会いによって、絵に対するスタンスも大きく変わります。自ら「器用すぎるのが欠点」と語るように、筆を使った繊細なタッチによって作品が小さくまとまり過ぎた時期がありました。しかし、細かい描写に適さないパステルがかえって、ちひろの絵を大胆にさせるきっかけになりました。

絵本は私のもの
いわさきちひろは、文章が主流だった絵本スタイルから、「絵本画家が描きたいものを描く」という画家主導のスタイルを日本ではじめて世に提唱した人でもあります。
それにしても彼女の描く子供はなんといきいきしていることでしょう。それは、時にお母さんの優しい視線で描かれ、時に子供の頃のちひろを見ているかのようです。
JUNKU堂でみつけた「ちひろBOOK」 「ドイツの絵本の場合は教育色が強いのに対して、フランスの絵本は単純に楽しさだけを追求しています。なぜならフランスの子供は規則の中できびしく育てられていますから、絵本は息抜きになるんです。『ババール』もいいけれど、いろんな種類の本を息抜きに読んでみてください」。 |
「あかちゃんのうた」育児に大切なコミュニケーションの方法がつまった絵本。育児で疲れた方にもほっと一息つける1冊です。(13.70ユーロ) |
「ちひろの詩」子守り歌、エッセイ、生前の詩とさまざまなイラストを 組み合わせた詩画集。ちひろの絵と言葉が同時に楽しめる1冊です。(21.40ユーロ) |
| 見出しで読む絵本の歴史 | |
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世界
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日本
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| 17世紀半ば | 平安時代末~鎌倉時代初期 |
| ドイツなどで挿絵の豊富な児童書が登場 | 文に絵を加えた「物語絵巻」が確立 |
| 「世界絵図」 (コメニウス作/ドイツ1658) |
「鳥獣戯画」 (鳥羽僧正/1800前半) |
| 19世紀半ば | 室町時代~江戸時代初期 |
| 色刷りの絵本が欧州各地に普及 | 冊子本形式の「奈良絵本」が普及 |
| 「三人の陽気な狩人」 (コルデット作/アメリカ1880) 「A・アップルパイ」 (グリーナウェイ作/イギリス1886) |
「ものくさ太郎」(1845頃) |
| 20世紀初頭 | 江戸時代 |
| 英の女性作家を中心に欧州で優れた絵本が誕生 | 手描きから「木版刷り」へ 「赤本・黒本」の普及* |
| 「三人の陽気な狩人」 (コルデット作/アメリカ1880) 「A・アップルパイ」 (グリーナウェイ作/イギリス1886) |
「した切雀」(1865) *「赤本」とは昔話をテーマにした子供向けの絵本。「黒本」とは歴史や 歌舞伎などをテーマにした大人向けの絵本。 |
| 1930年代 | 明治時代 |
| 絵本がアメリカへ伝播し、多民族の相互交流さかんに | 翻訳された「ちりめん本」が来日した外国人に売られる |
| 「100まんびきのねこ」(ガアク作/アメリカ1928) 「ゾウのババール」(ブリュノフ作/フランス1931) |
「桃太郎」「かちかち山」(1885) 「浦島」(1886) |
| 1945年前後 | 明治末期・大正・昭和時代初期 |
| 作家の内的世界を動的に表現した時代 | 「絵雑誌」が誕生する。絵本の近代化 |
| 「もりのなか」(エッツ作/アメリカ1944) | 「こども」創刊(1905) 「コドモノクニ」創刊(1922) 「講談社の絵本」シリーズ誕生(1936) |
| 1960~現代 | 戦後~現代 |
| 内面重視。文字なしや立体など新しい絵本が登場 | 創作絵本が登場し、世界に通用する名作誕生 |
| 「かいじゅうたちのいるところ」(センダック作/アメリカ1963) 「きりのなかのサーカス」(ムリーナ作/イタリア1968) |
「スーホーの白い馬」(赤羽末吉・絵1961) 「あめのひのおるすばん」(いわさきちひろ・絵1968) 「花さき山」(滝平二郎・絵1969) |






1.「HiSTOiRE DE BABAR」
2.「LE VOYAGE DE BABAR」
3.「le géant de Zeralba」
1.「BABAR et le Pére Noël」
2.「Gaspard et Lisa au Japon」
3.「le géant de Zeralba」
「ドイツの絵本の場合は教育色が強いのに対して、フランスの絵本は単純に楽しさだけを追求しています。なぜならフランスの子供は規則の中できびしく育てられていますから、絵本は息抜きになるんです。『ババール』もいいけれど、いろんな種類の本を息抜きに読んでみてください」。
「あかちゃんのうた」
「ちひろの詩」





