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Tue, 08 October 2024

第45回 英国不動産市場の活況は続くのか

日本はバブルとその崩壊という経済変動のために、変革を余儀なくされている。戦後の総決算という見方もあるが、本格的な検証はこれからだ。バブルはその最中は気付かず、終わってみて初めてわかるものである。英国も米国も歴史上何回もバブルとその崩壊を経験してきているが、歴史は繰り返している。しかもその再来時には装いを変えてくるので、「バブルが来る」と皆の意見が一致することはまずない。今回はこうした限界をご理解いただきつつ、足許の英国不動産市場をめぐる状況を検証し、2000年以来バブルではないかといわれ続けながらも崩れていない市場の行方を予想する。

住宅市場の場合

英国では、住宅を購入する際にはまず金融機関などから借入を行い、買った不動産を担保に供する。日本と異なるのは、その後担保不動産の価格が上がると、その分で生まれた担保余裕額(<担保時価マイナス借入金>の一定割合)を見合いに、追加で借入を行うことができることだ。図は、そうした追加借入額と個人の収入との割合の前年比を時系列でグラフにしたもの。1980年代前半にサッチャー改革の成果が出始め、80年代後半には経済が劇的に回復したことから不動産価格が急騰、収入の伸びを8%ほど上回る借入の伸びがあった。しかし景気がピークを過ぎた80年代の終わりからポンドが不安定になり、ポンド防衛のためにイングランド銀行は高金利を続けた。金利が上がり借入が難しくなった結果、不動産価格は急落し英国は欧州各国間の為替相場安定制度(ERM)から92年に離脱。その後経済が安定し、2000年頃から不動産価格が再び急騰、04年をピークに再度借入が収入対比10%近い伸びとなった。05年にはイングランド銀行の金融引締めにより伸びが一段落したが、昨年には再び伸び始めている。

新規の住宅販売が限られている英国では、住宅は買手側の事情、中でも金利に大きな影響を受ける。イングランド銀行が不動産価格を気にするのもこうした事情がある。金融を引き締めると、借入の多い人は金利負担が重くなり不動産を売って金利を返そうとするので、不動産価格が下がり、担保割れになり、借金が返せず破産するからだ。実際05年の引締めの結果、図に見られるように個人破産が急増した。

しかしながら不動産価格が維持されたり、借り手が個人ゆえに貸倒れが集中して起こらないとすれば、金融機関の経営には差し迫った心配はないことになる。そこで住宅市場の下落リスクは、不動産価格に大きな影響を与えるイングランド銀行の金利引上げは加速するのかどうか、ビルディング・ソサエティなど中小金融機関の不動産担保融資のリスク管理が甘くなり、不良債権が増えていく兆候がないかどうか、という点を当面気にしておけばよい。

英国の金利水準は、4.5%と90年頃のピークの15.5%からみればまだまだ低い。グローバリゼーションによる世界的なインフレ抑制傾向があと1年は持つと思われるので、金利の急上昇は地政学リスク以外からは考えにくい。とすれば唯一のリスクは、金融機関が再び貸し急いでいないかということだけだろう。

商業用不動産の場合

住宅価格と商業不動産価格では、急激な下落時における経済への影響ルートが異なる。商業用不動産では金額が大きく、借り手が不動産業者や保険会社などに集中することが多い。大きな価格下落は貸し手の金融機関を直撃する可能性が大きいので、金融危機を招きやすい。しかし図を見ると、商業用不動産の価格は金利引上げの影響をあまり受けずに上昇していることがわかる。

誰が買っているのか。中東や北欧、ロシアのオイルマネー、最悪期を脱した日本の金融機関、金持ちの投資ファンドなどである。しかし、注意すべきは、商業用不動産価格の上昇下落の振幅の大きさだ。金利感応度も高い。「山高ければ谷深し」。粗っぽい動きをするオイルマネーは、多少の損は覚悟のリスクマネーである。商業用不動産の需要は、ロンドンの金融が発展を続ける以上ある程度は伸びるが、投資、投機資金が入っていることから、金融引締めを契機に今年後半から来年にかけては反転リスクがあるのではないか。オイルマネーが原油安を受けてひき始めた時はババ抜きゲームの開始である。日本の投資家がババをつかまないようにと願う。

(2007年1月31日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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