第301回 大相撲ロンドン公演と音楽の殿堂
34年ぶりの大相撲ロンドン公演が10月に英国随一の音楽の殿堂、ロイヤル・アルバート・ホールで行われました。力士の奮戦だけでなく、相撲は力士の息づかい、行司や呼出の声、太鼓や拍子木のリズムなど相撲の臨場感を伝える音響も大切です。厳かな宗教儀礼と華やかな熱狂がどこまで実現されるのか。入館すると高さ21メートルのパイプオルガンの前に掲げられた日英両国旗と満員御礼の垂れ幕が目の前に飛び込んできました。
高さ21メートルのパイプオルガンに満員御礼の幕
もともと江戸時代、神社仏閣の資金調達のために各地で行われていた勧進相撲は、18世紀半ばから江戸・両国の回向院で開かれるようになります。回向院は1657年の明暦の大火で他界した人や動物すべてを祀るお寺です。大相撲の由来は、神の宿る土俵で礼節をもって武芸を競い、五穀豊穣を祈り、悪霊を払う祭祀行事。塩をまき、拍子木を打ち、太鼓を鳴らします。回向院の相撲櫓は約17メートルもあり、その太鼓の音は江戸中に響き渡りました。
回向院の相撲櫓(広重の「両ごく回向院元柳橋」)と現在の両国国技館の櫓(右)
回向院の境内で行われていた大相撲の泣き所が天気でした。そこで全天候型の常設会場として旧両国国技館が1909年、回向院の隣接地に建てられました。設計は日本の近代建築の父、辰野金吾と葛西萬司。相撲好きの辰野がロンドン留学中に見たロイヤル・アルバート・ホールに国技館の着想を得たといわれます。日本初の洋風鉄骨ドームですが、多目的ホールとしても企図していたため、照明や音響も当時の最先端のものが導入されたそうです。
1909年完成の旧両国国技館(上)と1871年完成のロイヤル・アルバート・ホール(下)
先月の大相撲ロンドン公演の会場、ロイヤル・アルバート・ホールでまず観客を迎えたのが寄せ太鼓。入口近くの臨設のブースから鳴り響く太鼓の音はいや応なく観客の気分を盛り上げてくれました。今回は特別に土俵の上でも披露されました。力士を土俵に呼び上げる呼出という進行係が、太鼓打ちだけでなく、土俵整備や拍子木打ち、懸賞幕の提示、力士に力水を添え、塩を補充するなど、相撲の進行を交代で切り盛りします。
呼出は交代で寄せ太鼓、呼び上げ、土俵整備、拍子木、懸賞幕などをこなす
今回の相撲観戦で一番聴きたかったのが人気の呼出、利樹之丞の呼び上げでした。その高く澄んだ美声は幽玄のように会場に染み渡りました。さらに、重い力士がぶつかり合う鈍い音、ふんどしを叩く響き、力士の荒い息、甲高く鳴る桜の木でできた拍子木、木霊する行司のはっきよいの声、どれも素晴らしい音響でした。そして、41メートルもある天井を見上げると、マッシュルームと呼ばれる85個の音響拡散材。技術を駆使した英国の音楽の殿堂には、日本の国技にSF感の加わった神秘の世界が広がっていました。。
ホール天井の音響拡散材「マッシュルーム」(左 )と利樹之丞の呼び上げ(右)
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。



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