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Thu, 06 October 2022

第77回 証券化の真実と角を矯(た)めるG7金融当局

証券化の真実

証券化という金融手法がある。サブプライム・ローンで問題になったものだ。銀行や住宅金融会社は、低所得者向けの住宅ローンをいつまでも資産として保有していると、大きな貸倒(信用)リスクを抱えたままになる。これでは、資本÷総資産で計算される自己資本比率が低下し、銀行の信用問題に関わる。そこで銀行は、住宅ローンをまとめて売却し資産から切り離す。ただ住宅ローンを1本ずつ売るのは手間だし、買う方もまとめ買いしたい。このため税金の安いケイマン島などいわゆるタックス・ヘイブンに、ペーパー会社(特別目的会社)を作り、その会社が各住宅ローンを買って、投資家にはこの会社の株式や出資証券を売る。

この株式や出資証券は「有価証券」なので、これを資産の「証券化」と呼んでいる。銀行にとってはリスクのある資産が減り、自己資本比率が上がるので、次のビジネスがやりやすくなる。投資家にとっては、税金支払いや上場企業株などを持つ際に必要な情報開示を回避して資産を持つことができる。しかもそのリスクは格付会社などが目安を示してくれるし、さらには範囲が住宅ローンなどに限定されるのでリスクを測りやすい。

もちろんこれは物事の一面で、世の中には一方的に良いこともなければ、悪いこともない。証券化への投資はいろいろな事業を営む株式会社への投資と異なり、リスクが明快であるため、リスクが実現すると(サブプライム・ローンなら貸し倒れが増えると)一気に投資家が損をする。ペーパー会社は銀行借入をしないため、銀行が面倒を見ることもない。このため資金繰りが行き詰まって倒産してしまう。つまり証券化が良いとか悪いという話ではなく、そういう金融手段と合致した投資態度を持つ投資家のための1つの仕組みに過ぎない、ということになる。


G7の処方箋

4月に米国ワシントンで財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれた。そこで示された証券化に対する処方箋は下表の通り。

G7で示された証券化に対する処方箋
1. 100日以内に実行すべき施策
・金融機関は、複雑で売却できない金融商品のリスク、引当、市場価値をすぐに公表すること
・国際会計基準委員会は、急いで特別目的会社の情報開示や市場下落時の金融商品の市場価値評価の基準を作ること
・金融機関は当局の助けも借りて、リスク管理の実務を強化すること
・7月までにバーゼル銀行監督委員会(BIS)は流動性管理のガイドラインを、証券監督者国際機構(IOSCO)は、格付会社の行動規範を(より厳しく)改正すること
2. 今年中に実施すること
・資本、流動性、リスク管理についての監督強化: 自己資本比率規制強化
・透明性と価値評価の強化: 当局による金融機関の自己評価チェック強化
・投資家による格付会社の格付利用方法の変更: あくまで参考資料であることの確認
・国際的な監督当局と中央銀行の協力との情報交換を強化

いずれの施策も規制や管理強化だ。だが証券化を行ったのは金融のプロたちである。格付会社を丸々信頼し、その信用リスク・モデルが完璧と思っていた金融機関がいたとしたら、それはプロではない。特別目的会社では投資家が少なく、少数の株主が全体のリスクを知りうる状況にあるので情報開示になじみにくいし、だからこそプロがこの仕組みを好んで作った。このため市場価値はその閉鎖的な性質上、客観的には測りにくい。それを無理に測る基準を作れとは無理難題、会計士受難時代が続く。証券化のプラスマイナスを無視して、プラスのみを規制するような処方箋を市場取引が細っているときに講じると、一段と取引は細る。

今後、世界的に金融機関は取引や貸出を減らし、そのバランス・シートは縮小していく。投機資金と実需資金を区別なく圧縮すると、景気には確実に悪材料になるので、縮小の加減が課題になる。サブプライムの影響はまだ続くと見たほうがよい。

同じ問題は日本の不良債権問題でも起こった。当局が貸出のチェックを厳しくしたことで、資本のない日本の金融機関は急激に貸出を回収して、景気が悪化した。そして規制のコストは結局国民、いや今や世界中の人々が払うことになる。さらにこうした問題の構造をまったく説明せず、「G7でサブプライム問題の特効薬はなかった」と、あたかも対症療法のみを求めるような日本のマスコミの大政翼賛、大衆迎合体質は、意義が薄いと見てほとんどG7に関する報道をしなかった英国のマスコミと比べて、罪が一段と重い。

(2008年4月28日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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