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Wed, 04 December 2024

第111回 新聞に対する公的支援

新聞業界の危機

新聞社の経営は、難しい局面を迎えている。インターネットの普及により、新聞自体を購入しない、読まない人が増えているという構造変化に加えて、景気悪化のために企業が広告を大幅に減らしているからだ。

フリーペーパーの充実も、夕刊紙には大きな影響を与えている。ロンドン・ライトとロンドン・ペーパーの躍進によりイブニング・スタンダードの売上が激減し、ロシアの富豪に同紙の経営権が移ったことは記憶に新しい。

英国や豪州においては、既にマードック氏を始めとして、新聞の買収、M&Aが相当進んでいるが、米国では同一地域内における競合紙同士の合併や買収が反トラスト法によって禁止されている。だがこのままの状態では、地方紙どころか全国紙までが廃刊に追い込まれる恐れがあるとして、反トラスト法を改正すべきだという議論が米国議会で繰り広げられた。またフランスでは、既に政府が政府広告の拡大や日刊紙を18歳になる全国民に1年間無料配布することを決めている。公的な支援まで行って、新聞を保護すべきなのかどうか、今後、改めて各国で議論にな るであろう。

新聞は何のために

議論の出発点となるのは、新聞は何のためにあるのか、という問いではないか。資本主義を原則とする社会では、公的支援の対象となるのは、市場では上手く解決できない問題がある場合や、市場自身のより良い機能のために公的な立場からの運営が好ましい場合などに限られる。

こうした考え方から公的支援の対象としてよく問題になるのは、労働力(人)、医療、教育などである。ニューヨーク市では、いくつかの公立学校で、好成績の生徒に学校から賞金が出るという。日本では非正規労働の自由化の是非が問題になっている。英国は、成否はともかく、病院や学校においてPPPなどと呼ばれる公的部門と私企業との協同で先進的な取り組みを行っている。

新聞は、政府に関する情報を読者に広く、正確に伝え、時の政府に対して健全な批判が可能となるよう、いわば民主主義の土台となるというのが出発点としての考え方である。先人は、これを「社会の木鐸」と言った。大本営発表なり政府の公式見解をなぞったり、そういったスクープを競うことは新聞の本分ではなく、時の政府の発表や施策を批判的に検討する材料を国民に提供することこそが使命である。

こう考えると、新聞に対する公的支援は、時の政府からの支援ということで難しい問題をはらむ。援助を受けると批判しにくくなるのではないかという懸念がいつもあるからだ。そこで次の問題は、新聞の経営問題が市場で解決できないのかどうかということになる。

新聞の経営努力

まず問われるべきは、新聞社自身による存在意義の確認であろう。通信社が担うような第一次情報の伝達は、iPhoneを見れば明らかなようにやはりネットに一日の長がある。一次情報や短い論評で、新聞社の独自性発揮は難しいと考えられる。1日24時間にわたって人々の関心をどの程度ひきつけるかをめぐり、ネット企業やTV会社、エンターテイメントなど各企業はしのぎを削っている。YAHOO!やGOOGLEにアクセスすれば、新聞の見出しを読む必要は少なくなっている。そうなると新聞の付加価値としては、論評や視点の深さと情報の網羅性・一覧性が残ることになる。

前者は論者や記者の質が一段と問われることを意味する。記者の質を高めるためにはどうすべきか。スクープを評価しないことが考えられる。次に、政府などの情報公開を一段と促すことが必要だ。ある特定の出来事に対する情報公開請求も重要だが、政府に対して、分かりやすく情報を開示することを求める必要がある。

公開される情報自体の網羅性を検証し、その上で、整理を求める姿勢が出発点である。網羅性については政府関連のウェブサイトを見るとかなり進んできた。今後は整理が重要になろう。その上で、その情報に基づいた検証、論評が必要になると考える。

こうした洞察を安定して書ける人はそう多くはない。しかし洞察の対象は、グローバルから一つの小さな町までいろいろある。このため、こういった部分での競争になった場合、全国紙の数は限られざるを得ないが、ローカル紙の価値はむしろ高まるのではないか。


(2009年7月21日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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