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Thu, 28 March 2024

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ビジネスセミナー

「木村正人のロンドンでつぶやいたろう ライブ」第4回講演が開催
「情報最前線! インテリジェンスと危機管理――
ビジネス・パーソンが今身につけておきたい
知的護身術」

5月15日、ロンドンの金融街シティにある国際保険ブローカーWillisのオフィスにてWillis、Lloyds Banking Group、Reynolds Porter Chamberlain LLP主催のビジネス・セミナーが開催された。全4回シリーズの最終回となった今回のテーマは、「情報最前線! インテリジェンスと危機管理――ビジネス・パーソンが今身につけておきたい知的護身術」。国家や企業の危機管理のあり方を問うこのセミナーには、日本人ビジネス・パーソンを中心とする100名以上が参加した。

メイン・パーソナリティーを務める在英ジャーナリストの木村氏が冒頭の挨拶を行った後、壇上に上がったのが、一人目の特別ゲストとなるオリーブ・グループの柴田なぎさ氏。世界各国にセキュリティー・ソリューションを提供する民間警備会社である同社でプログラム・マネージャーを務める同氏は、この日のために本社があるドバイから来英。柴田氏自身が防弾チョッキを着用した姿や、事前トレーニングを行う様子を写した写真を見せつつ、危険地域へ出張する際の措置などについて語った。

またイスラム過激派組織として知られる「イスラム国」が、日本をも標的に含めると通告する声明を発表していることに注目。今後は日本企業も本格的な危機管理対策が必要となるとの見方を示した。続いて、これまでにオリーブ・グループが手掛けた事例を紹介。発砲事件を受けて一時中止を余儀なくされた合同プロジェクトの再開に向けての対策や、脅迫電話を受けた在ドバイ日本企業からの問い合わせへの対応など具体例について語った。

柴田氏によると、日本企業とアラブ諸国の企業では、危機管理意識の持ち方が大きく異なる。このため、中東諸国に事業進出を行う場合、現地企業または関係者と日本企業の間で認識のズレが生まれ、危機管理における協力体制を築くのが難しい場合があるという。また現地の人々と良好な関係を築くために社会貢献を目的としたプロジェクトを実施することなども、トラブルを回避するための手段となり得ると述べた。

インテリジェンスと危機管理
来場者からの質問に応じる在エディンバラ日本国総領事館総領事の北岡氏(写真左)、
在英ジャーナリストの木村氏(同中央)、オリーブ・グループの柴田氏

次に登壇したのが、在エディンバラ日本国総領事館総領事で、インテリジェンスの専門家でもある北岡元氏。北岡氏は、インテリジェンスを「判断・行動のために必要な知識」と定義し、さらには「利益を実現する知識」でもあることから、利益や損失が何であるかを見極める必要があると訴えた。北岡氏は具体例として、一枚の写真を提示。写真を評価・解析する目的が、殺人事件の捜査なのか、または写真コンテストの審査であるかによって、見るべき箇所や見方がいかに異なるかという点について論じた。

続いて北岡氏は、ともに1970年代に発生したパレスチナ解放人民戦線によるPFLP旅客機同時ハイジャック事件や日本赤軍関係者たちによるテルアビブ空港乱射事件などの事例を紹介した。予測することが不可能と見なされたこれらの事例を受けて、危機管理の分野においては「彼を知る」から「自分を知る」という方法論に転換しつつあると説明。敵対国や競合社を徹底的に研究するよりも、自国や自社の強みや弱みを把握し、様々な状況に備えるという方式が危機管理の分野における最前線となっていると述べた。

セミナーの終盤に行われた質疑応答では、会場から質問が殺到。中東地域における金融センターであるドバイを標的としたテロの可能性の有無や、日本が国益に対してどのような意識を持っているのかといった質問が寄せられた。続いて行われたレセプションでは、柴田氏と北岡氏の前に来場者が列を成すほどの盛況ぶりだった。

全4回にわたり行われた本セミナー・シリーズは今回で終了。スコットランド独立問題、マクロ経済・金融市場、英国のインフラ再整備事業そして危機管理といった広範なテーマについて各専門家たちが解説する本シリーズは、好評のうちに幕を閉じた。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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