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Fri, 04 October 2024

第126回 2000年の歴史を空中散歩できる遊歩道

夏になるとサムファイアという野菜がスーパーに出回ります。海岸沿いの湿原に生えるこの植物は、英国の夏の食材。ミネラル豊富でシャキッとした食感と磯の香りがたまりません。ここに含まれる塩分は生命体に最も有益と言われ、ロンドンの北東約60キロにある、海塩で有名なマルドンやアングリア地方の名産品です。日本では北海道の厚岸で発見されて厚岸草(あっけしそう)と命名されますが、生息地の塩田が全国から姿を消し、今はほぼ絶滅状態。

サムファイアとマルドンの海塩
サムファイアとマルドンの海塩

塩と言えば「敵に塩を送る」という日本の故事があります。英国にも似たものがあり、古英語詩「マルドンの戦い」の中で、フェア・プレイが賛美されています。アングロ・サクソン軍は911年のマルドンの戦いで、バイキングたちを一旦上陸させて公平に戦い、負けてしまいます。一方、日本の故事は美談ではなく、「塩の代わりに商人を送り、塩を高値で販売させた」と尾ひれがつきます。人間と塩の歴史は甘くなく、しょっぱいものかもしれません。

さて、シティのフォー・ストリート(ローマ壁の前にあるビフォー・ストリートが語源)に塩商人のギルド、ソルターズがあります。塩は調味料だけでなくローマ時代には通貨にも代用され、塩のラテン語「sal」からサラリー(給料)が派生しました。ソルジャーやサラダ、サラミもそうです。日本の盛り塩は、牛の塩好きを利用した牛車の招客手段が由来ですが、ギルドの脇にもミノタウロス(牛頭人身)の像があり、塩に魅せられてここに来たようです。

塩商人のギルド、ソルターズ
塩商人のギルド、ソルターズ

塩商人ギルドの脇にミノタウロス
塩商人ギルドの脇にミノタウロス

このギルドは1394年に勅許を受け、中世の塩の販売管理と化学分析を行う有力な職人組合でした。そうそう英語の慣用句「above the salt(塩より上側に)」は「上座」を意味します。中世では大量の肉料理を食事に出すことが権力の象徴とされ、招待客の地位を明確にするための政治道具にも使われました。当時貴重だった塩や胡椒を黄金の容器に入れ、その容器より奥に坐するのが上座で偉い人。料理は常に上座から下座に給仕されました。

このギルドの南側にはローマ壁の遺跡があり、今は庭園になっています。最近、周囲に空中遊歩道が設けられ、12世紀に建てられた近くの聖アルフェージ教会の遺跡も見下ろせますし、空中庭園もあります。21世紀の高層ビルに囲まれた空中遊歩道からローマ壁や中世の教会、塩商人のギルドを眺めていますと、2000年の歳月を一望するタイムマシンに乗っている気分になります。はて、この座席は上座を意味する「above the salt」かな……。

今も残るローマ壁
今も残るローマ壁

空中遊歩道と聖アルフェージ教会跡
空中遊歩道と聖アルフェージ教会跡

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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