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Wed, 30 November 2022

NHS 現役看護師が語るコロナ時代の医療


ピネガー由紀
ピネガー由紀
大学病院で働く現役NHS看護師、フリーの医療通訳者。日本での看護師経験はなく、成人してから義務教育(GCSE)を経て、2013年マンチェスター大学看護学部卒。正看護師として、外科部門で病棟、手術前アセスメント、入院管理、学生指導などを担当。2020年4月から感染状況により新型コロナウイルス感染病棟に招集をされている。自身のYouTubeチャンネルでは医療英語や看護師の日常を発信。
YouTubeチャンネル:イギリス現役看護師Yuki

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ファックス、ポケベル、AIが混在する職場

ポケベルやファックスと聞いて、皆さんは何を思われますか?「懐かしい!」と思う方から「それは何?」とネット検索をする方まで、年齢によって反応はさまざまでしょうか。

「2019年1月よりファックス機の新規購入禁止と、2020年3月までにファックスに変わる現代的な通信手段に切り替えること」。2018年12月、当時の保健相だったマット・ハンコック氏はNHS医療機関に通達を出しました。NHSはその当時でも約8000台のファックス機が日常的に使用されていました。私も看護学生時代から複数の病院に出入りしてきましたが、ファックス機はどこでも普通に見かけました。

ファックスが主に使われるのは院外とのコミュニケーションで、これには何度も泣かされてきました。強烈に覚えているのは、患者を退院させるときに訪問看護師へ引き継ぐための依頼状をファックスで送るときです。依頼状は院内システムに入力すれば5分程度で作成できるのですが、問題はそれを外部の訪問看護師に送るとき。職場のEメールはスタッフ各自に与えられているのに、書類の外部送信はなぜかファックスと決まっており、オンライン依頼状を紙に印刷してファックスを送るのですが、これがほぼ5割の確率で届いていないのです。こちらのファックス機には「送信済み」と証明書が発行されているのに、です。予定時間を過ぎても訪問看護師の来訪がない患者や家族は「一体どうなっているんだ!」と病棟の電話越しに怒鳴られて初めて、依頼状のファックスを先方が受け取っていないことに気付きます。そこからは病棟の看護師と訪問看護ステーションの間で「ファックス届きましたか?」「いえ、まだです」「こちらでは送信済みとなっていますよ?」と電話を片手にファックス機の前に張り付き、忙しい朝の業務を放置して、たった1件の依頼状を送るのに付きっきりになります。これは、外部へファックスで書類送信をするときは5割の確率で起こる「病棟あるある」でした。

2022年現在、多くのNHS病院でファックスは廃止となりましたが、まだ少数の病院では使用されています。今年初めにはファックス機を新たに購入したNHS病院が名指しで批判を受けていました。

ファックスに比べると、現役で使用されていることが多いのがポケベルです。病棟回診や外来診察のある医師、各病棟を回る専門看護師、理学療法士や栄養士、看護管理職など、常時動き回る業務のスタッフに連絡を入れるときの通信手段です。ポケベルには通話機能はなく呼び出し機能だけなので、呼び出されたら電話をして折り返す必要があります。朝、医師やコメディカル*等の回診でごったがえす病棟でポケベルが次々に鳴りだして、皆、真剣な表情で一斉に病棟にある電話を取り合う姿を見ると、今が2020年代だという事を忘れそうになります。しかし、ポケベルと併用して業務用のスマホやほかの院内Wi-Fiを使った通信機も使われていて、こちらも少しずつですが近代化はされているのだと感じます。

ポケベルとファックスのような骨董品が存在する一方で、NHSではAI化も進みつつあります。働く側も、利用する側にも便利で使いやすいシステムになる日が待ち遠しいです。

*栄養士、理学療法士、作業療法士、言語療法士などの医療従事者

 
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