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Thu, 28 March 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 48

チップ・バティ
Chip Butty

Chip Butty

英国人の夫は、日本のカレーが大好きです。ただ、初めて夕飯に日本のカレーを出したとき、文句というわけではないのですが、質問を受けました。「ご飯と一緒に食べるカレーにどうしてジャガイモがこんなにたくさん入っているの?」続けて「炭水化物に炭水化物を重ねて食べるなんて面白いね」とのコメントまで。

子供のころからずっと「カレーにはジャガイモがセット」と刷り込まれていた身には、あまりにも唐突な意見でびっくり。でも、ポテトをメイン料理の付け合わせにする英国人にとって、ライスがあるのに、その上メイン(?)のカレーにジャガイモを入れるというのが不思議なのだな、とその言葉を素直に受け止めました。

ところが! 数年前のある夜のことです。テイクアウェイで買って食べたフィッシュ & チップスの残りのチップスを食パンに挟み、サンドウィッチのようにして頬張っている夫の姿を見たのです。

「それは何!?」頭の中に「?」のマークがわいてでてきた私は聞きました。「チップ・バティ」と答えると、また口をもぐもぐする夫。「それって、炭水化物と炭水化物の組み合わせだよね? おいしいの?」思わず、いつかのカレーに対する夫のコメントに逆襲するような反応をしてしまいました。

このチップ・バティ、実は英国人にとっての「禁断の食べ物」。ジャンクにも程があると分かってはいる。だけど時々、無性に食べたくなる衝動を抑えきれない存在、なのです。

「チップ」はフライド・ポテト。「バティ」はバターをつけたパン。つまりは揚げジャガイモのサンドウィッチです。

バティという言葉自体は、古くは、バターを塗ったパンに具を載せたオープン・サンド的なものを指していたようです。それがリバプールを中心としたイングランド北部でサンドウィッチのスラングとして長く使われてきたのち、現在ではこの呼び名が全国的に汎用されています。

ところで、以前このコラムで「キュウリのサンドウィッチ」をご紹介したのを覚えていらっしゃいますか。あちらは「英国上流階級の証」とでもいうような高級な食べ物。一方、チップ・バティは「とにかくお腹いっぱいになることが重要」な、労働者階級に好まれてきたマッチョな存在感。サンドウィッチ一つとってもこれほどまでに守備範囲が広い英国フード、やっぱり奥が深いです。

食べてみての感想ですか? これが意外にも、日本のコロッケ・パンを思い出させる、どこか懐かしい味がしたのです。モルト・ビネガーをかけたり、ケチャップやブラウン・ソースをかけたりと、人によって合わせるものは色々。私はケチャップ少々だけにしておきました。

ところで、英国にはポテトチップスを挟んだ「クリスプ・サンドウィッチ」という、更に強烈なイメージのジャンク・サンドウィッチがあります。紙幅が尽きたので、こちらについてはぜひご自分の舌で味わってみてください。

チップ・バティの作り方(2人分)

材料

  • 厚切り食パン(白) ... 4枚
  • ジャガイモ(マリス・パイパー) ... 2~3個(大きめのもの)
  • サラダ油 ... 適量
  • バター ... 適量
  • 塩 ... 適量

作り方

  1. ジャガイモを拍子木(ひょうしぎ)切りにして、5分ほどゆでる。
  2. ❶の水を切り、冷蔵庫で10分ほど冷やす。
  3. ❷を150℃の油で揚げる。
  4. ❸を冷ましてから、再度190℃の油できつね色になるまで揚げる。揚げたてのところに好みで塩を振りかける。
  5. 食パンにバターをたっぷりとつける。
  6. ❺に❹のチップスを挟んで出来上がり。好みでモルト・ビネガー、ケチャップなどをかけてどうぞ。
memo

チップ・バティはフィッシュ & チップス店で買うこともできます(売っていないお店もあるので確認を)。家のオーブンで作ることのできる冷凍チップスは便利ですが、フィッシュ & チップス店で買ってきた揚げたてチップスで作ることにこだわる英国人多し。パンはブレッド・ロールを好む人もいますが、いずれにしても全粒粉ではなく白いパンが決まりです。

 
マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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