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Fri, 29 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

ジンバブエで政変
37年の独裁政権に終止符、英国との深い関係

先月中旬、アフリカ大陸南部に位置するジンバブエ共和国(人口約1600万人、首都ハラレ)で政変が発生し、37年間の長期政権を率いてきたロバート・ムガベ氏(93歳)が大統領を辞任しました。

英メディアは連日、ジンバブエの状況を報道してきましたが、注目度が高い理由の一つは、ジンバブエがかつて英国の植民地で、2003年までは英連邦に加盟していたつながりがあるからです。英国はかつてムガベ前大統領に「ナイト」の称号を与えた(1994年)こともあるのですが、2000年を境に関係が悪化しました。

ジンバブエの歴史を紐解いてみましょう。

13世紀から14世紀にかけてグレート・ジンバブエ王国が栄えていましたが、19世紀末になると、英政治家セシル・ローズが近辺開拓のために「英南アフリカ会社」を立ち上げて支配するようになります。鉱山開発権を取得したローズは、鉱山があった地域を「Rhodesia =ローデシア、「ローズの家」)と名付けました。地元住民は黒人でしたが、白人の入植者が入ってくる時代が続き、1923年、少数派の白人住民による投票で「南ローデシア自治政府(植民地政府)」が樹立。南ローデシアは現在のザンビアに当たる北ローデシアとともに英国の直轄植民地になりました。1953年には南北ローデシアが合併し「ローデシア・ニアサランド連邦」になりますが、人種隔離政策(実質的な「アパルトヘイト」)によって黒人住民から反発を受け、1963年に連邦は解消。翌年、北ローデシアはザンビアとして独立しました。

南でも黒人の解放闘争が活発化しましたが、イアン・スミス率いる南ローデシア自治政府が弾圧してゆきます。1965年、スミスの指揮の下、自治政府は「南ローデシア(ローデシア共和国)」として一方的に英国からの独立を宣言しました。ここで国際連合が経済制裁を開始しましたが、白人支配体制を止めることはできませんでした。黒人によるゲリラ戦が激化し、暴動が多発。政府と反政府ゲリラの間に平和的解決で合意がなされたのは1979年です。 翌年、ジンバブエ共和国として正式に英国から独立しました。

ムガベ前大統領は黒人住民による抵抗運動の英雄でした。人口の多数派を占めるショナ族からの大きな支持を背景に、1980年4月、初代首相に就任します。当初は白人との融和策を表に出し、その政治は「黒人による国家建設のモデル」と称賛されました。教育や医療に資金を投じ、乳児死亡率を低下させ、高い識字率を実現したことで「ジンバブエの奇跡」として世界中から高く評価され、1987年には大統領に就任しました。

風向きが変わったのは2000年です。白人の財産を保障なしに没収することを認める法案が議会で可決されたのですが、個人の私有財産の侵害は人権侵害になりますので、欧米諸国はこれに強く反発し、経済制裁を実施しました。ムガベ大統領は白人対黒人の構図を意識し、対決姿勢を表面化させてゆきます。

経済状況が悪化したことで、急激に増えた財政赤字解消のために通貨ジンバブエ・ドルを乱発し、これがハイパー・インフレにつながりました。2009年には複数外貨制(他国数カ国の通貨を国内流通通貨とする制度)を導入。独裁政権が続く中、野党勢力の迫害、野党の政治家や支持者への暴行、虐殺、拉致なども行われたと言われています。

英国は、土地改革などを巡ってジンバブエと対立し、大統領選のたびに不正があったと指摘してきました。2002年には経済制裁を科し、2008年にはムガベ氏に与えたナイトの称号を剥奪。人権を侵害し、民主化プロセスを無視したというのがその理由です。

今年11月に起こった軍部によるクーデターは、流血事件が発生しないまま、ムガベ氏の辞任に至りました。同24日に暫定大統領に就任したムナンガグワ前第1副大統領の下、「無血の革命」はどこまで進むでしょうか。

 
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