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ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Wed, 28 October 2020

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

フランスからの密航者が急増今年はすでに約4000人に - 強硬手段で追い返すべきなのか

このところ、30度を超える真夏日が続きました。家族連れで、あるいは友達を誘って海岸に出掛けた方も多いのではないでしょうか。

海といえばそこで過ごす楽しいひとときを連想しますが、その一方で、フランス北部からゴムボートなどで英仏海峡を渡ってくる人々の様子が報道されています。渡航途中で英当局に密航者として取り押さえられた人の数は過去3年間で増え続けており、英下院内務問題小委員会によると、2018年には約500人、昨年は1890人、今年は6月時点で2000人に到達。BBCの調査では、7月に約1000人の密航者が出ており、現在までにすでに4000人を超えるほど急増しています。

ゴムボートや小型船に乗ってやってくる密航者たちの多くが、内戦や紛争が続くイエメン、エリトリア、チャド、エジプト、スーダン、イラクの出身です。密航仲介業者に大金を払い、危険な海の旅に出ますが、この裏にはアジアやアフリカ大陸から欧州に人を運ぶ密航ビジネスを牛耳る犯罪組織の存在があります。これまではボートで海を渡らせる手段のほかに、トラックに忍び込ませる方法も使われてきましたが、英仏当局が港湾での監視を強化したため、ボートで海を渡る手段が選ばれるようになったようです。

国際海事法によると、沿岸国には遭難した船舶や人命を救助する義務があります。渡航中に英当局に救助された人々は国境警備を担当する「UK ボーダー・フォース」によって短期の収容センターに連れていかれます。その後、難民申請を希望し、生活に必要なお金を持っていない場合、国内各地にある収容センターに入所して内務省による審査結果を待つことになります。欧州連合(EU)には域内で最初に到着した国で難民審査を行う規則(「ダブリン規則」)があり、EU離脱の移行期間中にある英国は、フランスを含む欧州大陸の国から船に乗ってきた人々を送り返す権利を持っていますが、離脱後はこの権利を失うことになりますね。

内務省によりますと、今年3月までの1年間で英国への難民申請件数は3万5099件。難民認定は自国での迫害の恐れから他国に逃れた人を難民とする国連難民条約の定義を使いますが、そのほかにも人道上の保護、難民としての在留期間(約5年)の延長、シリア難民への再定住プログラムの提供など複数の理由から、新たに年間2万339人に対し難民認定ほかの保護支援が提供されました。3月末次点、英国では約4万8000人が住居、必要最低限の生活を送るための扶養手当などの支援を受けています。

世界に目を広げてみると、昨年末時点で自国を強制的に出ざるを得なかった人は約7950万人いたそうです(難民支援組織「難民カウンシル」調べ)。そのうち2960万人が難民です。シリアだけでも戦争により670万人以上が国を離れました。シリア難民を最も受け入れているのがトルコで、昨年末時点で360万人を支援しているそうです。英国ではシリア難民に対する再定住プログラムを通して、年末時点で約2万人を保護対象にしました。

ただ一方で、英政府は密航者の急増を抑えようと必死です。2018年にはフランス政府と協力して、ドーバー海峡の北海の出口に面したカレーに情報収集センターを設置し、今年7月にはプリティ・パテル内相がフランス政府と密航業者を撲滅するための共同情報部隊を創設する文書に署名しました。内務省の移民政策実行隊は国内404件に及ぶ密航組織・個人の検挙を行い、259人を逮捕、100人が不正取引で有罪となりました。現在、21人の密航業者が受刑中だそうです。パテル内相は密航船を海上で追い返すために海軍の力を借りる案を示唆していますが、海上の緊張感を高める、あるいは、ボートに乗っている人々の身の危険を増加させる可能性もあるでしょう。渡ってくる人々の命の保護を重視する施策が望まれます。

キーワード

Refugee Convention(国連難民条約)

正式には「難民の地位に関する条約」で、1951年国連で採択し、54年に発効。難民の定義は「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々を指す。日本は1981年に加入。

 
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