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Thu, 11 August 2022

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

ロンドンに新線エリザベス線がいよいよ開通 - 3兆円を超える大型プロジェクトが東西をつなぐ

5月24日、ロンドンの東西をつなぐ新線「エリザベス線」が一部開通しました。イメージ・カラーは紫色。総工費188億ポンド(約3兆円)をかけた、欧州で最大規模のインフラ・プロジェクトの一つと言われています。

エリザベス線は開通前には「クロスレール」と呼ばれていました。市内中心部を貫通して東西を直結させる、まさに「横断鉄道」です。総延長は118キロ。専用に作られた新型車両「クラス345」が、時速145キロの高速で西はバークシャーのレディングからロンドン中心部に新設された42キロのトンネル区間を通り抜け、東はエセックスのシェンフィールドまでを横断します。2009年の建設開始から13年後の開通ですが、今回オープンしたのはロンドン市内西部のパディントン駅から同南東部アビーウッド駅までの区間です。当面、パディントンから西のレディングまで、そしてリヴァプール・ストリートから東のシェンフィールドまでは在来線を使いますが、今回の一部開通時からエリザベス線として名称が統一されました。全線開通は来年5月の予定です。

新線はロンドン市外から中心部への移動時間を大きく短縮させ、接続性を高めるとともに混雑を緩和することを狙っています。ロンドン中心部の輸送力は10パーセント増加し、今まではパディントンからカナリー・ワーフまで地下鉄で30分かかっていましたが、新線を使えば17分に短縮されます。市外から歓楽街ウエストエンド、金融街シティやカナリー・ワーフまでの通勤時間が45分以内になる人は現在の500万人から650万人に増えるそうです。新設の10駅を含む41駅をカバーする新線は年間2億人の乗客が利用し、英国全体に420億ポンド(約6兆6800万円)の経済効果がもたらされると予測されています。ヒースロー空港に直結する分岐線も用意されており、空の旅がより便利になりそうです。

5月末時点で、電車の頻度は1時間に12本。平日午前6時半から午後11時までの運行で、エリザベス女王の在位70周年「プラチナ・ジュビリー」の祝賀イベントがある6月5日は例外ですが、日曜日はソフトウェアのテストや更新のため、しばらく運行停止となります。秋までには1時間22本に増加予定です。

第二次世界大戦後、ロンドン中心部を間に挟み、東西を直結させる鉄道を造るという提案がいくつも出されましたが、クロスレール計画が本格的に議会に提出されたのは1991年でした。ロンドン交通局(TfL)と運輸省が共同開発者となり、2009年に建設工事が始まりました。当初は2018年に開通の予定だったのですが、新線と在来線のつながりを含むプロジェクトの複雑さやITシステムの改良に時間がかかり、今年になってしまいました。費用も当初予算から大幅に増え、2012年のロンドン五輪開催費用の2倍に相当する金額となりました。エリザベス線を運行するTfLによると、費用の70パーセントはロンドンが負担。そのうちの約30パーセントはロンドンの公共交通機関からの運賃収入、約40パーセントがロンドンのビジネス界から。残りは政府負担分です。

市外から市内への移動時間が大幅短縮され、交通の便が良くなることで、より大きな雇用創出や経済活性化に結び付くという前提を基に新線は建設されたわけですが、懸念も指摘されています。というのも、ロンドンの交通機関の利用者数は年々減る傾向になっており、今もコロナ禍以前と比較すると利用率は70パーセントぐらいにしか回復していないのです。コロナ禍以降、自宅で仕事をする選択肢が支持を得るようになってきましたよね。テクノロジーの発展で自宅から会議に参加したり、娯楽を楽しんだりすることも容易になりました。人々の考え方や行動様式が変わってきています。期待したほどに十分な収益を上げることができるでしょうか。

キーワード

Crossrail Ltd.(クロスレール社)

2001年、エリザベス線を建設するために設置された会社で、ロンドン交通局(TfL)の子会社。開通前まで新線はこの名称で呼ばれた。運営資金はTfLと運輸省が負担。ロンドンの南北をつなぐ「クロスレール2」も計画されたが、総工費が330億ポンド(約5兆2700億円)と推定され、2020年、TfLは計画を一時停止。しかし、エリザベス線の開通日にボリス・ジョンソン首相はクロスレール2計画の再開を示唆した。

 
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