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Thu, 28 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

2022年の流行語勝手気ままにゴブリン・モード - 新型コロナのロックダウン時から人気に

いよいよ、今年も終わりが近づいてきました。毎年このころになると発表されるのが、オックスフォード大学出版局の辞書部門「オックスフォード・ランゲージズ」による「今年の言葉」です。その年の価値観やムードを代表し、今後も文化的な重要性が長く続きそうな言葉や表現が選ばれます。昨年までは、辞書編集者たちが数十億にも上る言葉を保存したデータベースから選び取っていたのですが、今年は初めて、候補の言葉をあらかじめ絞り込んだ後、読者の投票で決めることになりました。34万2079人から回答があり、その93パーセントに選ばれたのが、「ゴブリン・モード」(Goblin mode)でした。「ゴブリン」とは欧州の民間伝承に出てくるいたずら好きの精霊です。ゴブリン・モードとは俗語で、「誰はばかることなく気ままで、怠惰でいい加減、欲張りな態度」を指します。「社会規範や期待を度外視する」の意味で使われることが多く、「ゴブリン・モードになる」「ゴブリン・モードでやる」といった表現で使われます。

この言葉がツイッター上に現れたのは、2009年。でも、ソーシャル・メディアで大きく拡散していったのは今年2月でした。20年春以降、新型コロナの感染拡大を防ぐためのロックダウンがありましたが、次第に行動規制が解除され、多くの人が外に出掛けるようになった時期と重なります。コロナ前のようにきちんとした格好で出かけるような「通常の生活」には戻りたくないという人の思いが、「ゴブリン・モード」を使ってソーシャル・メディア上で発信されていました。「ガーディアン」紙(3月14日付)がこの言葉を広めた人物による説明を紹介しています。ゴブリン・モードとは「午前2時、長いTシャツ以外は何も着ない姿でのろのろと台所に向かい、変わったスナックを作る」。つまり「自分がどう見えるかについては全く無視する。他人がどう見るかなんて、気にも留めていない」状態だそうです。米言語学者ベン・ジマー氏は「まさに今年を凝縮する言葉だ」と評価しています。「社会的慣習を棄てて新しいものを受け入れてもいいのだと思わせる」言葉だからです。確かにコロナの前と後では、働き方を含めて私たちのものの見方が変わりました。

次に、全体の4パーセントにあたる1万4484票を集め、2番目に人気が高かったのが、コンピューターが作り出す3次元の仮想空間を表す「メタバース」です。「高次の」「超~」の意味を持つ「メタ」と「宇宙」「世界」などを示す「ユニバース」を組み合わせた言葉ですが、最初に記録されたのは1992年。その後は主として空想科学小説の中で使われてきましたが、昨年10月、フェイスブック社がメタバースの構築に力を入れるため社名を「メタ」に変更したことで、その意味や、どのように利用するべきか、将来どうなっていくのかなどが話題に上るようになり、今年10月までにこの単語の使用頻度が以前の4倍に増えました。今後、仮想空間内の倫理について、あるいは社会が完全にオンライン化する未来がやってくるのかなどの議論のなかで、メタバースという言葉ががさらに使われるのではないかとオックスフォード・ランゲージズは予想しています。

第3位は全体の3パーセントにあたる8639票を集めた、「私は~とともに立つ、~を支持する」という意味の「#IStandwith」でした。「Stand with」という英語表現は14世紀から存在していましたが、ハッシュタグ付きでソーシャル・メディア上で拡散されるようになったのは、2009年です。特定の理由、グループ、人物などとの連帯感を示し、オンライン上の運動や自分の信念を表明する言葉となりました。特に使用頻度が増したのは3月以降。2月末のロシアによるウクライナ侵攻を受けたもので、「#IStandwithUkraine」「#StandwithUkraine」がソーシャル・メディアを駆け巡りました。皆さまもどこかで目にしたのではないでしょうか。

キーワード

Goblin(ゴブリン)

オックスフォード辞書によると、欧州の「民間伝承に登場する、いたずら好きで、醜く、小人の姿をした生き物」。12~14世紀発祥の言葉で、古代フランス語「gobelin」に由来する。関連語に伝承の精霊を意味するドイツ語の「kobold」、ギリシャ語で「kobalos」がある。中世ラテン語の「Gobelinus」も同義語。

 
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