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Thu, 28 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

王室廃止主張する「リパブリック」どんな組織か - 戴冠式のデモで逮捕者も

チャールズ国王とカミラ妃の戴冠式が無事終わり、国歌斉唱時の「God save the King」(神よ、国王を守り給え)にもようやくなじんできたこのごろです。テレビを見ていると、英国全体が戴冠式に沸いたかのように思えますが、そうではないことを示したのが、「私の王ではない」(Not my King)などのプラカードを掲げて君主制への抗議運動に参加した人々の姿でした。

BBCによると、5月6日の戴冠式当日、ロンドンのほかにウェールズのカーディフ、スコットランドのエディンバラやグラスゴーなどで君主制反対のデモがありました。中でも注目を集めたのがロンドン中心部での抗議デモです。トラファルガー広場、ザ・マル、そのほか戴冠式のパレードが行われるルート近辺などでデモがあり、60人を超えるデモ参加者が逮捕されたのです。大部分は「公的不法妨害を引き起こす疑い」を理由に、王室廃止を提唱する組織「リパブリック」(Republic)から8人、環境運動組織「ジャスト・ストップ・オイル」の20人、動物の権利を守る運動「アニマル・ライツ」のスタッフやボランティア14人などが逮捕されました。


リパブリックのメンバーで逮捕された人の中に組織の代表グレアム・スミス氏がいました。16時間の拘束後、釈放されています。スミス氏はリパブリックのウェブサイトで声明文を発表し、逮捕は「民主主義社会と、この国の全ての人の基本的権利に対する直接の攻撃だ」「英国で平和的に抗議を行う権利はもはやなくなった」と述べました。警視庁によると、6日朝、リパブリックが使う車両の中に、抗議者が路上に設置される防護柵などに体を固定する備品が見つかったことで、逮捕に踏み切ったそうです。戴冠式の数日前、このような行為を違法とする公的秩序法が成立したばかりです。リパブリックのメンバーでスミス氏と同様に逮捕されたマット・ターンビル氏は、プラカードを支えるためのストラップが別用途の備品であると「誤解された」と話しています。

警視庁の対応を疑問視する声がロンドン市長サディク・カーン氏や野党議員らから出てきました。労働党議員クリス・ブライアント氏は、ツイッターで「言論の自由は立憲君主制の根幹をなすものだ」と述べています。また、イングランド北部ノーサンブリア警察の元警察署長スー・シム氏は抗議者の逮捕に「非常に失望した」、新法は「厳格すぎる」と批判しました。


今、どれくらいの人が王室を支持しているのでしょうか。世論調査会社「ユーガブ」とBBCが共同で行った世論調査によりますと、「王室制度が続くべき」と答えた人は58パーセント、「投票によって選ばれた人が統治するべき」が26パーセント、「分からない」が16パーセント(4月中旬調べ)。65歳以上では王室継続支持が80パーセント近くに上りますが、18~24歳の若者では32パーセントに激減します。王室に対する関心度については、いくらかでも関心を持っている人は全体では42パーセント、関心がない人は58パーセントでした。意外と「関心がない」人が多いですね。

17世紀の一時期を除いて、英国の王室は約1千年の歴史を持ちます。これまで、王室制度ではなく共和制の導入を支持する人は20パーセント前後といわれ、その比率は今でもあまり変わらないようですが、70年もの治世を続けたエリザベス女王が昨年9月に死去し、今後も王室制度を続けるのかどうかを考える機会が到来したともいえるかもしれません。リパブリックは国民が王室を投票で選ぶことができないので「その特権や影響力の誤用、無駄遣いに説明責任を持たせることができない」、「民主主義に反する存在」だと主張しています。国民の投票によって国の代表者を決める大統領制はアイルランドやフランスで導入されていますよね。皆さんはどう思われますか。

キーワード

Republic(リパブリック)

1983年に形成され、2006年にキャンペーン組織として正式に発足。世襲制の王室制度廃止のためにロビー活動を行う。大統領制など国民が元首を選ぶ制度を志向。2010年代から存在感を高め、2012年のエリザベス女王在位60周年「ダイヤモンド・ジュビリー」ではテムズ川沿いで抗議活動を展開した。昨年9月8日の女王の死去から10日間で会員数が1000人増加し、活動への寄付金も急増した。

 
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