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Sat, 27 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

キャサリン妃の写真「加工」で大騒ぎに
- 複数の通信社が「母の日」画像を問題視

ウィリアム皇太子の妻キャサリン妃(Catherine, Princess of Wales)が、今年の「母の日」である3月10日朝、ソーシャル・メディアに開設の夫妻の公式アカウントを通じて、家族の写真を公開しました。ウィリアム皇太子が撮影したもので、キャサリン妃が中央の椅子に座り、画面左から次男ルイ王子、長男ジョージ王子、長女シャーロット王女が同妃を囲む構図です。キャサリン妃と子どもたちはカメラに向かって大きな笑顔を見せています。子どもたちの笑顔がそろった瞬間を捉えるのはかなり難しかったのではないでしょうか。久しぶりにキャサリン妃の健康そうな姿を見て安心した人が多かったようです。

というのも、同妃は1月に腹部の手術を受けて2週間入院し、現在自宅療養中となっているからです。病名は伏せられ、キャサリン妃が公には姿を現さないままで2カ月近くが過ぎていました。公務復帰は4月からといわれていますが、キャサリン妃の病状についてさまざまな憶測が飛び交いました。「病気が深刻過ぎるので公にできないのではないか」という声も出ました。こうした憶測を今回の写真公表で振り払い、国民に安心感を与えることを皇太子夫妻は狙ったのでしょう。

でも、この努力は裏目に出てしまいました。キャサリン妃が結婚指輪をしていないこと、まだ肌寒い日々が続くなか、写真の背景には青々とした緑が映っていたことなどから、ソーシャル・メディア上で写真の信頼性について疑問の声が上がるようになりました。10日夜、AP通信が「写真が加工された可能性がある」として配信の取り下げを発表し、11日までにロイター通信、PA通信、ゲッティイメージズなどもこれに続きました。疑問が裏付けたされたことになります。

通信社が王室からの写真を取り下げるという前代未聞の措置を取るほどの「加工」とは、一体どういうことなのでしょう。王室専属写真家だったイアン・ロイド氏が「タイムズ」紙(3月11日付)に語ったところによると、昔から、専属写真家が王室の写真を加工すること自体は珍しくないそうです。また、スマートフォンなどを使って私たちが日常的に写真を撮影するとき、共有するために微調整することはよくありますよね。

AP通信では、デジタル写真に対し色の補正やトリミングなどの微調整は認めるものの、背景をぼやけさせる、明暗差を変えるなど元の画像を大きく変える編集を施した画像は使わない規則があるそうです。写真で伝えようとする現実そのものを変えてしまうことになるからです。「ガーディアン」紙の調べによると、シャーロット王女の袖口の一部が欠けているように見えるなど、20カ所で「加工」の後がありました。使われた編集ソフトはAdobe社のフォトショップと推定されています。

どのメディアも写真加工疑惑をトップ・ニュースとして報じるなか、新聞記事とともに掲載された読者からのコメント欄には「どうしてこれほど大騒ぎするのか」「キャサリン妃がかわいそうだ」というコメントも寄せられました。

11日夜になって、キャサリン妃はX(旧ツイッター)の公式アカウントから謝罪の声明を出しました。「多くのアマチュア写真家のように、私もときどき編集することがあります。家族写真が混乱を招いたことについて、お詫び申し上げます」。写真好きのキャサリン妃はこれまでにも子どもたちを撮影してその画像を公開してきましたので、残念な顛末となりました。ただ、この声明では実際のところはどの部分を何のために編集したのかが見えてきません。どこまでがオリジナル画像なのでしょう。王室は編集前の画像を公開する予定はないようですので、現在は真相が分かりません。AIを使って人手を介さずに芸術作品を生み出すことも可能になった今、王室には以前よりもはるかに真実性、正確性が求められるようになったのかもしれません。

キーワード

Catherine, Princess of Wales(ウェールズ公妃キャサリン)

キャサリン妃の正式名称。メディア報道では愛称「ケイト」とも呼ばれる。1982年1月、英南部バークシャーのレディングでキャサリン・エリザベス・ミドルトンとして生まれた。セント・アンドリューズ大学在学中にウィリアムと交際を開始。2011年に結婚した。メンタルヘルス対策や幼児教育の重要性を訴える活動を10年以上続けている。

 
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