いよいよ投票日
選挙賭博で保守党支持に負の影響?
4年半ぶりに行われる総選挙の投票日となりました。全国650選挙区のうち、過半数を獲得して単独政権を発足させるためには、326議席以上が必要となります。勝利がほぼ確実視されている最大野党・労働党が与党・保守党にどれほどの差を付けるのかが注目ですね。
選挙戦中に保守党の足を引っ張ったのが賭博問題です。どの政党あるいは候補者が勝つのか、あるいは選挙時期はいつになるのかなどを賭博対象にすることは珍しくないでしょう。でも、今回は特別な事情が発生していました。リシ・スナク首相は以前から「総選挙は今年下半期以降」と発言していたため、大方の予想は秋の実施でしたが、5月22日、首相は官邸前で雨に濡れながら7月4日に実施と発表し、多くの人を驚かせました。この日が投開票日になることを事前に知っていたのは、首相側近を含むごく一部の人だけでした。
ところが、保守党関係者数人が選挙日程を事前に知っていたことを利用して賭け行為を行い、不当な利益を得ようとした疑惑が出てきました。規制当局の調査対象になっていたのです。内部情報をもとに賭けを行うことは「2005年ギャンブル法」42条の違反となります。これは不正行為を対象とし、もし違反したとなれば、最長2年の禁固刑が課されます。賭けの受付や管理を行う専門業者は不審な賭博行為を察知したときに、賭博監督機関の「ギャンブル委員会」(the Gambling Commission)に通知することが義務化されているのですが、総選挙発表の直前数日間に「7月に総選挙」への関心が急に高まったため、専門業者らが委員会に通知して調査が開始されたというわけです。
調査対象となっている1人が、首相の議会担当秘書官クレイグ・ウィリアムズ氏です。6月12日、ギャンブル委員会から調査されていることを公表しました。「大きな判断ミスだった」と述べ、同氏は謝罪しました。ウェールズの選挙区から立候補していたウィリアムズ氏は首相による総選挙発表の3日前、投開票日は7月になるという賭けをしていました。イングランド南西部の選挙区で立候補していたローラ・ソーンダース氏、その夫で保守党の選挙対策幹部トニー・リー氏も調査対象となりました。リー氏は現職を離れることを発表しています。6月25日、保守党はウィリアムズ氏とソーンダース氏の公認取り消しを発表しました。これに先立つ同17日には首相の警備チームの警察官が選挙日程について賭け行為を行っていた疑いがかけられ、公務における不正行為でロンドン警視庁に逮捕されています。6月末までに保守党関係者では5人、警察関係者では少なくとも6人が疑惑の調査対象となっているようです
英国で賭け事をする人の割合は成人の半分だそうです。街中では賭け専業の店舗もあちこちで見掛けますよね。それだけに、「政治家が自分たちだけが知り得る情報を使って、不当に有利な賭けをしたのではないか」という疑念が出ると、大きな話題となりました。でも、政治家が賭け事をすること自体は珍しくなく、保守党に限った話でもありません。労働党は、今回の総選挙で自分が負ける側に賭け、ギャンブル委員会に調査されている立候補者ケヴィン・クレイグ氏の公認を取り消しています。内部情報を得て、それを使って不当に利益を得るような賭けをしたのか、それとも特別な内部情報を持たずに賭けをしたのか。ここが争点ですが、「内部情報」の範囲をどこまで広げるかが難しいのです。過去20年間でギャンブル法に違反して、有罪となった事例は一つだけ。でも、もしごく限られた人だけが知っていた投票日についての情報を悪用したのだとすれば、国民の怒りを買うのも仕方ないでしょう。
総選挙後、白黒はっきりさせて欲しいもので すね。
The Gambling Commission(ギャンブル委員会)
賭け事の規制と「2005年ギャンブル法」の遵守を監督する政府組織で、2007年に発足。全ての人が公正で安全に賭け事が行えるようにする。「内部情報」の不正利用を調査し、処罰を決める権限を持つ。内部情報とは「(該当する人が)ある出来事に関係するために得られた、公的空間にはない」情報を指す。また、不正利用とは不公平な、あるいは不正と思われるようなやり方での賭博行為を指す。