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ロンドンのゲストハウス
ven 02 décembre 2016

21. 「カニキュル」到来

地球の温暖化が確実に進んでいることを最も実感しているのはフランス人かもしれない。パリ市内の気温が7月1日には何と39℃を記録した。また、カラスが鳴かない日はあっても、「カニキュル= canicule(酷暑)」という奇妙な響きの単語を聞かない日はない。テレビ、ラジオをはじめメディアは競って「カニキュル」の報道合戦だ。

エッフェル塔近くの噴水で水遊び)
気温が39℃まで上がった1日、パリのエッフェル塔近くの噴水で水遊びをする人々

いわく、「58県でカニキュルのレベルがオランジになった」「仏南部がカニキュルのため、(涼しい)ノルマンディー地方にバカンス客が殺到」「カニキュルのためパリ市内の五つの公園が(涼しさを求める市民のために)夜間も開放」「保健省がカニキュル用の無料の特設電話を設置」「地方によっては郵便配達員が孤立している老人に飲料水を配布してカニキュルで衰弱しないように備えている」などなど。

「オランジ(オレンジ色)」はカニキュルの度合いの最高度「4」を示すものだ。度合が「3」になると「警戒段階」となり、各県知事は「カニキュル管理計画」に基づいてさまざまな措置を講じることになっている。老人や身体障害者らのための飲料水配布や冷房装置のある施設に移動されるなどだ。「4」になると、自然発火による森林火災に備えたり、炎天下での労働禁止などの措置が国家レベルで発動されたりする。

こうした「カニキュル」に対する異常ともいえるほど念入りな対策が国家レベルで講じられるようになったのは2003年夏の「カニキュル」の教訓による。この「カニキュル」という単語が一般的になじみになったのも同年の夏以降だ。この夏の最高気温は仏南部ガール県で8月2日に記録した44.1℃だった。体温を約10度も超えたわけだ。仏中部ヨーヌ県オセールでは40℃の日が1週間続いた。パリでも35℃以下に下がらない日が9日間続いた。通常、日中は暑くても夜間には温度が下がるものだが、この年は、パリでも約1カ月間、昼夜を問わず30℃以上が続いた。

その結果、約1万5000人の老人や病弱者が「カニキュル」のために死亡し、管轄大臣のマティ保健相のクビが飛んだ。「カニキュル」による悲劇の最中に涼しげな別荘の庭先でポロシャツ姿でテレビの取材に応じたからだ。老人や病人が死亡しているという国家の一大事に別荘で悠々とバカンスを満喫しているとは何事か。せめて威儀を正して背広にネクタイ姿で取材に応じろ、というわけだ。

シラク大統領(当時)もまっ黒に日焼けして夏の終わりにバカンス先から戻ったが、「カニキュル」で死亡した身寄りのない老人などの合同葬を執り行ったので、やっとごうごうたる非難は免れた。

この年、当然ながら扇風機は売れ切れ、日本製の小型冷房装置が飛ぶように売れた。

それまで、フランスの一般家庭はもとよりレストランやカフェ、そしてタクシーも冷房装置があるのはまれだった。冷房装置を取り付けた店は誇らしげに、「冷房あり」の張り紙をドアなどに張り付けたものだ。冷房装置があったのは映画館ぐらいだったので、映画館は「満員御礼」の状態だった。

2003年以前は、ちょっと暑くなると、フランス人は窓をしっかりと閉めて暑さを防いだ。日本の場合、暑いと窓を開けて風を通すのが普通なので、このフランス人の習慣には驚かされた日本人は多い。確かに石造りの建物の場合、厚い石の壁に阻まれて暑気が室内に侵入してこない。ゆえにフランス人には風鈴の音を聞いて暑さを凌ぐという風流な習慣はない。

「カニキュル」はラテン語で「子イヌ」を意味し、シリウス座の別名でもある(日本ではシリウス座は「大イヌ座」と訳されている)。そのシリウス座は古代、エジプトでは夏の初めには太陽が昇ると同時に天空に現れた。ゆえに、「夏の初めの暑い時期」が転じて、「夏季の酷暑」を意味するようになった。

年末にはパリで「第21回COP(気候変動枠組み条約締結国会議)」が開催される。

主催国であるフランスは準備に余念がないが、「カニキュル体験」が大いにものをいいそうだ。2020年までに温室効果ガス削減の暫定目標である「2005年比」でフランスなど欧州連合(EU)は20%減、米国、カナダは17%減だ。日本は3.8%減で「低すぎる」と批判を浴びている。湿度が高い日本に「カニキュル」が訪れたら、どうなるか。想像するだけでも卒倒しそうだ。(昌)

 

 

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