カトリック教会のシトー会は、中世期勢力を誇った一派で、孤独、清貧、質素を信条とする厳しい戒律の修道会でした。1098年にブルゴーニュ地方ディジョン近郊のシトーという村に最初の僧院が作られたのが起源といわれております。同修道会はヨーロッパ各地に影響力を広め、約700カ所に修道院を築き上げました。フランス国内だけでもその数は約180に及びます。
21世紀を迎え、人々の生活は一変し信仰心が薄れた時代になっても、石造りのシトー会修道院は900年の歳月を越え、現代人に何かを伝えようとしています。 南仏プロヴァンス地方には、セナンク、シルヴァカンヌ、そしてル・トロネの3カ所にシトー会修道院が残っています。建築された時代や建造物の規模と設計に共通点がみられるので、三姉妹にたとえられます。

教会の屋根と修道院の時を刻んだ鐘楼
ル・トロネ修道院の特徴は 、村の中心から数キロさらに山道を入った人里離れた森の中にひっそりと建っています。1160年に建造が開始され、その15年後に教会と回廊がまず完成しました。そして1190年まで、粘土から瓦を焼き上げ、梁も山の木を伐採し乾燥させてから作り上げるという、現代人には想像できないような作業が続けられました。まさに修道僧たちの苦労の賜物として作り上げられたのがこの修道院です。ロマネスク様式の代表的なこの修道院の内部には壁画や彫刻のような装飾がまったくなく、石のアーチと壁が見事に積み上げられています。

ミサのある日曜日、足早に入り口へと向かう一人の女性
現存の建物は教会、回廊、修道僧の寝室、総会室、食糧貯蔵室、補助僧の棟で構成されています。補助僧とは、オリーブ油を絞ったりワインを製造したり農業に従事して、修道院の運営に直接たずさわった僧のことで、仏語では「convers」と言われ、修道僧「 moine」と区別されます。補助僧たちは彼ら専用の棟で寝起きし、回廊には修道僧しか出入りできないのが原則でした。
修道院の中心は教会と回廊で、厳しい修行生活の場でした。夜明け前、午前2時から Matines(日本語で朝課)というお勤めで一日が始まる修道僧たちの寝室は教会の横に設けられています。寝室と教会を結ぶ階段は朝課の階段と呼ばれます。これらの建物は傾斜した地形に合わせ、一番高い位置に教会が、その下の南側に回廊が作られてました。この回廊は台形で、高低差を利用して階段とスロープを組み入れた簡潔な瞑想の空間が設けられています。地ならしするのではなく、人間がそれに合わせるという姿勢は現代人が見習うべき点ではないでしょうか。

回廊のどっしりとした柱

回廊に囲まれた中庭の一角には、
修道僧たちの洗面所が修復されています

教会の後陣
教会の中には、人にまったく威圧感を感じさせない、人間性が尊重される空間が広がっています。半円筒形の石組みボールト天井には抜群の音響効果が授けられています。これは、非常に固い石灰質の石が正確に切り出され、モルタルを使わず、1センチの隙間もなく壁と円天井が積み上げられているからです。この石は修道院から比較的近い採石場で切り出されたもので、灰色で少し赤みがかっていることが特徴です。この色は石にボーキサイトが含まれているからです。
教会の後陣(一番奥)にしつらえられた3つの細長い窓は三位一体を表しています。さらに上には大きめな丸窓があります。幾何学的な図柄を描いたステンドグラスが修復されています。このステンドグラスを通し、南仏の澄み切った朝の光が薄暗い教会の石を照らし出す光景は、素晴らしく思わず敬虔の念を抱かされます。修道僧たちの美しい賛美歌が今にも聞こえてきそうな錯覚に陥るのは私だけでしょうか。

修道僧の寝室のステンドグラス、教会のそれと同じ図柄
ル・トロネ修道院は1854年フランス政府が購入し、保護・修復が開始されました。同修道院は森の真ん中に位置しており、中世期のシトー会修道院の厳粛な姿と簡潔な美しさを忠実に伝えています。夏に見学の場合は涼しく、比較的見学者が少ない朝をお薦めします。
公共交通機関利用の場合は、まず仏国鉄les Arc-Draguignan(レザルク=ドラギニアン)駅からLorgues(ロルグ)まで行き、ル・トロネ行きバスに乗り換えます。村から修道院までは数キロの距離です。バスは本数が少ないく、日帰りは難しいので、ゆっくりできない場合はやはりレンタカーが一番便利です。
| ● ル・トロネ修道院を紹介するサイト http://thoronet.monuments-nationaux.fr/fr/bdd/page/infospratiques |
| ● ル・トロネ役場の公式サイト www.communeduthoronet.fr |
| ● アクセス まず仏国鉄les Arc-Draguignan(レザルク=ドラギニアン)駅からバスでLorgues(ロルグ)まで行きル・トロネ行きバスに乗り換え |
反橋妙子(sorihasi taeko) 1980年に渡仏。仏語を学び、言語学修士号を取得。リヨンで日本語教師を経て、南仏に移転後は観光ガイドとして南仏を回る。現在、通訳・翻訳業を専門とする。 taeko3011.jimdo.com










