地中海でのヴァカンスといえば、真っ青な海の上に白線を描きながら、白い帆を広げ自由自在に走行するヨットの風景。
南仏には、レジャー用船舶を係留するためにマリーナが多数建造されています。そして、その近所にリゾートマンションが建ち並ぶというのが、南仏リゾート施設のごく一般的な例です。でも、この種のマリーナは人工的で生活に不便で、どこか馴染めない違和感が漂っているのが常です。

解体された建物の素焼き瓦が再利用され、落ち着いた街並みが作られた。
そこで、数ある「ポール」(仏語で港の意味)と名のつく沿岸リゾート施設の中で、特異稀な存在のポール・グリモーを紹介しましょう。
このポールは、仏人建築家フランソワ・スポエリー(François SPOERRY、1912-1999)氏の偉業によるものです。同氏は「船乗り建築家」と自称するぐらい、海とヨットが好きな人でした。プロヴァンス地方の海は穏やかなのですが、ひとたび北風(ミストラル)が吹き始めると、恐るべき海に変貌してしまいます。「気象条件に左右されず、安心してヨットを泊められたら……、出来ることなら別荘の真ん前に泊めれたら…」というスポエリー氏。そして彼の願いは、ついにサン・トロペ湾に面したグリモーという村で実現されたのです。

白い塔は建築家フランソワ・スポエリー氏が住んでいた家

建築家の名が付けられたフランソワ・スポエリー広場の噴水
1962年、開発途中の地中海沿岸の湿地帯75ヘクタールが売りに出されました。偶然それを知ったスポエリー氏は、子どもの頃からの夢であった湖上都市の実現へと向け、建築家兼開発業者として動き始めます。用地買収から、建築許可申請を経て工事着工までは数年の歳月を要します。さらに、ポール・グリモーが「プロヴァンスのヴェニス」と呼ばれ、フランス人観光客はもとより、世界中の人々を魅了するまで、さらに十年の年月が……。

小さいが手入れされたテラス、住んでいる人の心のゆとりがうかがえる。
この湖上都市の最大の魅力は、全長7kmの運河とプロヴァンス様式の伝統建築です。観光客はパーキングで車を降りた後、徒歩で橋を渡り、広場を抜け、パステルカラーの街並みを目の当たりにする時、数世紀を経て創造された町を歩いているような錯覚を覚えます。電線や電話線は地下に埋められ、車の乗り入れも規制されています。運河を行き交う船の速度も3ノット(時速5.5km)に制限されています。これは、ちょうど人間の歩調に合わせた速度です。
ポール・グリモーは、アパルトマンを含め住居数約2.200戸と郵便局や役場などの公共施設を備えた独立したヴァカンス村です。(レストラン、ホテル、商店が集まる商業地区以外は、私有地ですから見学出来ません)。観光で訪れる場合は、中心のの広場まで行き、全体が見渡せる教会の塔に登ることをお勧めします(入場料1ユーロ)。
陸地を手に例えるとしたら、ちょうど指の部分に別荘が建ち並び、その外側にヨットが係留され、内側が通りになっているのがよく理解できます。何本も伸ばされた「指」の間が運河になっています。教会の横からは、ポール・グリモー内一周(所要時間約20分)の船が発着しています。
海風にふかれながら、水面に映る舞台装置のように美しい家並みとヨットを眺めていると、都会生活のストレスを忘れ、ヴァカンス気分は絶頂に達します。

夏到来、白いヨットが輝き始める。
| ● ポール・グリモーまでのアクセス パリからTGVでSt Raphael駅まで4時間、同駅からサン・トロペ行きバスを利用して一時間弱。飛行機ではニース・コートダジュール国際空港またはツーロン・イエール空港から。 |
| ● ポール・グリモー公式サイト www.yci-port-grimaud.com/pg(仏語) |
反橋妙子(sorihasi taeko) 1980年に渡仏。仏語を学び、言語学修士号を取得。リヨンで日本語教師を経て、南仏に移転後は観光ガイドとして南仏を回る。現在、通訳・翻訳業を専門とする。 taeko3011.jimdo.com










