FacebookツイッターRSS feed
英仏バイリンガル幼稚園・小学校
jeu 23 février 2017

第16回 パリの昆虫標本屋でアートを採集 ?!

パリ老舗標本屋、Deyrolle (デロール)

デロールの店
パリ左岸の高級地区に位置するデロールの店は、
ウッディ・アレンの映画作品「Midnight in Paris」(11)にも登場

クリスマスの1カ月前からパリは早々と衣替えを始め、サンジェルマン界隈が一層華やぎます。最近のひそかな楽しみは、バック通りの標本屋「デロール」に寄り道すること。店内に入るとそこは別世界なのです。キリンや白熊などの大きな剥製がこちらを見下ろし、動物の骨のコレクションや昆虫の標本が所狭しと並べられています。一瞬驚きに包まれますがその後すぐにやってくるのが恍こうこつ惚感。まばゆいばかりの色の取り合わせや美しい形状に思わずうっとり。

玉虫やコガネムシの羽で埋まったスカル(頭蓋骨)のインスタレーション
ファーブル昆虫記の著者のひ孫ヤン・ファーブルもデロールの常連アーティスト。
彼の玉虫やコガネムシの羽で埋まったスカル(頭蓋骨)のインスタレーションは有名

1831年、パリにデロール親子が昆虫採集の専門店を開業しました。当時は自然科学の研究が進み、大航海を通して動物や植物の標本がヨーロッパに持ち込まれていました。2001年に所有者がド・ブログリ氏に変わってからデロールはますます繁栄しました。ところが08年に大事件が起きます。大きな火災に見舞われ、店もコレクションもほぼ全焼してしまったのです。デロールが消えてしまう! 危機感を募らせた世界中のコレクター、アーティスト、個人から寄付が集まりました。またアーティストが寄付した作品や焼け残ったオブジェ、灰などを使って制作された作品がオークションにかけられ、店の復興が可能となりました。この一件がデロールと現代アーティストとのコラボレーションの絆を固めたのです。

「ワンダー・ルーム」のしかけ

玉動物園やサーカスから自然死した動物を引き取って使用
デロールでは動物園やサーカスから自然死した動物を引き取って使用している

また、この事件をきっかけにデロールの新しい活動として「キャビネ・ド・キュリオジテ(好奇心の部屋)」が一般に公開されることになりました。英語では「ワンダー・ルーム」と呼ばれ、16世紀に登場したいわば博物館の前身です。実は数年前からベネチア・ビエンナーレ国際美術展などにも度々登場し、現代アートにおける表現方法として注目を集めています。11年にはアメリカ人のマーク・ダイオンがモナコの海洋博物館用に作品を制作し話題になりました。中世、デカルトが活躍する前の西洋社会では自然への畏敬の念や救いのための信仰などが根付いていました。骸骨、ミイラ、鉱山物、動物の剥製などの標本と混じって時には人魚の化石など想像の産物まで、珍しいオブジェであれば自然、人工を問わず陳列ケースに収めて楽しむ。当時人々は世界という混こんとん沌とした闇の中から「驚異」や「不思議」を収集し、私的スペースに持ち込んで自然の持つ怖さと美しさをあがめてひそかに楽しんでいたのです。

アートはタイムカプセル?

今月デロールではダミアン・ハーストの最新作品が見られます。ハーストといえば90年代に縦割りにされた牛の親子のホルマリン漬けの美しくも残酷な作品を発表し、世界を驚かせたイギリスを代表するアーティストです。その彼がデロールとのコラボでキャビネット型のインスタレーションを制作。しっかりと錠が閉まった金属枠のガラスケースの上に、死のシンボルである黒ガラスの剥製と生の象徴である何十匹もの蝶の標本が並びます。そして中には人類の最後をほうふつとさせるような頭蓋骨、我々が滅亡した後も生き残るであろうげっ歯類の剥製、そして漂白剤「ヴァニッシュ(虚栄)」の毒々しいピンクのボトルがぎっしり。もはや中世のロマンスは跡形もなく、現代という悲劇がそのまま映し出された作品です。自然と人間の関係性をそのままタイムカプセルに収め、ハーストのキャビネットは次世代に何を訴えていくのでしょうか。

店内で作業中の職人の姿にも出会える
店内で作業中の職人の姿にも出会える

我々の中に眠っているセンス・オブ・ワンダーを揺さぶるためにアートはあらゆる方向から時を超え、国境を越え攻めてきます。そして自然と人の間のどこかにいつもアートが潜んでいます。デロールで不思議なアートを採集してみては?

DEYROLLE

46 rue du Bac 75007 Paris
www.deyrolle.com

 
<< 最初 < 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 > 最後 >>

1 / 16 ページ

  • Check


大江ゴティニ純子 
在仏アート・プロデューサー。Palais de Tokyo のゼネラル・コーディネーター、フランス現代アート基金のゼネラル・マネージャーなどを歴任し、現在はパリ大学で講師、国立美術館やアート・センターでの企画に携わる。京都の仏政府在外文化機関「ヴィラ九条山」特任館長。

バナー
バナー バナー サロン&クリニック・ガイド フランスのラーメン、中華麺、うどん、そば - イギリス・フランス・ベルギー・ドイツの麺もの大特集! パリのお弁当やさん ヘアサロン・ガイド バナー おすすめフランス語学校