
壁も床もオリエンタル柄のじゅうたんで覆われ、迷宮のようだ
14. ルドルフ・スティンゲル ×
パラッツォ・グラッシ
16 mai 2013 Nº 976
作られたオブジェ
現代美術家ルドルフ・スティンゲルによる、イタリア(ヴェネチア)のパラッツォ・グラッシでのサイト・スペシフィック作品。18世紀に建てられた貴族の大邸宅内の床面積約5000㎡の空間を作品として提示する。
アゼルバイジャンのキリムのようなオリエンタル柄のじゅうたん約7500㎡分が1階の柱廊と2階、3階の壁や床、階段、エレベーターの中などを埋め尽くす。じゅうたんには実際の織目があるわけではなく、写真に撮影された古びて擦り切れた織目の画像が本物のじゅうたんの上に印刷されている。じゅうたんに包まれた空間の中で、2階には銀色のモノクロームの抽象画のシリーズ、3階には古い彫刻を描いた具象画の合計37枚の絵画が展示されている。抽象画のシリーズでは布地をキャンバスの上にかぶせ、布地の織目から絵の具の染料をくぐらせる手法がとられている。小さな具象画のシリーズでは、チロル地方やババロア地方の中世の彫刻が描かれている。
作品にまつわる出来事
パラッツォ・グラッシは18世紀半ばにグラッシ家が建築家ジョルジオ・マッサーリに設計を依頼した大邸宅。同邸宅はグラッシ家から歌手や画家、実業家などさまざまな持ち主の手に渡っ後、1951年には芸術と衣装の国際センターとして活用された。その後83年に現代美術センターとなり、2005年にはフランス屈指の現代美術収集家で実業家のフランソワ・ピノーが購入。現代美術の展示施設として現在に至る。
内部の改装は建築家、安藤忠雄が手掛けた。同施設での展覧会は、ピノーが収集する複数の作家の作品をテーマ別に見せる展示と1人の作家に焦点を当てた個展の2つの形態をとる。ピノーは今年度の作家の個展に、長年作品を収集してきたルドルフ・スティンゲルを選び、同施設の空間丸ごとを自由自在に使うように依頼した。90年代初頭から絵画表現の1つとしてじゅうたんを使ってきたスティンゲル。独自の手法でヴェネチア共和国末期の建築様式に入り込む。パラッツォ・グラッシのためのオーダーメイドともいえるじゅうたんは10人の係員によって3週間かかって設置された。
作品に込められた思い
ある場所に芸術作品が介入することで、その場所を今までとは全く違った形で知覚できる。スティンゲルは今回、じゅうたんのモチーフにオリエンタル柄を選んだ。ヴェネチアという土地柄、西洋と東方諸国の交易の拠点として栄えた歴史をほうふつとさせる。遠くから見ると模様は奇麗に見えるが、近くから見ると画素が荒く、めまいがしそうだ。織目が擦り切れ摩滅した表面は時間の経過と人間の往来を感じさせる。印刷されたじゅうたんのモチーフは時空を越えて、場所と人との出会いを証言する。
さらに、今日も展覧会の来場者がその上を歩き、摩滅させていく。スティンゲルは、じゅうたんを背景に抽象画と具象画をそれぞれ展示し、背景と絵画の相互作用を提案する。絵画は部屋の壁に垂直水平に展示されているのに、傾いているかのように見える。柔らかく、ふんわりした背景のじゅうたんの文様の流動性ゆえに、不均衡な感じがするのだ。
スティンゲルは絵画の手法にもこだわる。具象画では、1つのイメージが立体(彫刻)から平面(写真)になり、さらに絵画となる時間の経過を問う。時間の経過によってイメージは一体どこに帰属するのかが曖昧になっていく。壁や床一面に敷き詰められたじゅうたんは音を吸収し、エアコンの音だけが心臓の鼓動のように聞こえる。スティンゲルは精神科医のフロイトの診察室にオリエントじゅうたんが敷いてあったということも意識した。来場者はじゅうたんの上を自由に座ったり、寝転がったりすることができる。絵画を見ながら、オリエントじゅうたんの織目の中にどんどん迷い込んでいく。空飛ぶじゅうたんに乗った内なる迷宮への旅。今年はヴェネチア・ビエンナーレが開催される。訪れる機会があれば、ぜひ立ち寄りたい空間だ。

昨年亡くなった友人のアーティスト、フランツ・ヴェストの肖像写真を基に描かれた絵画も。絵画はしばらく、スティンゲルのアトリエの床に敷かれていたため、よく見ると足跡などが表面に残る

3階には彫刻のモノクロ写真を基に描かれた具象画がある。小さな絵画作品でも空間いっぱいのじゅうたんと相互関係をなし、強い印象を放つ
Photos: ©Ren Izuta
12月31日まで 10:00-19:00 火休 Palazzo Grassi
Campo San Samuele 3231, 30124
Venezia Italy









