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カンヌ国際映画祭のふたつの世界
![]() 第61回カンヌ国際映画祭が5月14日から25日まで開催された。世界中から集う有名スターや監督、製作者や配給者、宣伝マンなど映画関係者はもちろん、スター目当ての観光客、ここぞとばかりに商売に精を出すレストランやホテルで働く人々など、皆が興奮状態に。上映は朝8時半から深夜まで行われ、毎晩、船上、ホテルや関係者のアパルトマンではパーティーが繰り広げられ、浮世離れした時間が流れる。誰かが言った。「カンヌでは現実が映画の中にあり、現実が映画みたい」。その心とは? (texte et photo par Sayaka Atlan Nakagawa) 「Monter les marches」って?
カンヌ国際映画祭で交わされる会話のひとつに「階段上る?」というものがある。これは、「あなたは正装して、メイン会場のレッドカーペットの階段を上りますか?」という意味。約20のコンペティション部門選出作品の夜の上映会には、男性はタキシードに蝶ネクタイ、女性はイヴニング・ドレスの着用が求められる。毎年この部門から映画祭の最高賞であるパルムドールが選ばれるため、会場付近は熱気に包まれる。招待券を持っていなければ入れないので、会場付近にはチケットを求めるプラカードを持って粘る映画ファンの姿も。会場内には入り口付近の様子を映すスクリーンがあり、作品の監督や俳優たちがカメラのフラッシュを浴びながら入場する様子を見られるようになっている。舞台挨拶に続いて、観客と作り手が同時に映画を鑑賞する。
このように、カンヌでは華やかで非現実的な世界が12日間続くが、上映作品は赤じゅうたんの派手さとは無縁どころか対照的な世界を描いていることが多い。近年は、大量殺害や伝染病などを描くシリアスなもの、監督の自伝的要素を盛り込んだ地味な作品が目立っている。そんな映画を観終わって会場を後にすると、そこは南仏の高級リゾート地で、着飾った人々が楽しそうに行き交う。その落差に翻弄される来場者も少なくないようだ。例えば、カンヌ国際映画祭開催時に並行上映される批評家週間で紹介されたドキュメンタリー映画「La fin de la pauvreté?(The end of poverty)」上映終了後のティーチインで、「ゴージャスな映画祭の中で、世界の貧困を取り上げているこのドキュメンタリー作品を観るのは奇妙な体験だ。映画が世界を変えると思うか?」という観客からの質問にフィリップ・ディアズ監督は、「大事なのは、世界で起こっていることを認識することで、全てはそこから始まる」と答えている。 注目の受賞作品
コンペティション部門とある視点部門 コンペティション部門から選ばれる最高賞パルムドールは、ローラン・カンテ監督の「Entre les murs (The Class)」が受賞。審査委員長のショーン・ペンの発表を受け、会場はスタンディング・オベーションで応えた。フランスの作品としては、モーリス・ピアラ監督の「Sous le soleil de Satan(悪魔の陽の下に)」以来、実に21年ぶりの受賞となる快挙。元中学校教師による半自伝的小説を映画化した本作は、パリ20区の学校を舞台に、ドキュメンタリータッチで移民や暴力の問題に迫る。映画に出演した中学生らと壇上に上がった監督は、「作品中の『多様で、豊富で、複雑な』クラスの様子はフランス全土を反映するもの」と強調した。ショーン・ペンは開会式で「問題意識が高く」、「一時のモードで終わるものではなく、後々まで残っていく作品を見つけたい」と語っていたが、その意向を反映する受賞結果と言えよう。
一方、コンペティションに次ぐカンヌ国際映画祭の主要公式部門のひとつで、オリジナリティーの高い作品が並ぶある視点部門の最高賞は、カザフスタンのセルゲイ・ドボルツェボイ監督の「Tulpan」が大賞を、邦画で今年唯一のカンヌ国際映画祭公式出品作品となった黒沢清監督「Tokyo Sonata」が同部門審査員賞を受賞した。本作は、独特な世界観により国際的に高い評価を受けている黒沢監督が挑んだ異色の社会派ホームドラマ。失業の事実を妻に話せない夫、それを知っていても知らないふりの妻、米軍に入隊してしまう長男、隠れてピアノを習う次男を通し、東京のひとつの家族を描く。社会や家庭でそれぞれの場所を失った登場人物たちが新しい道を見出していくプロセスは感動的。上映後の大絶賛、そして審査員賞受賞は、この作品の普遍的な力を証明するもの。監督自身は受賞に際して「驚きました。僕たちが家庭の中で抱えている小さな問題は、どうやら世界の問題でもあったようです」とコメントしている。日本で は今秋、フランスでは2009年1月公開予定。
第61回カンヌ国際映画祭
コンペティション部門受賞一覧
ある視点部門受賞一覧
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