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ベルナール・チボー
フランス最大の労働組合CGTベルナール・チボー独占インタビュー

2009年1月29日、仏政府の経済政策に反発してフランス全土の主要労働組合がゼネストを決行。しかし、2月に行われたサルコジ大統領と主要労働組合とのトップ会談では経済改善の合意が得られず、3月19日再びゼネストが行われ、5月1日にも大規模なデモが決行された。昨年アメリカの金融破綻を発端に世界的な不況が続く中、フランスは何を求めるのか。フランス最大の労働組合、フランス労働総同盟(CGT)のベルナール・チボー書記長が、フランス人の労働環境事情について語る。
(Texte et photo par Hajime Yanagisawa)


ベルナール・チボー Bernard Thibault
1959年パリ生まれ。1976年に総合機械技師資格(CAP)を取得しフランス国鉄(SNCF)に入社。同年フランス労働総同盟(CGT)に入会、組合青年部の責任者に抜擢される。1980年CGTの書記就任後、徐々に頭角を現し、1999年CGT総書記長に任命され現在に至る。

フランス労働総同盟(CGT)
1895年設立。フランスに存在する5つの労働組合(CFDT、CFTC、CGT、FO、UIR-CFDT)の中で最古の存在。総本部はパリ近郊のモントルイユ市。www.cgt.fr


2009年4月1日、英国ロンドンで開催された地域財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)開幕直前に、サルコジ大統領と仏主要労働組合の2回目の会談が行われました。しかし、フランスの主要紙報道によれば、仏政府からは形式通りの回答で何の解決策も見いだしていない。実際にサルコジ大統領とは、どのような話し合いが行われたのですか?

チボー氏G20を目前に自国の労働組合からの要請に耳を傾けるということで大統領との会談が行われました。我々にとっては、今後の活動を決定するために仏政府の見解を聞く重要な会談です。今年1月の参加人数を上回る 300万人が、フランス全土で3月19日のゼネストに参加しました。しかし、仏政府はいまだに何事も無かったかのように沈黙を貫いています。結局なんの進展もなく、我々は5月1日にデモを決行することを仏政府に伝え会談は終わりました。日本でも同じだと思いますが、5月1日は「労働者の日」と言われる日で、世界各国でいろいろな活動が行われます。フランスでは、初めて全て の労働組合が抗議運動に参加することが決定しました。今年のメーデーは歴史的な日になるでしょう。世論調査では仏国民の72%が5月の抗議運動に賛成を投じています。この数字が示すのは、右派左派などの次元の 問題ではなく、仏国民のほとんどが現在の政府が打ち立てた経済対策に不満を抱えているということです。例えば、タックスシールド(bouclier fiscal)や残業時間についての法案。残業時間法案緩和は、時短法案1が骨抜きとなり結果的に大量解雇につながりました。この他にも、最近話題に上っている重役の破格な退職金制度ゴールデンパラシュート(parachute doré)2ですね。経済支援と称して多額の支援金が企業に投入され、そのほとんどが重役の退職金になっている。国民はこの矛盾した社会的状況に疑問を抱いているので す。質問の答えに戻ると、こういった社会の問題を大統領に進言したにもかかわらず、仏政府はなんの回答策も用意していないのが現状です。

12000年リオネル・ジョスパン内閣時に成立した時短法案(通称35時間法案)は、それまでの週労働時間39時間を4時間短縮することで雇用を増やす狙いがあった。フランス 国立統計経済研究所(INSEE)の調べによると、法案成立後は、1時間当たりの生産量は4~5%増加、否定的な前評判とは逆に雇用促進、国内総生産(GDP)増加に貢献したと言える。

2敵対企業からの買収を防止したい企業の取締役が買収者に解任もしくは退任に追い込まれた場合、巨額の退職金などの利益が被買収企業の取締役に支払われることをあらかじめ設定しておくこと。つまり、買収するとその対象企業に多額の負債が発生する仕組みを導入することで買収意欲をそぐ目的がある。欧米では、役員会議で退任に追い込まれた重役に多額の退職金を払うことがあり、これらを称してゴールデンパラシュートと言う。


仏政府によるこれまでの経済政策についてはどうですか?

これまで、仏政府はさまざまな公約を国民にしました。例えば税率3や退職金の制度見直しなどです。いくつかの法案は実現しましたが、どれも我々の主張した内容には程遠く、中には一部の人間にしか適用されないものもあります。G20の結果を見ても非常に内容は希薄で、我々の主張は何も汲み取られていません。G20では、現在の世界的な経済危機は金融運用に問題が生じた(crise des circuit financier)と結論付けまし た。確かに間違いではありません。しかし我々は、この経済危機は経済成長策の失敗としか思えないのです。金融経済(économie financière)と生産経済 (économie matériel)の2つは切り離して考えてはいけないからです。金融成長は確かに銀行が深く関わっていますが、関連企業の成長も無視出来ません。企業が成長することでその企業の株は上昇し金融利益を生み出します。しかし現在の経済成長策はどれも短期的 な成長しか視野に入れておらず、企業や金融業界は株主や一部関連者への利益分配のみに集中し、生産者にはリターンを与えていません。これはフランスだけでなく他の国にも言えることで、ハイリスク・ハイリターンの経済策が現在の経済危機を招き入れたのです。

3タックスシールド(bouclier fiscal):サルコジ政権で誕生した法律。高額納税者の税金支払限度額を50%に制限した。これまで、最高70%前後の支払いを余儀なくされていた高額納税者にとっては20%の減額は大きな進展だったが、一般庶民の税率には関与されないことから、富裕層のための法案と言われている。また、高額納税者の税金減額は国庫のキャッシュフローを危機的な状況に追い込んでいる。


経済問題をフランス国内ではなく欧州全体の問題と見たとき、各国の政策にはさまざまな違いがあります。欧州経済の活性化を視野に入れ誕生した欧州連合(EU)は、逆に各国それぞれの経済や雇用問題を圧迫しているのでは?

まず欧州連合とはどのようなものか考えてみましょう。欧州連合とは加盟国間での開けた市場です。ここで問題となるのは、欧州連合というひとつの大きな集合体と加盟各国それぞれの政治の足並みがそろわない ことです。欧州加盟国27カ国の中で、西ヨーロッパと中央ヨーロッパとでは経済規模に大きな差があります。もちろん、各国の労働者の平均所得や社会保障制度についても大きな違いがあります。欧州連合の第一段階、つまり欧州統一通貨ユーロが正式流通する2002年までの加入国15カ国では、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどが欧州連合に加入したことで自国の経済を飛躍的に成長させました。その結果、欧州連合全体の経済も活性化され良い影響を与えたと思います。しかし加盟国が中央や東ヨーロッパに拡大し欧州27カ国となるとさまざまな問題が浮かび上がってきたのです。例えば、ポーランドは国民数が多く魅力的な市場と言えます。しかし、欧州連合はポーランドを加盟国として承認したものの、ポーランド国内の経済を底上げせず放置状態にしました。間接的にですが、西側の加盟国にとって中央や東ヨーロッパの加盟国は絶好のダンピング場所となったのです。欧州連合を拡大させることは良いことだと思います。しかしそれは同時に、新規加盟国にとって現在の欧州連合は自国の経済状況をさらに悪化させてしまう鬼門なのです。加盟国それぞれの国内政策が食い違うのは仕方ありません。けれども、加盟国全てが納得する欧州共通政策も同時に成立させなければならないのです。フランス国民は欧州関連政策に悲観的ですが、欧州連合そのものを否定しているのではなく、国内の経済政策と相乗効果を上げるような政策がない ことに否定的な態度を取っているのだと考えます。欧州連合がフランス国内の経済の足かせになっているとは思いません。仏政府が国内の経済を立て直し、そのノウハウを欧州政策に生かすように願います。


加盟国間で政策が食い違うことで発生する問題とは何ですか?

チボー氏欧州連合の新規加盟国が経済的窮地に立たされていると話しましたが、この不況で彼らはさらに壊滅的な状況に追い込まれたと言ってよいでしょう。一番大きいのは中央や東ヨーロッパの失業者問題です。労働者の社会保障制度が西側加盟国ほど発達していないため、西側加盟国以上に深刻です。欧州連合とは、アメリカ合衆国のように1人のリーダーが全体をまとめる集合体ではありません。加盟国は州として存在するのではなく国として存在しているのです。これが、各国の足並みがそろわないあいまいな部分で、結果的に現在のような加盟国間で経済落差を作ってしまった要因です。しかし、見方を変えると加盟国間それぞれで政策が違うからこそ生まれる競争もあります。もちろん加盟国を商売敵として見なすのではなく、お互いに歩み寄りつつ助け合える部分があれば連合体の利点を生かすという哲学のもとに行う競争です。しかし、現在新規加盟国が立たされている危機的状況が将来また訪れないようにするためにも、欧州全体をまとめるリーダーを選出することもひとつの解決策かもしれません。


G20のような経済会議には指名各国の経済担当大臣と国家元首、それから経団連や金融関連が参加しています。欧州連合加盟国それぞれで政策が違う以上、労働組合も会議に参加すべきと思いますか?

CGTCGTは欧州労働組合連合(CES)のメンバーです。CESには、欧州連合加盟国の労働組合だけでなく、今後欧州連合に加わる可能性のある国の労働組合もメンバーとして参加しています。例えばトルコ。現在、オバマ大統領とサルコジ大統領の間で、トルコを欧州として認めるかの話し合いがもたれていますが、CESはトルコの労働組合もメンバーとして認めています。他にも、アンドラなどの小国の労働組合も加盟しており、定期的に欧州各国の労働状況などの意見交換を行っています。G20に関しては、国際労働機関(OIT)の参加を申請しましたが、残念ながら実現しませんでした。OITは各国の政府、事業主、労働者の代表を選出して会議を行い、国際労働基準を制定する重要な国際機関です。G20のような国際的な経済会議では労働者の意見も参考にして欲しいと以前から感じており、なかなか認められないのが歯がゆいです。


フランスに国外の企業が進出することで、フランス国内の雇用が増えました。例えばトヨタ自動車や、ソニーの工場がその良い例です。しかし世界不況の現在、仏政府はフランスの自動車メーカーや銀行を中心に支援を行い、国外企業に対して十分な支援は行われず、日本を含む国外のフランス進出企業がフランス撤退を余儀なくされました。その結果、失業率増加につながり、フランス経済がますます危機的立場に立たされたと言えます。日本でも大手自動車メーカーが期間従業員を大量解雇したことで、過去最悪の事態に陥っています。つまり、現在の失業者増加問題はフランスの地理的・政策的な単一問題とは言い切れません。フランス国内の失業者をこれ以上増やさな いために仏政府は国外のフランス進出企業を支援する必要があるのではないのでしょうか?

仏政府を擁護するわけではありませんが、仏政府はフランス進出を考えている、もしくは既に進出した国外企業に対して大きな支援を行っていると思います。それを考慮すると、フランスは自国外の企業に対して積極的に支援を行う優良国だと思います。

デモフランス進出企業が撤退したことで失業者が増えた言われましたが、実際には日本と同様、期間従業員が真っ先に解雇の対象となったに過ぎません。この期間従業員問題は、我々が何年も前から訴えていることで す。しかし、何の対策も取られず問題改善は先送りにされ続け、経済不況が訪れたことでその問題が浮き彫りになったのです。我々の調べでは、2009年は少なくとも60万人の失業者の増加が予想されており、失業者の総数も最悪の場合300万人を突破する可能性もあります。もちろんこの失業者の増加には国外企業のフランス撤退による失業者も含まれていますが、フランスの自動車メーカーなども期間従業員の大量解雇を発表しています。この問題は労働者を保護する法案が存在しないのが一番の原因なのです。フランスは社会保障制度を過剰に主張する国と見られることもありますが、国内総生産(GDP)は世界的にもトップレベルです。4労働者は生産性の見返りを企業に求めているに過ぎません。にも関わらず、企業の利益は一部の重役にのみ還元され、労働者は常に失業などの不安に悩まされています。

先ほどの話に戻りますと、フランスは外国企業のフランス進出に非常に寛大だと思います。さらに、仏経済が上向きの頃は国外企業の買収などを行い雇用を促進させると共に利益も算出していました。しかし問題は、買収企業(事業)が順調に生産を行っている間は良いのですが、生産機械の修理や買い換えなどに多額の出費が発生し利益率が低くなると、事業主は商品価値がある間にその事業を手放してしまうことです。企業の重役は売却され解雇されてもゴールデンパラシュートがあります。けれども、労働者は解雇されたら何も残りません。外国の企業がフランスに進出することに関しても、フランスが国外企業に投資することにも何の抵抗もありません。ただ、労働者を使い捨てにすることを止めて欲しいのです。

4国際通貨基金(IMF)発表によれば2007年度の国別GDPランキングは、1位米国13兆8438億ドル、2位日本4兆3837億ドル、ドイツ3兆3221億ドル、4位中国3兆2508億ドル、5位英国2兆7725億ドル、6位フランス2兆5602億ドル。


フランスの失業率が改善されない理由はどのような部分にあるのでしょうか?

大きな問題は、現役の労働人口が少ないことです。フランスは他の国に比べて就労開始年齢が遅く平均25歳から。退職時期(リストラ含む)も平均57歳です。つまり、実質的な労働期間が短い上に60歳の定年前に仕事を失っているのです。フランスのGDPを見れば分かる通り、フランスには優秀な人材が多いので生産能力は世界でもトップレベルです。企業は利益を算出しているにもかかわらず、さらなる利益を求めるために雇用を渋り、限られた人材に日本と同じようにオーバーワークを強いています。つまり、労働市場が循環していないことが問題なのです。

ベルナール・チボー


フランスの企業が雇用を渋る理由として、事業主が負担する社員の労災保険(Charge patronale)などが高いとよく言われます。実際に、フランス国内の雇用停滞の要因は、この事業主負担のせいなのでしょうか?

それは事業主の決まり文句で、我々組合が事業主組合や仏産業連盟(Medef)に抗議し続けている問題のひとつです。フランスは社会保障制度を充実させるという選択をし、事業主は、労働者に支払う賃金の一部を労災、年金、社会保険という形で国に支払っています。これは国が定めた制度です。しかし問題は、事業主がこの制度を企業の足かせのように表現していることです。社会保障制度は、国によってさまざまな形が存在します。アメリカ合衆国のように完全資本主義社会では、労働者は失業すると生活費がなくなるだけでなく、社会保障も失い、企業が住宅ローンの保証人だった場合は住居さえも失ってしまいます。その点、フランスの制度は完璧とは言えなくても生きるために必要な最低限の補償が約束されるように改善されてきました。事業主は企業の負担金を減らすべきだと提唱しています。確かに、利益の低い中小企業には企業負担金は労働者の給料額に応じて増えていくので負担でしょう。ただ、企業負担金を減らすということは、労働者の社会保障も平行して下げることで意味がありません。企業の利益を優先させるために労働者を窮地に立たせることになります。むしろ、企業の利益に応じて企業の負担金が変動するようなシステムを構築することの方が現実 的です。そうすることで、利益の少ない企業は労働者の補償を保ちつつ負担が少なくなるはずです。


ストライキやデモ活動は、政府との話し合いを実現させるための唯一の手段なのでしょうか?

難しい質問ですね。唯一言えることはフランスは力関係が話し合いに大きく左右する国ということです。例えば、政府、事業主、労働者の力関係です。労働者が事業主や政府と対等の力を堅持するには、路上抗議活動、ストライキなどを行います。我々組合がいくら力を持っていても、政府を動かすことは非常に困難な作業です。しかし、抗議活動が徐々に拡大し社会的なインパクトを与える規模にまで達すると、政府も静観を貫き通せません。そして話し合いの場が生まれるのです。抗議活動期間が長引くと路上抗議の人が増えるのは、国民自身が結束の力を知っているからです。フランス の全組合が結束する5月のデモは、まさにその集大成と言えるでしょう。


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