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異邦人・三宅純

フランスの大手百貨店ギャラリー・ラファイエットのポスターに日本人らしき人物が……。裾の短いズボンに、手にはトランペット、いったい誰……?作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、トランペット奏者……さまざまな肩書きを持つ彼の名は三宅純(みやけじゅん)。映画音楽やCM曲など、これまでの作曲数は2500を超え、音楽業界では知る人ぞ知る有名人。そんな彼の素顔にせまる。
(Texte et photo par Hajime Yanagisawa)

度胸とトランペットをかばんにニューヨークへ

ラファイエットのポスター音楽家、三宅純と聞いてピンと来る人は少ないだろう。2005年にフランスに移り住むまで、彼はおよそ2500曲のCM曲を手掛けている。アップルコンピュータ、アサヒビール、キヤノン、SONY、TOYOTA、日本コカ・コーラなど。CM曲以外にも映画音楽、ポップス、ジャズとあらゆるジャンルで活躍しており、音楽業界では知る人ぞ知るカリスマ的な存在。その才能は、音楽業界の生き字引の異名をもつラジオ・ノヴァ局の名物ジャーナリスト、レミ・コルパ=コプールのお墨付きである。

三宅と音楽の出会いは小学6年生。友人宅でその母親が聞いていたジャズに魅了されたのが大きなきっかけだったという。もともと幼少時代から母親の薦めでピアノを習っており三宅の生活の中に音楽は存在していたが、それは習い事としての音楽。そんな中、友人宅で聴いたジャズは衝撃的だったそうだ。以後学生時代は、ブラスバンド 部員達の練習が終わった後の音楽室を借りて、見よう見まねのフリージャズで腕を磨き、機会を見つけてはプロに混じりセッションを行っていた。

少年三宅に転機が訪れたのが高校2年の時、トランペッター日野皓正(ひのてるまさ)との出会いだ。独学で始めたトランペットがプロとして通用するのかを知るため、三宅は新宿のジャズクラブへ日野を訪ねた。回答次第では音楽家の夢をあきらめ受験に専念することを決めていたのだが、日野からの答えは「ニューヨークに渡り本場でジャズを学ぶこと」だった。音楽への道が見え始めたと同時に、17歳の少年に取って一人暮らしも海外生活も初めてづくし。決断まではかなり迷いがあったそうだ。しかし、1976年卒業と同時に渡米、日野の推薦でバークリー音楽大学へ入学した。

ジャズの終わりを感じた時

ラジオ・ノヴァ局の名物ジャーナリスト、レミラジオ・ノヴァ局の名物ジャーナリスト、レミ(左)と三宅純(右)

葛藤しながらもたどり着いたニューヨーク。カルチャーショックに遭いながら音楽浸けの日々がスタートした。入学後最初に苦労した点は“読譜力”だという。「いまでこそ譜面を書く仕事をしていますが、当時は譜面を真っ向から否定していたので入学から数年は譜面の授業はボイコットしていたのです。でも、最終的には記号だけで音楽を人に伝える事の出来る譜面というものの価値に気がつき、授業にも参加するようになりました」。ジャズに特化したカリキュラムが存在するものの、この学校では“アドリブ力”よりも“読譜力”に重きを置いており、“読譜力”に応じてアンサンブル(合奏クラス)分けが行われる。音楽家として生活する上で読譜力も確かに重要な要素の一つ。だが、三宅の本当の勉強の場はむしろ学校の外でのソロイストとしての演奏活動。勉強の合間を縫ってコンサート・ツアーに参加し、プロにもまれながら音楽を肌で学んだ。

卒業後マサチューセッツ州アーティスト・ファウンデーション主催の作曲コンクール・ジャズ部門で優勝した三宅。日本への凱旋帰国を前に彼はマイルス・デイビスの復活コンサートを見に行く。しかし、そこには衝撃的な事実が待ち構えていた。「ジャズは死んでしまった」。日進月歩を続けるジャズにスリルを感じていた三宅にとって、帝王マイルスの復活コンサートの内容は納得出来るものではなく、ジャズの限界を感じた瞬間だった。

作曲は即興の積み重ね

1981年。日本は空前のフュージョンブーム、経済においてはバブル全盛期。ジャズに対する複雑な思いを胸に日本での音楽活動がスタートした。帰国後しばらくは、日野皓正の弟、日野元彦などとジャズ界のコア・バンドに参加して活動していたが、どこか完全燃焼出来ない。そんな彼に第2の転機が訪れる。テレビCMの仕事だ。バブル全盛の当時、企業はこぞってテレビCMに資金を投入。制作側も存在感のあるCMを数多く作成していた時代。「テレビCMが一番面白かった時代でしたね。これは映画なのか何なのかという映像が流れ、最後に全く関係のない商品や社名が登場する。思いもかけない驚きの連続で『ああ、これはジャズだ』と感じました」。

ギャラリーラファイエットで行われたコンサート
2009年3月11日、ギャラリーラファイエットで行われたコンサートでトランペットを演奏する三宅純

テレビCMの中にジャズを見出した三宅の新たな音楽人生がスタートした。ジャズやクラシック音楽の作曲と異なり、テレビCMの場合は映像に合わせた音楽を制作する“画合わせ”がある。限られた時間の中での表現力、中には難しい注文を要求してくるクライアントもいた。しかし、そんな状況を三宅はスリルに満ちた環境と楽しむ。作曲に関しても独特な手法を用いている。例えば、始めに基本となるメロディーを作曲する。その後、今度はそのメロディーを他人が作曲したと仮定し、即興で音を追加していくのだ。こうした即興の積み重ねでCM曲は誕生していった。ジャンルは違えど、アドリブに重きを置くスタイルは、まさにジャズそのものである。

CM王、その先にあったもの

Stolen from Strangersアルバム 「Stolen from Strangers」 のカバー写真 ©Miyake Jun / Jean Paul Goude

CM音楽を手掛け始めてから20数年。「CM王」と呼ばれ、テレビCMの移り変わりを見てきた。「昔は作り手も企業も懐が深かった」─三宅はしみじみと話す。「CMが完成するまで何が出てくるか分からなくても、余裕で聴いてくれていました。予想外のものが出来上がったとしても『ほ~こういう考え方もあるんだ』と受け止めてくれる決定権のある担当者がいたのです。しかし時代も変わり、最近ではクライアントからサンプルを提示され『このような感じで』などと注文が入るし、中間管理職が上層部に上げるために、そのサンプルを元にネガティブ・チェックするようになったりして、CM全盛期の面白さはなくなったと思います」。そんな時代の移り変わりを見据え、ある決断が三宅に芽生える。

私は常に異分子

90年代に入り、三宅の中にある想いがふくらみ始めてきた。日本脱出。海外移住計画である。自身のアーティスト活動に軸足があるべきなのに、CMの作曲に時間を費やし過ぎているのではないか?音楽家としての自分を見つめ直したとき、新境地に達するために日本脱出を決意したという。しかし、突如の離婚。娘と暮らすシングルファー ザーとなり海外移住計画が一時頓挫。娘の高校卒業を待ち、2005年に渡仏が実現した。

海外移住地として当初は住み慣れたニューヨークが候補に挙がっていた。しかし、9・11(アメリカ同時多発テロ)以降、いろいろな意味で候補地としての魅力が薄れてい た。そんな時、アドレス帳を眺めてみると意外にもパリに知り合いが多いことに気が付く。ワインもうまい、食べ物もうまい、そして何よりも陸続きの大陸が魅力的だった。

海外移住した三宅は当然当地では異邦人(Stranger)となる。しかし、日本在住時も彼はどこかで自分を異分子と感じる違和感を携えていた。世界を股に掛け仕事を展開する彼の生活スタイルがそのような印象を起こさせているのかもしれない。“ホーム”を限定させずに多文化を柔軟に吸収するが故、彼の音楽スタイルが生まれているのだ。

出会いを紡いで広がる世界

ジャン=ポール・グッドジャン=ポール・グッド(左)、三宅純(右)。2人とも裾の短いズボンの愛好家

テクノロジーの進歩によりどこにいても創作活動が出来るようになり、海外移住計画が可能となったと話す三宅。確かに近年のテクノロジーの進歩には目を見張るものが あり、サンプラーやシンセサイザーなど、いわいる楽器でさえもソフトウエアという形で存在している。一昔では考えられないくらい場所に制限されずに創作活動が出来るようになり、データの受け渡しもネットワークの高速化が可能にした。しかし、海外移住の大きな手助けはそれまでに出会った人とのつながりだろう。

サタデーナイトライブのプロデューサー、ハル・ウィルナー、ピナ・バウシュ音楽監督アンドレアス・アイゼンシュナイダーとラジオ・ノヴァ局ジャーナリストのレミ・コルパ=コプール。彼ら3人は三宅が認める世界的な音楽通だ。深い知識と音楽に対する厳しい視点を持ち合わせる彼らは友人であり良き理解者。三宅自身、彼らに自分の作品が認められることが何よりもうれしいと言う。

ギャラリー・ラファイエットのアートディレクター、ジャン=ポール・グードも、三宅の友人の一人。グードが企画する舞台作品を通じて2人は出会い、その後三宅同様にグードも“裾の短いズボン”の愛好家だということで一気に親近感が増した。その縁もありグードは、三宅の最新アルバム「Stolen from strangers」のジャケットデザ インを担当し、さらには三宅をラファイエットのイメージキャラクターに起用するという展開につながった。

出会いを通じて訪れる出来事の数々。あと何年フランスに滞在するかは分からないし、次の滞在地も決めていない。いずれは、またどこかの地でストレンジャー・ミヤケとなるだけ。でも今はフランスを存分に楽しんでいる。先の見えない未来にスリルを求める三宅純。それが彼の素顔である。


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