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クリアストリーム事件 ── その行方
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初公判の翌日2009年10月22日、取材に応えるジャーナリストのドゥニ・ロベール François Mori/AP/Press Association Images |
リストの真偽とEADSの関与
密告者からの告発リストの真偽を確かめるべくルユンベーク判事は調査団を結成し、イタリアのリベリアにあるバンコ・ポポラレ・ディ・ソンドリオ銀行に開設された「ステファネ・ボクサ」と「ポール・ド・ナギ」名義の口座に関する捜査を開始した。この口座はサルコジの秘密口座とされており、同銀行も「この口座はクリアストリームが開設した口座で不特定多数の利用者が存在している」とルユンベーク判事に告白している。しかし、告発リストが偽物であるという事実が判明したため調査は2005年5月に終了、サルコジへの疑惑は一時収束した。後に明らかになるのだが、実は同時期にドビルパン(当時内相)がフランス国土監視局の責任者ピエール・ド・ブスケにクリアストリームの秘密口座に関する調査を指示していたというのだ。
カラスから入手したクリアストリームの秘密口座の偽リストの捜査を進めるうちドゥイ、ポンス両判事は、欧州航空防衛宇宙会社EADS がこの疑惑に関与していることを突き止める。その中心的役割を果たした人物として、EADSのIT技術者(当時)イマッド・ラフードと同社副社長(当時)のジャン=ルイ・ジェルゴラン、仏諜報局の責任者(当時)フィリップ・ロンド将軍3名の名前が浮上した。
カラスの正体とドビルパンの窮地
2006年4月28、29日の両日、EADSのジェルゴランは報道機関に2004年5月と6月にルユンベーク判事あてに匿名の告発書類を送ったことを明かし密告者カラスの正体が判明、EADSの関与が確定的となった。また、ジェルゴランは当時フリゲート艦売却に伴う収賄疑惑の捜査を行っていたルユンベーク判事にも非公式に面会していたことも明かしている。次第に事件の全容が明らかになり、捜査は仏諜報機関のロンド将軍と告発リストのねつ造を行ったEADSのラフードに捜査範囲が絞り込まれ、両者からの事情聴取がスタート。ロンド将軍の証言により、ドビルパン(当時内相)が2003年11月と2004年4月、ロンド将軍にクリアストリームの調査を秘密裏に指示していた事が判明し、ドビルパンの偽リスト関与疑惑が濃厚となった。
仏諜報局の関与が表沙汰となり、捜査は急展開を迎える。2006年5月、ドゥイ、ポンス両判事はねつ造書類作成者の裏付け捜査を急ぐと共に、ドビルパンにも捜査の範囲を広げた。2006年初頭に若者の失業率を減らすために打ち立てた新規雇用法案(CPE)の失敗で支持率を落としたドビルパンは、これによってさらに首相としての支持率を落とし窮地に立たされる。

記者の質問に答えるドビルパン首相(当時)(右)とサルコジ内相(当時)(左)。ドビルパン内閣時の定例記者会見。2005年10月27日撮影
François Mori/AP/Press Association Images
サルコジの反撃
ドビルパンのクリアストリーム事件関与が濃厚となったことで、当時ライバルだったサルコジの失脚を狙ったという図式が疑惑として浮上してきた。大統領選の最有力候補であるサルコジを失脚させるためにドビルパンが仏諜報部を通じて仏捜査当局に偽情報をリークしたというわけだが、ドビルパンは諜報部へ調査の指示は出していないと反論する。だが2007年5月、EADSの元IT技術者ラフードの家宅捜索で同氏がねつ造に関連していることが明らかになり、7月にはロンド将軍の家宅捜索で、同氏のパソコンにドビルパンとシラクがクリアストリーム事件に関与したという有力な情報が見つかった(データは消されていたが調査部がハードディスクを分析し発見)。
パソコンに残された文章は、ドビルパン(当時首相)がEADSのジェルゴランへあてたもの。2007年大統領選の最有力候補となっているサルコジを失脚させるため、ねつ造した偽リストを秘密裏に公表しようとした疑惑を強く裏付けるものと言われている(当時のシラク大統領の指示も記されていたとされる)。ドビルパンは、参考人として事情聴取に応じたものの、ロンド将軍に調査を命じたという疑惑は否定しており、秘密口座に関するリストの存在は知らなかったとクリアストリーム事件に関する疑惑を完全否定。

2009年10月5日に行われたクリアストリーム事件に関する公判に出頭するロンド将軍
Remy de la Mauviniere/AP/Press Association Images
ドビルパンが刑事告訴されるまで
2006年に行われたEADSの元IT技術者ラフードの事情聴取、そして米国の監査法人アーサーアンデルセンの元IT技術者フロリアン・ブルジュがラフードにクリアストリームの口座リストを渡したことを認めたという事実。偽情報の作成者はほぼラフードに確定された。残るのは、その作成を指示した首謀者の特定のみ。
仏捜査当局は2007年7月上旬に、ドビルパンの自宅および事務所の家宅捜索を実施し、7月27日には仏司法当局がドビルパンへの公式事情聴取を開始した。容疑は「盗品の受領、背任、偽造文書使用の共謀」を含む「虚偽の告発を共謀」。続く9月13日にも予審判事の事情聴取が行われ、2009年9月21日、ドビルパンはついに刑事事件の被告となった。

偽文章作成の罪の問われている元EADSのIT技術者ラフード(左から3人目)
Jacques Brinon/AP/Press Association Images

2009年9月21日に数年にわたりメディアを賑わせたクリアストリーム事件の初公判が始まり、裁判所に出頭するドビルパン Remy de la Mauviniere/AP/Press Association Images
ドビルパン対サルコジ再び
仏外務省のキャリアで典型的なエリート官僚であるドビルパン。物怖じしない言動でも知られており、イラク戦争直前には外相として武力行使に突き進む米国に真っ向から反対する演説を国連で行いフランスでは人気を得た。2009年9月21日の初公判の開廷前、ドビルパンは記者団に対しクリアストリーム事件への関与を否定した上で、サルコジ大統領の権力乱用による政治的裁判だと訴えた。その数日後、今度はサルコジ大統領がG20出席の為に訪れたニューヨークにて「判事が『罪人』は裁きに値すると判断したのだ」と発言。「推定無罪」の原則を無視して被告を罪人呼ばわりしたことにドビルパンは猛反発。仏憲法では、現職大統領の訴追を認めていないと知りつつも、サルコジ大統領を告発、事態は泥沼化している。10月下旬に結審の見通しのこの裁判、有罪判決が下ればドビルパンは5年の禁固刑を受ける可能性がある。

ドビルパン(左)が首相就任後に行った閣僚会議に出席するサルコジ(当時内相)(右)。2005年6月10日首相官邸にて撮影 Franck Prevel/AP/Press Association Images
いまだ残る疑惑
数年にわたりメディアを賑わせたクリアストリーム事件の決着が間近に迫ったが、未だこの事件には謎に包まれている部分が多い。例えば、ルユンベーク判事とEADSのジェルゴランが非公式に会っていたことがジェルゴランの証言があるまで隠されていたこと。クリアストリームの秘密口座を利用するロシアマフィアの手によって重要参考人が過去に多数暗殺されていることに伴い、ジェルゴランの安全を考えてのことという見方もあるが、この件に関する調査は行われていない。ドビルパンの関与はロンド将軍の証言によるが、その後ロンド将軍はその事実を否定するようなニュアンスの発言もしている。しかしまた一転、10月上旬に行われた証人喚問ではドビルパンの証言を覆す証言を行った。サルコジを失脚させるために作成されたという、クリアストリームの秘密口座の偽リストだが、クリアストリームが資金洗浄に関与しているという疑惑は、ドゥニ・ロベールなど多くのジャーナリストが告発しており(現段階では証拠不十分で不起訴)、偽リストに記されている人物を除いたとしても仏政治家が資金洗浄に関与しているという疑いは晴れていない。ドビルパンの公判結果は、クリアストリームの資金洗浄に関する再調査にもつながる可能性が残されている。
仏政治家を巻き込み複雑化したクリアストリーム事件に関する書籍。クリアストリームの秘密口座を暴露した「Révélation$」の筆者ドゥニ・ロベールは、2006年に仏政財界を巻き込んだクリアストリーム事件についての本 「Cleastream l'enquête」を出版した
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本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。 |





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