ジル・フック
「開化の窓」となるか ─
マルセル・デュシャン賞10年目の使命

事務所の壁にもフック氏収集の作品が。フック氏とファビアン・ヴェルシェール(Fabien Vershaere)の作品[Hold On]
©Ren Izuta
秋。街路樹の葉が少しずつ紅葉し、落ち葉の季節となる頃、毎年恒例のFIAC(Foire Internationale d’artcontemporain)、国際現代美術フェアーが開催される。今年で36回目を迎えるFIACだが、いつしかFIACの中のひとつのイベントとなってたるのがマルセル・デュシャン賞だ。
マルセル・デュシャン賞は、ADIAF(Association pourladiffusion Internationale de l’ art Français)という美術コレクターの協会がフランスのアートシーンを世界に普及しようという目的で2000年に設立した賞で、毎年仏アートシーンで目覚しい活躍をする作家に贈られる。受賞者は3段階の審査の末、決められる。まずは、ADIAF会員である美術コレクターたちが現在の作品や作家の活躍状況などから仏芸術界の潮流を代表すると思われる芸術家100名ほどリストアップする。その後、毎年入れ替わる会員代表11名が4人まで絞り込む。この4名の作家が一人一作品ずつFIACで展示をすることができる。FIAC開催中には7名の審査員が招集される。構成はADIAF会長ジル・フックを初めとする3人の常駐メンバーと、4人の目利き(毎年変更)が世界のアートシーンから迎えられる。4人の作家は各自1名の美術批評家を指名し、批評家はその作家や作品の解説を審査員に行う。受賞者の発表はFIAC最終日。受賞者はポンピドーセンターでの3カ月の個展と賞金3万5000ユーロを手にする。
60年代半ば、ラウシェンバーグのヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞受賞により米アート界はその地位を決定付け、仏アート界の兆候は悪化。デュシャン賞の創始者であるジル・フック氏は、仏美術界を世界にアピールするために公的機関に吸収されない、国家のお抱え芸術家ではない、今の仏美術界を収集家の目を通して世に発信しようと考えた。美術館の学芸員は歴史的に芸術を見る。収集家は特別な理由なしに新しい創造を開放的な視点で見る。1994年、美術批評家や画商だけでなく収集家をフランスの芸術シーンの当事者にすることを目的に掲げADIAFを結成。フランス的な収集品を見せびらかしたくはないというフランスの収集家の嗜好を目覚めさせ、世界に向かって文化的な豊かさを見せるという欲望を駆り立てた。18歳の時に小さなルネ・マグリットの絵を購入し、フック氏は美術コレクターの一員となった。収集家も活動家にならなければと意気込むフック氏にとって、現代美術収集は「開化の窓」だという。
デュシャン賞には、さまざまな出身地の作家がノミネートされる。仏アートシーンはあらゆる表現者のterred ’accue(il 受け入れの地)と考えているからだ。シャガール、カンディンスキー、ピカビア、ピカソ、マグリット……。意図するものを表現できる場所をフランスに見出した世界の作家たち。仏アートシーンはそのような「開化」の精神も息づいてきた。
フランスの美術コレクターが主体となって受賞者を選抜し、国際的に活躍する大御所目利きたちが太鼓判を押すデュシャン賞。しかしこの賞は国際的にはまだ十分に認識されていない。2010年は、賞誕生10周年を記念し、過去のノミネート作品及び受賞作品をストラスブールの現代美術館で展示予定。2011年には過去の受賞者10名の展覧会を東京で開催する。しばらく賞の振興のための海外巡業が続きそうだ。フランスの芸術家がどのように、何を表現し、何を伝えようとしているのか。「これぞフランスのアートシーンだ」を謳う、賞の選抜の質が世界の人々の目にどのようにとまるのか今後が楽しみである。

2009年度デュシャン賞の4人の内の1人に
ノミネートされているフィリップ・ ペロ(Philippe Perrot)の作品
「受胎告知」(2007)
©Courtesy Art : Concept, Paris
フレンチ・ウィンドウ展
デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線
2011年3月26日(土)~8月28日(日)
入場料:1500円
森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階
TEL:03-5777-8600
www.mori.art.museum
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