毎年5月になると世界の映画関係者はカンヌ映画祭を前にそわそわし始める。映画はなにもスターのものだけではなく、裏で支える人たちがあってこそ。フランス映画界で活躍中の日本人、縁の下の力持ちとして映画界を支える製作会社や配給会社のスタッフの方々に話を聴いた。映画のウラ側には、時に映画そのものをしのぐようなドラマチックなストーリーが隠れている。
(Sayaka Nakagawa et Ryoko Umemuro)
1972年に渡仏しパリ第8大学で学ぶ。いったん日本に戻り撮影助手を務めた後、1982年再度渡仏。以後フランスを拠点に活躍中。「仕事がないときは麦藁帽をかぶって庭の手入れに励んでいるので、近所の人はみんな僕のことを植木屋だと思っているかも」 www.nagata-tetsuo.com

ゼロからのスタート
永田さんのフランスでのキャリアは一通の手紙からスタートした。「どの分野も同じだと思うんですけど、コネクションがない場合、やっぱり自分から新しい世界に入り込んでいくっていうのは難しいと思います。来たばかりの頃は当然仕事もなく、リカルド・アロノビッチという有名な撮影監督に手紙を出したんです。そしたら会いに来るようにおっしゃってくれて。それから彼が手掛ける映画の助手としてクルーに入るよう勧めてくれたり、コマーシャル撮影の際に声を掛けてくれたりとお世話になりました」。永田さんは今年のセザール賞で「La Môme(エディット・ピアフ~愛の賛歌~)」により2度目の最優秀撮影賞を受賞したが、その際にもリカルド・アロノビッチから連絡が来たという。「彼は巨匠なんですけど人間的にも素晴らしい人。知り合ってから20年になるけど、ちゃんと僕がやっている仕事をチェックしてくれている」。師匠とはまた近々会って、お茶を飲むことになっているらしい。
日本映画とフランス映画の撮影風景
現在は世界中の映画人とコラボレートを行っている永田さんは、日本人スタッフと日本映画作りの経験も持っている。「日本は撮影監督というよりカメラマンになってしまうんですね。フランスだと撮影監督の仕事はカメラを覗くことではなく、映像を設計すること。照明と色彩設定なんです。例えばセットの色をこのようにするから衣装はこんな具合に。そしてそこにどんなライティングをしていくか、なんてことを決めるんです」。撮影監督の視点で、永田さんはこのように日仏間の映画製作の違いを語るが、撮影監督としての醍醐味はまさにそこにあるのだ。「ひとつの企画が始まった時にいろいろイマジネーションをするんです。それが僕にとっては一番楽しい時ですね。まあ、蓋を開けたら予算がない時間がない、なんていう地獄が待ち受けているんですけど」。
日仏間の労働環境の違いは映画製作にも当てはまる。「フランスでは大抵撮影は夕方には終了、当然週末は休みです。日本の場合は厳しい状況でも誰も何も言えない。フランスは15分でもオーバーすると大変といった具合なので、日本とフランスの中間ぐらいでいいところはないのかな、という感じです」。
インスピレーションは自然から
永田さんは多種多様な分野の作品でクリエイティビティを発揮しているが、その豊かな発想はどこから来るのだろう?「自然の中の色から感じることは多いです。例えば葉っぱだとか土やコケ、夕日の色とかね。色彩の組み合わせなんかも、秋の葉には一枚の中にもいろんな色合いがある。森の中をちょっと歩いたりすると、すごく豊かな色合いから多くのインスピレーションを受けます」。彼の描く映像の源には、自然界に存在する色彩の豊かなニュアンスがあるようだ。新しいフィルムをテストするときにも、永田さんはカラーチャートよりも生魚や生野菜が持つリッチな色彩で行う。カメラの前にマグロやアーティチョーク、ニンジンなどを並べてコンポジションをつくる彼は、静物画を好んで描いた昔の絵描きの気持ちが良く分かるという。現在ジャン=ピエール・ジュネ監督の新作に向けて準備中の彼の頭の中には一体どのようなビジョンが描かれているのか。名撮影監督が鬼才ジュネと生み出す映像を観るのが待ち遠しい。
1985年渡仏。今村昇平監督 の「カンゾー先生」(98)の ヨーロッパ公開に関わったことがきっかけでプロデューサーに。最新作「Tokyo!」は2008年カンヌ国際映画祭ある視点部門へ出品。「フランスにいてフランスの映画ばっかり作っていた方がシステムの中で安定はするけど、それではただの職業になってしまう。やっぱり作るんだったら夢見てる方がいい、って思ってます」

「映画をやり直そう」
日本の大学で映画を勉強した経験を持つ澤田さんは、映画評論家の山田宏一さんの影響もありフランスに来た。ところがフランス語の勉強をしているうちに年齢制限のある映画学校の試験を受けるタイミングを逃してしまう。結果、年間800本以上の映画をシネマテークで観る生活を2年以上続けることに。しかしその時の体験は、現在の映画製作に影響を与えている。「当時は言葉が分からず、まるで無声映画を観ているように映画言語だけで作品を理解していました。観終わった後にいろいろと考えたり、内容が他の作品とごちゃまぜになったりしながら、自分の頭の中で別の映画が作られたり。その別の映画が今自分の作る映画のアイデアになったりするんです」
綱渡りで撮った「Tokyo!」
ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノという全く異なる才能を持つ監督によるオムニバス映画「Tokyo!」の製作にはさまざまな困難がつきまとった。「資金が全体の半分程度しか集まってないのに、あとの半分はフランスで集められる、っていう自信があって始めちゃってるから、撮影を進めながらお金を集めて、交渉して契約してということに。いい勉強になりましたが、綱渡りでした」。この方法で完成までこぎつけられたのは、「映画を作るためにお金を集めたりプレゼンテーションして人を説得するのは嫌いじゃないし、監督と話すのも好きだから」という澤田さんならでは。「3人の監督は全く個性が違うから統一性はないけれど、その統一感のなさこそ東京という街のひとつの特徴」という言葉に私たちもすっかり納得。つかみどころのない東京を、天才監督たちの目を通して観るのが今から楽しみだ(日本は今夏、フランスは今秋公開予定)。

「Tokyo! <Merde>」レオス・カラックス
©comme des cinémas
高橋晶子高校卒業後すぐに渡仏。語学学校を経てパリ第8大学の映画科にて映画修復を学ぶ。現在は通訳・翻訳のみならず映画イベントなどのコーディネート、映像製作を手掛ける。「フランスに来ることに迷いはありませんでした。ヌーヴェル・ヴァーグの映画を字幕で観るのに耐えられず、フランス映画を字幕無しで観られるようになりたいと思ったんです」
www.caps-association.co.jp

10年続く「パリの同窓会」とは?
高橋さんは、学生時代ポンピドー・センター主催のドキュメンタリー映画祭にボランティア・スタッフとして参加。この時の出会いが彼女の人生を変えた。「黒木和雄監督を初めとする日本の監督一行と1週間行動を共にしました。『映画作りの心』みたいなものを教わりたいと思って手伝い始めたのですが、それ以上に人としての態度や、生き方で教えられることが多かった。人と接していると、本当に才能のある人は本当に謙虚なんだといつも感じます。そういうところを真似したいと思っています」。彼女が敬愛する黒木監督は残念ながら2年前に他界したが、今でも高橋さんは日本に帰国するたびに当時出会った監督たちに連絡を取っては皆で集まり、「パリの同窓会」を開いている。
「Oui」と「ハイ」の狭間で
以来、日仏間を結ぶ架け橋として働く中で、高橋さんが気をつけていることがある。「日本人はすぐに『ハイ』と言うけれど、それは『今あなたの言うことを聞いていますよ』というニュアンスであることをきちんと伝えないといけません。それを『Oui』と訳すと、フランス人は『OK』の意味で受け取ってしまい、誤解のもとになってしまいます」。また、それぞれの人の言葉の使い方を察知するためにも事前の調査は必要不可欠。「その人の考え方、おっしゃっていることのニュアンスを正確に察知するためにも、読めるものは全部読み、観られるものは全部観ることはもちろん、実際にその人と会話をして、その人の物腰をつかむようにしています」。現在、高橋さんはルーヴル美術館主催のRemploi-L'Image Matiéreという映像の反復表現をテーマにしたイベントに際し、松本俊夫監督作品についての企画を担当。5月17日には日本を代表する実験映画作家である監督自らが来場するということなので、是非会場に足を運びたい。


監督、プロデューサー、脚 本家などから生まれたアイデアを映画企画にしていく準備。シナリオ・ハンティングや役者・スタッフ探し などが行われる。
CNC*の助成金申請や共同製作・スポンサー交渉、映画の規模に合わせた予算作成、配給会社交渉。大規模な映画の場合はこの時点で海外輸出交渉や映画祭アプローチに入る場合もる。
*CNC:フランス国内の映画振興政策を担う公共機関フランス国立映画センター。映画製作への助成・支援も行っている。
脚本直し、キャスティング、スタッフィング(メインキャストなどは企画製作・立ち上げの段階で決定する場合が多い)、ロケーション・ハンティング、衣装・美術作成など。
主な参加スタッフは、監督、撮影監督、記録、演出部、撮影部、照明部、録音部制作部、美術、衣装、メイクなど。
編集、音入れ、音楽制作などを行い、撮影された素材を映画として完成させる。この時点で配給が未定の場合、配給会社へのアプロー チが行われる。
製作会社は配給会社へポスターなど宣伝用の画像提供、専門のセラーへ海外輸出業務委託、各映画祭出品などを行う。また公開時は、監督や俳優はプロモーション活動を行う。


主に映画祭やフィルムマーケットなどで購入。劇場配給権、TV放映権、パッケージ権など個別取引される場合もあるが、全ての権利を含めたオール・ライツで取引されることが多い。権利期間は7~10年が主流。
公開規模を予測し予算を見積もる。予算内訳は各劇場で上映するためのフィルムプリント費、広告費、予告編制作などの宣伝費など。
通常2週間程で作成。世界同時公開など映画完成から公開までの期間が短かったり、公開決定が急な場合などは期間は短くなる。
プレスシート、予告編作成
映画のターゲット、コンセプトに合わせ、TV、ラジオ、出版社などのメディアを始めとする各企業へ打診。
各劇場の番組担当者や批評家、ジャーナリストなどへ向けた試写会、売り込みを行う。
パリの場合、基本的に興行との契約は1週毎。そのため、初日から日曜までの動員数によって翌週の上映が決まる。毎週月曜日に翌週分(同週水曜日からの1週間)の上映を交渉。1週目で成績が残せないと打ち切られるため、口コミによる宣伝期間が持てないのが問題。公開後も地方の映画館など、さらなる劇場交渉は続く。

ウラを覗けば見たくなるのが映画の常。フランスで安く映画を見るための必需カードを紹介!
| 映画館 | UGC、MK2、提携映画館 |
| 会費 | 19.80€/月 |
| website | www.ugc.fr |
| 欧州全土のUGC、フランス全土のMK2系列映画館および提携映画館、合計約750スクリーンで、年間650以上の映画が見放題。 | |
| 映画館 | Gaumont、Pathé、提携映画館 |
| 会費 | 19.80€/月 |
| website | www.cinelepass.fr |
| フランス全土のGaumont、Pathén列映画館および提携映画館、合計約700スクリーンで、年間100以上の映画が見放題。 | |
| 映画館 | Cinémathèque française |
| 会費 | 10€/月 |
| website | www.cinematheque.fr |
| 1日2~10本程度上映される世界の名作が見放題。他、展覧会や各種イベントにも無料参加出来る。 | |
| 映画館 | Centre Pompidou |
| 会費 | 48€/年 |
| website | www.centrepompidou.fr |
| ポンピドー・センターの展覧会見放題カード。映画開映1時間前までに予約をすれば、満席時を除き同館内にある映画館で無料で映画が見られる(フェスティバル上映は除く)。 | |










