フランス上流社会の食事会に招待されたらどう振る舞いますか?
階級社会の歴史を背景に、家庭のしつけを通して
最高の礼儀作法を身に着けようと競い合って いたフランス人。
価値観の変化とともに礼儀作法を厳格に守る意識は薄れていっても、
今なお上流社会においてそのルールは徹底されています。
今回は、マナーの大切な2本柱、食事と会話について
礼儀作法のスペシャリスト、ソフィーとともに解説します。
フランスの伝統的ルールを理解すれば、
堂々と快適な時を過ごせるだけで なく、
日本人ならではの応用も利かせられるでしょう。
(Texte et photo:Satomi Kusakabe)
ソフィー・ドラビーニュ
Sophie de La Bigne
ジャーナリスト。フランスの礼儀作法のスペシャリスト。創刊120年の歴史を持つベルギー の社交界雑誌「L'Eventail」に寄稿している。また、フランス、ベルギーで企業や各種団体に礼儀作法の歴史や社会生活のあらゆる場面での礼儀作法について講習なども行っている。出自は13世紀から続く貴族の家柄。
www.eventail.be
到着のタイミングとプレゼントは?
フランスでは食事に招待された時間以前に到着するのは、大幅に遅れて到着するのと同レベルで失礼なこと。まだ準備中かもしれない先方を慌てさせてしまいます。「Un quart d'heure de courtoisie(politesse)(礼儀の15分)」という言葉が表すように約束の時間以降、15分くらい遅れて到着するのが礼儀です。30分以上遅れるなら事前に連絡をして詫びておきましょう。
手土産は本来、何も持って行く必要はありません。招待は100%好意なのですから。ワインやデザートは、料理との相性を考えて既に準備されているはずなのでプレゼントにはNG。ただし、度々招待されているのに招待できないでいる場合や非常に親しい間柄なら、その限りではありません。保存が利いて人にも振る舞える、箱詰めチョコレートやワインなどのアルコールもOK。あくまで先方の立場になって、臨機応変にしましょう。
花束のプレゼント。当日持参しないのは、招待した女主人の仕事を余計に増やすという理由からです。贈りたい場合は、前日もしくは当日の朝に、お祝いのメッセージとともに花束を配達で贈るのが粋。翌日、お礼のメッセージを添えて配達するのも良いですね。
あいさつはどうする?
玄関のドアが開き迎え出てく れた人々にあいさつをしたら、その先は女主人の導きに従いま しょう。招待客を迎える役割を担う女主人が男性を女性へ、若者を年長者へ、一言添えて皆に紹介してくれます。
顔見知りの女性や異性へはほおとほおをつけてあいさつ(embrasser)をしてもOKですが、初対面の相手には握手が礼儀。相手が手を差し出さないなら、軽く頭を下げるにとどめましょう。「Enchanté(初めまして)」ではなく、「Je suis ravi(e) de vous avoir rencontré(お目にかかれてうれしいです)」と、あいさつは一文にして交わします。自己紹介の際には名前だけでなく苗字もはっきりと。苗字から出身などが想像でき、会話のきっかけにもなるからです。
より格式的なあいさつベーズマン (baisemain) は、19世紀末のフランスでは王室の女性に対する行為でしたが、現在は目上または地位のある婦人などに敬意を表し行います。男性が頭を下げて女性の手を取り、口をそっと近づけます。ただし未婚の若い女性には決してしないように。また屋外や公共の場では行わないことに注意です。
着席の時が来たら?
招待客を待ちながら食前酒を楽しんでいると、女主人の合図、もしくは家の主人が自身の右隣に座る女性を食卓に導いて、いよいよ着席の時が来ます。食事が楽しく、スムーズに進むようにリードするのは女主人の役目です。
席順にもルールがあります。例えば、招待されたのが2組のカップルの場合、まず対面で座る主人・女主人を中心にして、両者の右隣が日本でいう上座Place d'honneur。女主人の右隣には男性が、主人の右隣には女性が座ります。もう一組の招待客が両者の左隣で、異性が交互に座ることになります。
Place d'honneurに座るのは優先的に、初めての招待者、最年長者、職業的に重要な人物の順。また、新婚1年未満の夫婦は隣り合って座ります。原則的に女主人が着席した後に、他の全員が着席します。
大人同士の食事には子供を連れて行きません。 招待者が認めれば、12歳くらいから大人との同席を許されますが、食事中はひたすら黙って 会話を聞くのみ。大人の会話からさまざまなことを学ぶためです。でも、この沈黙はチーズが終わるまで。デザートからは自由に話すことが できます。子供がテーブルを離れるときは同席する大人たちの許可を得ること!
料理を取る順番は?
大皿に盛られた料理を回して取る場合の順番は、まず主人側のPlace d'honneurの位置に座る女性から始まります。その後は主人の左側にいる女性、そして全女性にいきわたって女主人が取ってからPlace d'honneur の男性、女主人の左側の男性へと回り、最後に主人。
食事の始まりは女主人がナイフとフォークを取った時。これが合図となるので、「Bon appétit」と声を掛け合うのはNGです。また、日本人の習慣でもある互いのグラスを鳴らす行為もフランスでは下品な 振る舞い。皆のグラスのワインや水に気を配るのは主人の役割なので、欲しい場合には彼に声を掛けましょう。
出される料理は、すべて女主人が腕をふるった 自慢料理でしょう。それなら、と褒めたくなりますが、実は食事中、褒め言葉を女主人に伝えるのは1回のみ。なので、前菜で感激してもデザートまで待って、最後に伝えましょう。
スマートな会話とは?
食事中の雰囲気、相手のことをおもんばかりFaire des frais(愛想良く)、聞き上手、話し上手になるよう努めます。食卓では必ず両隣の人と話しましょう。自分のことばかり語ること、逆に黙っていることはどちらも悪いこと。長話よりも、短く的を射た言い回しの方が効果的。知性をてらうような名句などの引用はしないのが無難です。
「話術こそ人を制す鍵」と言われるフランス語の重みを理解し、正しいフランス語を使うことが大切です。例えばdes fois(時々)は使わずparfoisやquelquefoisを、De rienよりはJe vous en prieを、自分の伴侶はmon époux、mon épouse とは言わずmon mari、ma femmeを、papaや mamanの代わりにpère、mère を使いましょう。
初対面の相手には健康状態、子供や家族についてなど、あまり個人的なことを質問したり、自分からも深い身の上話をしたりしないように。天気などの一般的な話題から始めましょう。議論が煮詰まると食卓の雰囲気を壊す恐れの大きいPolitique(政治)、Religion(宗教)、 Argent(お金)の3つ(それぞれの頭文字をとって「PAR」) の話題は避けて。
食後、帰るタイミングは?
全員がデザートを終え、女主人が立ち上がると食事終了。女主人も含め、少しリラックスするようにテーブルから離れリビングへ移り、コーヒーやハーブティー、食後酒などで締めくくられます。移動した時点でタバコを吸うも良し、化粧を直しにトイレに行くも良し。
リキュール類が振る舞われたら居心地が良くなって長居しがち。夕食で深夜0時以降に招待客が残っていたら食事会は成功とされるので、長居 は食事会成功・不成功の物差しです。酔い覚ましにと女主人から出されたドリンクがオレンジジュースなどの清涼飲料だったら、「こよいはこれにてお開き」の合図。帰る準備をしましょう。
1人が帰ろうと立ち上がり皆にあいさつをし始めると、「Mouton de Panurge(羊の追随行動)」と表現されるように、招待客は続けざまに帰りがち。皆一斉に帰ると女主人が興ざめするので、ばらばらに帰りを告げるのがベスト。招待客が大人数で、宴もたけなわの中帰る場合は、家の主人と女主人にだけあいさつし、さりげなく去る「A l'anglaise(イギリス風)」という方法もあり。
サラダはナイフで切りません。いまやナイフはステンレス製ですが、ビネガーソースや卵の黄身などは銀製のナイフに付着すると黒ずませるからです。葉を折りたたむようにしてフォークで口に運びます。
グラスにワインを注が れる時は置いたままにします。ただし、「注ぎにくいから持ち上げて」と言われたら、その時には持ち上げて。
ナイフとフォークはお皿の両側に耳のように突き出して置きません。あまり突き出ないようにナイフの刃の部分を内側に、フォークは伏せて交差させ、お皿の中央に置きます。
目の前に置かれている美しいお皿、何のメーカーか裏返して見てはダメ。知りたければ、言葉にして女主人に褒めてみましょう。きっと、喜んで自慢の食器について語ってくれるはず。
manger(食べる)という動詞は避けましょう。prendre le repas(食事を取る)やmettre à table(食卓に着く)、dîner(夕食を取る)、déjeuner(昼食を取る)を使うとマル。
残ったソースを最後まで味わいたい場合は、小さくちぎったパンをお皿に置き、それにフォークを刺してお皿上を滑らせソースをしみ込ませ、そのままフォークで口に運びます。
ソファーやいすに座る場合、足は組まずに平行に並べるとエレガントです。
デザートのために大抵スプーンとフォークが用意されていますが、ヨーグルトやアイスクリーム、ソースなど以外の固形物はフォークを使います。メタル部分の面積が 広いスプーンに比べ、より料理が味わえるという実用的な理屈に由来します。
招待された日から数日中に女主人にお礼を電話や手紙で。お返しの招待は2~3カ月以内に。










