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ロンドンのゲストハウス
mar 24 mai 2016

バイリンガル子育てのポイント

親から受け継ぐ言葉「継承語」。「現地語=フランス語」で育つ子供を持つ親にとって、「継承語=日本語」を学習させるのは、容易なことではない。バイリンガル子育てをするためには、どのような点に気をつけたらよいのだろうか?バイリンガル教育、継承語教育、日本語教育学を研究されている言語学者、中島和子先生に伺った。
(Interview réalisé par Kei Okishima)

バイリンガル教育を家庭で行う場合、
家庭ではどのような教育をすべきですか?

まず大前提としてお伝えしたいのは、親は家庭で日本語の先生にはなれない、なってはいけない、ということです。親が先生になると、子供はとても息苦しくなってしまいます。子供は言葉を自然に覚える能力を持っています。ですから本来、継承語も母語も同じように育つはずです。つまり、継承語を学習させるには、母語と同じように学ばせるのが得策なわけです。

それでは、親ができることは何でしょうか?

母語はどのように学ぶと思いますか? 教科書を使って母語を教える、ということはありませんね。家族の一員になるために言葉が必要になるからこそ、子供は言葉を覚えていくわけです。言葉を育てるために必要なことは、「子供に話し掛ける」、「子供の話を聞いてあげる」、「子供と一緒に話し合う」という3点です。ですから、日本語をきちんと使ってできるだけたくさん話をすることが大切です。

言葉の発達をみてみると、2歳ごろから話し始め、8歳ごろに話す力のピークを迎えます。この間に話し言葉の基礎をしっかりと育てることが大切です。日本語で話し掛けられたら反射的に日本語で答えるという習慣づけも、この時期につけておくといいでしょう。8歳ごろまでにしっかりと会話ができるようになっておけば、その後はそれほど変化は見られません。後々、読み書きの能力を伸ばすためにも、話し言葉の基礎というのが必要になってくるので、この基礎作りの時期は非常に大切な時期です。  

もう1つ大切な柱は、読み聞かせです。会話、つまり話し言葉というのは語彙(ごい)が日常語 彙に限られています。しかし本にはいろいろな言葉が出てきます。このような書き言葉の語彙も増やしておくことが、後々とても大切になってくるのです。

4歳から6歳の間に読み聞かせをしてもらって育った子供と、そうではない子供と比較すると、小学校に入ってから大きな差が見られます。子供は4歳ぐらいから文字に興味を持ち始め、小学校1年生で文字教育が始まります。1つ1つの文字を習った後、文字の塊で単語を理解していくようになります。例えば「りんご」は「り」と「ん」と「ご」という文字の塊でできていますよね。その塊が、今度は「りんごがあります」という文の塊になります。文章を読むとき、文字列の中でこのような塊に見えるかどうかが読解力に関わってくるのです。

仮に親に読み聞かせをしてもらえなかった子供が文字を習い、文章を読んだとしても、始めから終わりまで字を読むことはできます。しかしそこに何が書いてあるかが分からないということがあります。移民や先住民の子供たちに多く起こる現象ですね。文字は読めるのですが、意味が分からないのです。小さいときから本を読んでもらっていた子供は、文字の裏に面白いストーリーがあることを知っているのですが、そういう経験がないと、ただ文字を読むことが、読むことだと思えてしまうのです。では、どのような本を選ぶべきかというと、大切なのは子供が興味を持ちそうな本を選ぶことです。

継承語が伸びやすい社会環境というのはありますか?

言葉の社会的な地位というのも言語習得には関わってきます。つまり、その言葉がその国、社会でどのくらい必要とされているか、価値があるか、ということです。例えば、日本社会では英語を話せるということに価値があります。ですから、日本で英語が母語だという父親もしくは母親がいるご家庭のお子さんは、現地語である日本語も、継承語である英語も両方伸びる可能性が高いのです。それが例えばポルトガル語だとすると、日本ではポルトガルを話しても、うらやましがられるわけでも、特に褒められるわけでもないわけです。子供は、誰も教えなくても社会的な価値を体を通して感じ取り、周囲の価値観を内面化していくのです。

理想的な家庭環境というのはあるのでしょうか?

バイリンガル教育をするためには、まず両親ともに「バイリンガルに育てる」という目標を持ち、両方の言語が育つように工夫することが大切です。  

ニューヨークのあるご家庭の例ですが、全く日本語が分からないアメリカ人の父親が居ました。母親が子供が小さいうちから日本語で熱心に話し掛けていたために、子供の日本語の力が英語より強くなり、父親が親子の会話に入れなくなってしまいがちだったのですが、この父親は「僕はあと2、3年我慢するよ」と言ったそうです。つまり、子供が学齢期に入ると、あっという間に英語が強くなることを分かっていたわけです。確かに、この父親の言うとおり、学齢期に入ると、学校での「学ぶ」言語が急成長するので、それまでに継承語を強くしておくことが大切です。学校に入るまでに日本語の基礎を作っておかないと、バイリンガル育成は難しいでしょう。  

ただ会話に入れない父親が怒ってしまうというご家庭もありますし、言葉のせいで全てが嫌になってしまい離婚に至ったケースなども実際にありますので、短絡的に考えず、それぞれの家庭で長期的な計画を立てる必要があります。バイリンガルになるための言葉の習得は、20歳の始めごろまで掛かります。このことを念頭に置き、両親が長期的に言葉を育てていくという心構えでいることが大切なのです。

学齢期になって初めて継承語を教え始めることは可能ですか?

それは難しいですね。ただ、それが可能だとすれば、学校の中で2つの言語を使って勉強をする場合です。カナダにはそういうシステムが存在します。また、アメリカでは公立学校の一部として日本語と英語を学習言語として使っているところがあります。例えば、植物のことを日本語で習ったら、それを英語で復習して先にちょっと進む、そして英語で習ったものは日本語で復習してまた先にちょっと進む、という方法です。このような学校が存在すれば、バイリンガル教育としては理想的な環境です。

上記のような環境がない場合、どのような方法を取ればよいのでしょうか?

週末などに、日本語を学ぶ場、使う場を地域で作ることです。日本語を使う仲間を作り、日本語で話せるという場です。言葉というのは生きているものですから、使う相手が必要なんですね。親とだけでは子供はあまり日本語を使おうとしなくなるものです。そのため、日本語で交流できる仲間がいるというのが非常に重要になります。そして理想的には、1年に1回ぐらいは日本へ連れて帰り、日本でも友達作りをすることです。  

また、フランスで日本語の学びの場を作るときの注意点としては、日本語の会であるけれども、何語を話しても許されるというような自由な雰囲気の環境にすること、家族ぐるみで参加できるような場にすべきだということが挙げられます。アメリカの例を挙げると、週末に行われる日本語のプログラムで、学年の終わりに子供たちが発表をする会が開かれます。そのときに子供たちは胸に日本の国旗やアメリカの国旗を付けています。両方の国旗を付けている子供は、どちらの言語でも発表できるということを示しており、見に来た親のリクエストで発表する言葉を選びます。このような活動に両親の言語が両方含まれていると、家族ぐるみで参加することができますね。発表の準備をするにも両親共関わることになります。どちらか一方の親の言語だけを使用し、片親しか興味を持たないと、長期的に活動を続けていくのが難しいのです。  

このような仲間を作ることは、継承語学習者の民族言語アイデンティティー形成の上でも助けになります。民族言語アイデンティティーは通常、言葉の力が強くなると同時にしっかりしてくるものです。しかし、フランスで継承日本語を学習している者は、フランス語の力が強くなるとともに、日本語に対して自信を失くしていきます。そして、学校など一歩家の外へ出ると、外見から日本語が話せるだろうと期待され(押し付けられた外的アイデンティティー)、実際の心の中の自分(内的アイデンティティー)との間にズレが生じ、苦しむことになります。

また、家庭の中では両親にフランス語ができるだろうという期待を持たれ、実際にはそうでもない自分との間にズレが生じることもあります。こういうズレに苦しむ子供にとって、学校でもない、家庭でもない、第3の場所が必要になるわけです。例えばカルフォルニアでは、日系人のバスケットボールのチームがあります。通常、バスケットボールは背が高くなくては活躍できないため、日系人はなかなか現地のグループに入ることができません。そこで日系人だけのグループを作り、その中で競争させるわけです。このように、子供が正当に評価される場、自分が生き生きと活躍できる場があること、そして自分の悩みを共有してくれる仲間を見つけることが大切です。

「これはしてはいけない」という注意点はありますか? 

家庭の中で「教えよう」としないことです。バイリンガル「教育」ではなく、バイリンガル「子育て」をしていると捉えなくてはならず、言葉がストレスにならないようにすべきです。あの手この手で子供が日本語に興味を持つような形にもっていくことです。「日本語を話しなさい」と言って話すようになるわけではないのです。例えば、現在日本には、英語で勉強をするインターナショナルスクールがあります。その中のルールとして、学校内で日本語を使うとペナルティーを課す、という所があります。こういう方法は望ましくありません。家庭でこんなことをしたら、子供は言葉を使わなくなります。言葉は使わなくては発達しないのです。  

ブラジルから来たある青年で、10歳まで母親と日本語で話していたという方が居ました。しかし10歳以降、一切日本語を話すのを止めたというのです。理由を聞いてみると、「10歳のとき、母親が自分の日本語を『助詞のない日本語だ』と言ってまねした。それ以降日本語を話さなくなった」というのです。これは継承語話者の典型的な傷付きやすい心情を表しています。また、よく耳にするのは「自分は日本語を使わないと怒られる。しかし使うと、(間違っているから)また怒られる」というパターンです。継承語話者は自分が日本語を正しく使えなくなっていることを分かっており、自信がありません。本来、継承語話者が怒られる筋合いはないわけですから、デリケートな気持ちでいる子供たちを批判してはいけません。自尊感情を傷付けないようにしなければならないのです。少しでもいいところがあれば褒めてあげましょう。  

言葉は話し合いに使うもので、ワークブックだけをやっていても伸びません。言葉の根が深まるようにするためには、言葉を楽しめるようにしてあげることです。例えば、子供が好きなビデオを一緒に見て、それについて話し合うのもいいでしょう。ただ見せるだけではダメです。ビデオを日本語で見ることによって自然と日本語の世界に入り、そのまま日本語で話し合うのです。他にも一緒に何かをする中で、日本語を使うようにもっていくことが大切です。

家の中で教えてはいけないとすると、
読み書きはどのように教え始めたらよいのでしょうか?

読み書きには適齢期があります。学齢期以前は、子供は自分と関係があるひらがなに興味を持つ程度なので、ひらがなを48文字全て覚えさせるということは普通はしません。ですから、親ができることとしては、実際に親が字を書いているところ、文字を読んでいるところを見せてあげることです。そういう姿を子供が見ることで、文字に興味を持たせることです。子供は周囲の大人の行動をまねるという形で言葉を習得していきます。

実際の読み書きを教えるのは、同年代の仲間と一緒に日本語の文字を学ぶというスタイルがよいでしょう。補習校のような所に行くのもよいですし、小学校3年生くらいまででしたら、同じくらいの子供を持つ親が集って、交代で先生をするのもよいと思います。小学校高学年になりますと、教える内容の難易度も上がり、教える側がそれなりの資格がある方でないと難しくなりますが、少なくとも文字の初歩を教えるという意味では、親の集まりでもよいかと思います。前述の話し言葉と同様、一緒に学ぶ仲間が居ることが大切です。  

また、漢字を上手に覚えさせた例としては、家族で漢字検定を受けて、漢字が書けるバイリンガル子育てに成功したという方がいらっしゃいました。これは、漢字を覚えるのを子供だけに強いたのではなく、父親も母親も、家族全員がそれぞれ同じ目標に向かって取り組んだという点がポイントですね。みんなで一緒に何かをする、というのがよいのです。

子供が日本語を拒否した場合にはどうするべきでしょうか?

なぜ子供が日本語を嫌がるのか、原因を考えることが大切です。例えば、友達がフランス語を話すのに、自分だけ日本語を話す意味がない、と思っているのなら、日本語を話す友達ができるような環境を作る。また、フランス語の力が強くなってきて、日本語を話すのが面倒くさいという場合には、できるだけ日本語を聞かせてあげる、また子供が興味を持つような日本語の本や映画など、材料を提供してあげるとよいと思います。  

現地語での生活が長くなるにつれ、どうしても現地語の方が話しやすくなり、単語もフランス語がパッとでてきてしまうようになります。このようなときには、フランス語で子供が言った単語を「○○ね」と日本語でリピートしてあげます。正しいモデルをサッとさりげなく教えてあげることです。継承語の基本は親から学ぶ、親の言葉をまねすることです。ですから、いつでも正しいモデルを示してあげ、子供が聞いて覚えられるようにすることが大切です。  

このように、親としてはあくまでも日本語を「提供」することが大切なのであって、拒否されたからといって強制的に何かをしたり、叱ったりするのは逆効果です。


中島和子 先生
Kazuko Nakashima

トロント大学名誉教授、母語継承語バイリンガル教育(MHB)研究会会長。著書に「バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること」(アルク)、「言葉と教育 海外で子どもを育てている保護者のみなさまへ」(海外子女教育振興財団)、「マルチリンガル教育への招待ー言語資源としての日本人・外国人年少者」(ひつじ書房)、「言語的マイノリティーを支える教育」(カミンズ著・中島和子訳著、慶応義塾大学出版会)など。

 

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