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ロンドンのゲストハウス
dim 19 novembre 2017

谷本 歩実 インタビュー フランスで新たに柔道を学ぶ

谷本歩実
金メダルを獲得した北京オリンピックでの表彰式

アテネオリンピック、北京オリンピックともにオール一本で金メダルに輝いた谷本歩実。そんな谷本は、今年3月からJOCスポーツ指導者海外研修員として渡仏し、フランスおよび周辺諸国の柔道事情を学んでいる。「一本柔道」を貫き、日本の柔道を守り続ける谷本が、フランスから学ぶこととは一体何なのだろうか?
(Interview réalisé par Kei Okishima)

谷本歩実(たにもと・あゆみ) 
柔道家


1981年8月4日生まれ、愛知県安城市出身。9歳のときに市内の柔道教室で柔道を始める。高校3年生のとき、全日本ジュニア柔道体重別選手権大会で3位、ハンガリー国際柔道大会では2位となった。筑波大学に進学した2000年、フランスジュニア国際で優勝。04年アテネオリンピック、08年北京オリンピックの柔道女子63kg級金メダリスト。その他、世界柔道選手権で銀、銅メダル、アジア柔道選手権で金メダル2つを獲得した。段位4段。株式会社小松製作所に所属。

なぜ、フランスで柔道を学ぶのですか?

柔道は日本のものですが、今や国際的に発展を遂げているスポーツです。つまり、海外が日本の柔道を発展させてくれています。その中でも、フランスという国は、一番柔道が活発で、学ぶことの多い国なのです。今はいろいろな道場に行き、子供から大人まで、フランス人がどのように柔道を感じているのか、そして指導者が何を、どのように伝えているのかを研究しています。日本を一歩出て外から見ると、さまざまな問題点や課題が見えてくるので、とても有意義な時間を過ごしています。

日本の柔道にはどんな問題を感じますか?

今、日本の柔道界はいろいろな問題にぶつかっています。柔道がオリンピック競技となってからは、「日本の柔道なのだから、日本人は絶対に勝たなければならない」という意識のもと、選手を強化することに重点が置かれるようになりました。もちろん、勝つように教育することは大切ですが、柔道の生みの親である嘉納治五郎先生が唱えた「精力善用」、「自他共栄」という精神は、絶対に忘れてはいけないと思うのです。

勝利至上主義だと、どうしても得点を稼ぐことばかりを考えてしまうので、相手のことを敬う試合にはなりません。私は現役時代、競技としての柔道と、教育としての柔道が二極化していることを感じていました。では自分はどうするのか?ということで、随分悩みました。私は教育として柔道を覚えてきた人間です。しかし、勝ちたい。そして出た結論は「一本柔道」だったのです。  

一本を取るというのは、技術的にも精神的にも難しいことです。一本柔道を貫くためには、自分自身がやってきた全てを試合で出す必要があります。逆に、日々やってきたことが全て試合に出るので、そこに恥じない試合をしなければなりません。  

世の中に、ポイントを稼ぐ柔道が流行する中、私は一本柔道に徹したがために一年間負け続けたこともありました。ただ、得点を稼ぐ柔道をしている選手に出会うと、自分が本当の柔道を伝えなければならない、という思いがありました。だから、技術も、精神力も強くなるように、いっぱい練習を重ねました。

精神力はどのようにして強くするものなのでしょうか?

精神力も、技術と同じように積み上げていくものだと思います。今日の自分をゼロとして、明日の自分を1に、あさっての自分を2にするようにします。絶対にマイナスにならないように気を付けることで、自分は今日から強くなれるわけです。そして「強くなった」と自分自身を信じるために、練習を重ねるなど努力をし、自分自身を納得させられる根拠を作っていきます。

オリンピックなど大舞台に挑むときにも、精神力が重要になります。試合の前日は眠れなくなったり、当日の朝には緊張で食事がのどを通らなかったりするわけですが、それではエネルギー不足で負けてしまいます。そのため、「眠る練習」、「食べる練習」もしていました。マインドコントロール、というか、自分を安心させられる術を身に着けることも必要なわけです。

「一本柔道」にたどり着いた理由は?

ドコス選手に内股一本
ドコス選手に内股一本

幼いころから柔道の心を教えられていたので、もともと「一本柔道」というのは目指していました。ただ、得点を稼ぐ柔道が流行し、私自身揺れていた2001年、心に残る試合がありました。長年私のライバルとなったフランスのリュシ・ドコス選手との試合中、私は勝ちたいがために得点を稼ぎ、逃げてしまったのです。その試合自体は勝ったのですが、そのときにドコス選手に「これは本当の柔道ではなかった」と言われました。そのとき、本当に恥ずかしく、悔やみました。このころから、改めて自分が「一本柔道」を貫かなければならないと思うようになりました。

フランスの選手も、本当の柔道をしっかり理解しているのですね。

もちろん選手にもよりますが、フランスでは教育としての柔道がしっかり根付いていると思います。指導という面で日仏で異なる点は、フランスでは全国で同じ柔道を教えられるように、国が制度を整えていることです。フランスでは、柔道を教えるのに国家資格が必要ですが、パリでも地方都市でも柔道の質が同じであるように、そして教えが偏らないようにと、指導者を指導をする役割の人が居ます。つまり、柔道の先生が、自分の主観だけで柔道を教えてしまうと偏りが出てきてしまうので、情報を共有し、指導者も常に学んでいき、柔道の質を一定に保つようにしているわけです。日本ではこのようなシステムがないので、柔道の教えが指導者によってそれぞれ異なる気がしています。それゆえに生じる問題というのも、あるのではないかと思います。指導者が柔道の理念をしっかりと学ぶというのは、大切なことですね。

フランスでここまで柔道が人気がある理由はどこにあると思いますか?

まず、フランスが柔道を教育として推している点が挙げられます。国が認めた道場には助成金が出るので、各道場は助成金を得るために、体制を整え、責任を持って柔道を指導するようになります。このように、ビジネスとして柔道が成り立つというのは、大きなキーポイントだと思っています。

日本は、国を挙げて柔道を応援はしていますが、国が支援はしていません。例えば、町道場を開くのに、日本だと警察署員などがボランティアで教えることが多いのです。つまり、手弁当で教えていて、「柔道を経営する」ということが難しいのです。日本は、熱い思いやボランティア精神で柔道が成り立っているわけですね。フランスのようにビジネスとして柔道を成り立たせるためには、それぞれの道場が、客である生徒をより多く集めるためにさまざまな工夫をしなければなりません。つまり、指導者は柔道を教えるだけではなく、みんなが集まってくるように、楽しませる工夫をするのです。

日本ではこのような指導はしないのですか?

日本での指導者に、柔道を楽しませるという感覚はありません。むしろ厳しく指導します。例えばフランスの子供たちは、「柔道って楽しい」と言いますが、この感覚には驚きました。日本で柔道をしている子供たちは「強くなりたい」とは言いますが、「楽しい」と表現する子供にはほとんど会ったことがありません。フランスでは柔道というものを日本のように上からドンっと、押し付けられるのではなく、自主性が求められるのです。そのために、指導者が柔道の本質や喜びを具現化して伝えているような気がします。

日本独特の「体育会系」という教えは必要だと思いますか?

体罰はいけませんが、厳しさというのは成長する上で必要だと思います。ただ、この厳しさというのが、前の世代のようには通用しないのが現状です。では、どのように柔道を教えていったらいいのか? と考えたとき、そのヒントがフランスにあると思うのです。

例えばフランスでは、小さい子供の教室だったら、「いもむしゴロゴロ」など面白い名前をつけて、ゴロゴロ転がってみたり、技や礼がどれだけ上手にできるかなどのテストをして、トロフィーをあげたりと、柔道に対する意欲をかき立て、のめり込んでいくように仕向けています。

こういう形の柔道を見ていると、柔道というのは本当は広い入り口のあるスポーツなのだなと思えてきます。フランスの方が、柔道への第一歩が踏み出しやすいですね。日本は敷居が高いように思います。道着を着ていてゴロゴロと転がること、それも柔道の第一歩。フランスではこうして体を動かす喜びを覚えていくわけです。そこに礼をすることが入ってきて、仲間が居ることや、対戦する相手が居ることに感謝するようになる。次に技を覚え始め、投げられたときの痛みを知るようになり、投げられたときの受身を通して、自分を守る術を知るようになる……というように、フランスの柔道は、細かい過程を自ら感じ、学んでいけるように工夫されています。

楽しませる工夫というのは、本来日本人が得意なのでは?

そうですね。ただ難しいのは、柔道が「楽しい」だけになるのはよくないです。そこをしっかり吟味しなくてはなりません。スポーツというのは、時代とともに変わらなくてはいけないと思うし、変えてはいけないものもあると思います。その中で、日本の良さというのは絶対に失ってはいけないと思っています。

他の国では見られない日本の柔道の良さはありますか?

日本人というのはとても勤勉で、完成度を高め、自分を磨くことができる民族だと思います。柔道が好きな人というのは、職人肌の人が多いです。1つの技を磨くのに、何回も同じことを繰り返し、完成度を高めていくわけです。例えば、器を作るのに、粘土でただ形にするだけではなく、細部まで時間を掛け、丁寧に作り上げていくようなイメージですね。同じことを繰り返すというのは、忍耐が必要で、大変な作業です。しかし研究と同じで、同じものを改良しながら何度も繰り返し作り続けることで、精度が高まるわけです。これは日本の誇るべき精神だと思います。例えば、私が北京オリンピックの決勝戦で10年来のライバルだったフランスのリュシ・ドコス選手にかけた内股というのは、私が20年間ずっとこつこつと練習を繰り返してきたものなのです。そういう技が、決勝という舞台で出てくるのです。

フランスでの柔道指導風景
フランスでの柔道指導風景

2020年のオリンピックに東京が選ばれました。それに向けて、期待することはありますか?

日本が世界の人たちともっといろいろな情報を共有するようになったらいいと思います。  

日本は、やはり島国だと思うのです。フランスにいると、大陸続きで情報が共有されているというのを感じます。私が現役時代の話ですが、柔道の技にしても、去年はやったものが日本に入ってくる、というように、情報が入ってくるのが遅いと感じることがありました。今はインターネット社会で情報はいつでもどこでも入ってくるものですが、それでも実際に触れ合う機会というのがあるのは、大切だと思うのです。そうすることで、子供たちも世界に目が行くようになり、夢や目標を持てるようになるのではないでしょうか? 例えば今日本で子供たちに「夢がある人、手を上げて!」というと、ほとんど手が上がらないのです。逆に「夢って、どうやって作ったらいいのですか?」「夢って何ですか?」と聞かれてしまうのです。彼らは今、限られた日本の情報の中でしか夢を抱けないので、海外のアスリートなどと交流する場を持つことで、夢や希望を持てるのではないだろうかと思っています。

残りのフランス生活で達成したいことは?

この半年で、フランスの良いところ、工夫している点がよく分かりました。あと1年半で日本の良さ、魅力をもっと知りたいです。国際柔道連盟に加盟している国が200国以上あるのですから、それほど普及する柔道には、私がまだ気が付いていない魅力があるのではないかと思っています。それは、日本の魅力にもつながっていることだと思うので、そこをもっと学びたいです。

 

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