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ven 26 mai 2017

河瀬直美インタビュー 見えないものの存在を感じ、形にする

なぜ映画という表現方法を選んだのか―それは自分でも分からないという映画監督、河瀨直美。「映画の神様が舞い降りてきて『あなたは映画をつくらなければいけない』と言われたような、そんな言い方が一番しっくりきます。ですから、好きな監督は? どんな映画が好きですか? と聞かれると、答えが見つからないのです(河瀨監督談)」。今や日本人の映画監督としてカンヌでも欠かせない存在になるなど、フランスでもその人気は高まる一方だが、河瀨監督自身は何を求めて作品を生み出し続けているのか、また深まるフランスとの絆をどのように受け止めているのか ─新作「2つ目の窓」フランス公開前に伺った。 (Interview réalisé par Kei Okishima)

NAOMI KAWASE

初の劇場映画「萌の朱雀」(97)でカンヌ国際映画祭カメラドール (新人監督賞)を史上最年少受賞し、鮮烈なデビューを果たす。「殯の森」(07)で同映画祭グランプリを受賞。「玄牝-げんぴん-」などドキュメンタリー作品も多数。昨年にはカンヌ国際映画祭で、日本人監督として初めて審査員を務めた。祖母の故郷である鹿児島県奄美大島を舞台にした最新作『2つ目の窓』が日本各地で大ヒット上映中。10月1日からフランスでも上映される。
公式サイト www.kawasenaomi.com
公式ツイッターアカウント @KawaseNAOMI

自分は生まれなかったのかもしれない

1997年、初の劇映画「萌の朱雀」でカンヌ映画祭の新人監督賞(カメラドール)を河瀨監督は史上最年少で受賞した。  

「日本では『河瀨直美とは誰だ……』という感じで、映画業界の方は驚いておられたようです。私は奈良に住んでいましたし、大手の映画会社で映画をつくった経験もなかったので、当然のことだったと思います」

萌の朱雀
1997年にカンヌ映画祭で新人監督賞を受賞した作品「萌の朱雀」

河瀨監督の作品を語る上で、どうしても切り離せないのが、彼女の生い立ちだ。  

「私は生い立ちがとても複雑です。両親は、私が母のお腹にいるときに別居をし始め、私が1歳半のときに離婚しています」  

両親の離婚後、河瀨監督を育てあげたのは、実の父親でも母親でも祖母でもなく、母の伯母とその夫だった。彼らにたっぷりと愛情を注がれて育ったが、実の両親に育てられたわけではなく、父親の記憶もないという生い立ちは、河瀨監督の考え方にも大きな影響を及ぼす。

「もしかしたら、私は生まれなかったかもしれないと、いつも思っています。その反動でしょうか、生まれてきた奇跡を感じます。それは、もの言わぬ自然や神様の導きによってなされたことのように思うからです。そういう意味で私の命は、見えないものの存在を感じ、形にすることを役割としてこの世界に存在しているように思います」

この「もの言わぬ自然」や「神」、「命」、そして「死」は、河瀨作品の中で常に重要なキーワードとして登場する。  

「生や死など、命に関わる作品と向き合うのは、それが人間がずっと追い求めている真理に通ずると思っているからです。『死』と向き合うことは『生』と向き合うことだと思います」  

自分は生まれなかったかもしれないという、自分の「存在」自体への疑問を抱きながら、その存在意義を確かめるかのように創作活動に打ち込み、自分と向き合っていく。相手との向き合い方が常に真剣なのは、特に彼女のドキュメンタリー作品から強く感じ取れる。養母と暮らす日々を記録した「かたつもり」(94)、記憶に残されていない生き別れた父の姿を探すドキュメンタリー映画「につつまれて」(92)、その続編となった「きゃからばあ」(01)など、自分の家族をテーマにして撮った作品でみせた、真正面からぶつかっていく姿。人間と正面から向き合い、生々しい感情を吐露しながらも事実の深層に入り込んでいく手法は、必ずしも心地の良い時間とは言えないだろう。この試練を河瀨監督はいつもどのような考え方で乗り越えていくのだろうか。

「難しい事柄に出会うとき、その瞬間それを乗り越えられなくとも、私自身が諦めなければその問題はいずれいろんな角度からのアプローチにより、解決の糸口が見つかります。そしてそれは私だけの力で成し遂げられるものではなく、むしろ大きな支えや力によって成し遂げられることが多々あるのです。つまりは、諦めない。その気持ちが重要です」  

劇映画にも、死や命、自然といった生命の原点が壮大に描き出されているが、役者に自分の感覚を体現してもらうために、お願いしていることなどはあるのだろうか?

「少なくとも1週間前から撮影の現場に入って生活をしてもらいます。そうしてその人自身の生活環境から切り離し、映画の中の登場人物としての生活に切り替えてもらうのです。特に経験豊かな俳優さんほど、衣を身に着けていることが多く、それらをまずは脱いでもらうということから始めます」

「垂乳女」(06)では、監督自らの出産経験を通じ、養母から続く命のつながりについて描き出した。不確かな存在の自分から、確かな存在の子供が生まれ、自分は経験しなかった「実母がいる家庭」を築いたとき、「母親」の意味は監督の中でどう変化したのだろうか。

「私の場合は私が養母から受けた『母』たる存在には決してなれていません。養母はいつ何時でも私を送り出し、迎えてくれました。彼女が不在であったことがないのです。それに引き換え私と息子の関係は大きく異なります。いつも家にいるわけではない『母』の私を息子がどう感じているのか、『母』とは何であるのか。この問いは私の創作の根底に今後も存在していくことでしょう。つまり、まだ解決していない課題だということです。しかし漠然と『母』たるものの存在理由がもしあるとするなら、そこには『愛』が存在するはずです。ここで言う『愛』とは『他者を受け止める心』のことを指します。自分以上に大切なものの存在を育む行為とも言えるでしょうか?」

信頼や安心をも奪う競争はいらない

日本の水気を含んだ空気を感じさせる大自然、その四季の移り変わりのように生まれ変わる人間の命。河瀨監督の描きだす映像の世界に背を向けて、ふと現実世界に目を移せば、機能的で豊かな毎日の中で過ぎ去って行く21世紀が、人工的な「生」にすら見えてくる。いったい、私たちは生まれ持った感受性を維持しているのだろうか。麻痺してしまった感性は、取り戻すことができるのだろうか。  

「今は、時間の流れが早過ぎます。この点に関しては、社会が自分と他者を比べる『競争』を強いている背景が挙げられるでしょう。ある種の競争は必要かもしれませんが、生活や性格における個別のものへの信頼や安心をも奪ってしまうような『競争』は排除されるべきです。そうして、他でもない自分というものの存在を誇りに思い、生かされていることに感謝する時間を持つ。毎日暮れる太陽の前に立ち、今日一日を振り返る。つまり自分を見つめる時間を持つことができれば、自ずと感じる心も育まれていくはずです」

文化の違いを認め合い対話する場

河瀨監督が最初にフランスと関わったのは、初の劇映画「萌の朱雀」が上映されたカンヌ映画祭だった。  

「97年のことですね。カメラドールでは何もかもが初めてで新鮮で驚きでした。これまで真摯に取り組んできた映画作りに対するご褒美だと感じましたし、一番に私を育ててくれた養父母に捧げたいと思いました。その後『沙羅双樹』でコンペに出品。受賞はなりませんでしたが、授賞式には堂々と参加しました」  

沙羅双樹
2003年の作品「沙羅双樹」

カメラドールの10年後には「殯の森」(07)で同映画祭でグランプリを受賞、2009年にはフランス映画監督協会から、日本人で初めてとなる功労賞「カロスドール(金の馬車)」を授与された。13年にはカンヌ映画祭の審査員に選ばれ、河瀨監督とカンヌ映画祭、フランスは深い絆で結ばれた。

「カンヌは『賞を取るところ』というだけではなく、文化の違いを認め合い対話をするところ、新しい才能を育むところでもあります。『沙羅双樹』でコンペに出品したころから、カンヌとは両輪で映画を作り続けていくのだなという思いが芽生え始めました。出産を機に少し仕事のペースを緩め、息子が2歳になったのをきっかけに『殯の森』の製作に取り組みました。フランスとの合作。私自身がプロデュースした初めての長編になります」

「殯の森」
2007年にカンヌ映画祭でグランプリを獲得した作品「殯の森」

なぜこの作品は、フランスとの合作になったのだろうか。  

「日本ではお金が集まらないからです。フランスは脚本をきちんと読んでから出資を決めてくれます。テレビ俳優の有無を基準に考える日本の出資者とは明らかに違うところです。私のようにオリジナルの脚本とその俳優の素の力量を欲しがる作家には、このフランスの評価基準は適しています」  

フランスの会社が出資してくれるということは、作品ができる前にコンセプトを理解し、受け入れてくれたということ。自分の表現したいものを異文化、異なる言葉を話す相手に理解してもらうためにはどのような努力が必要なのか。  

「人間としての共通点を表現することですね。子供を育てるように、一つひとつ丁寧に交渉し、作品を完成へ導きました。グランプリをいただいたときは感無量でした。予期せず『黄金の馬車』賞をいただき、このときは、これまでの長編で唯一カンヌで上映できていない『火垂』を09年バージョンとして再編集し上映しました。  

13年には審査員にも選出され、スピルバーグ監督のもと、改めて映画への『愛』を確認し、『2つ目の窓』(14)の製作に臨むことができました。今でもスピルバーグ監督とはたまにメール交換をさせていただき友情を育むことができています。『いつもハングリーでいなさい』というような、彼の言葉は私をいつも勇気づけます」  

カンヌでの功績、合作としての仕事はもちろんだが、「きゃからばあ」(01)がフランスのテレビ局のプロデューサーに背中を押されて生まれるなど、監督とフランスとはどこかつながっている。この縁をどのように感じているのだろうか。  

「フランスは『自由』な感覚をもたらします。それは作家にとって、とても意味のあるものです。またフランスは、良い作品のために時間を費やすことを良しとします。『創る』ということに関して、真摯でいられる環境が私には適しています」

死の後に生き続ける悟り

フランスには河瀨監督に適した文化の土台がある一方で、生と死に対する向き合い方や、母親の在り方などは日本よりもドライだ。例えば「玄牝-げんぴん-」 (10)で河瀨監督は自然分娩をテーマとした作品を撮っているが、フランスでは無痛分娩が主流であり、母親も日本ほど母乳に対するこだわりはない。そこには、母親としてではなく、1人の女性、つまり人間としての権利を強く感じる。「母親とはこうあるべき」という義務感や固定観念、理想像から解放してくれるこの権利がうらやましい一方、日本人としては、母親しかできないことを、自分が楽になるためにと放棄してもいいのだろうかという罪悪感を感じてしまうのではないだろうか?  

「『愛』の形にはいろんなものがあり、これだと決めつけなくてもいいと思うので、どちらの考え方も持っていていいと思います。重要なのは、あらゆる選択があるということを『知る』ということです」  

監督の作品のテーマとして扱われることも多い「老い」も同様、国によって生活習慣が異なる。日本ではまだ根強い同居という感覚も、フランスではほとんど見られない。  

「自分を犠牲にしてまで何かをする必要はないかと思いますが、歳を重ねた人との時間はとても有意義です。また多くの悟りをもたらせます。それは決してそのとき限りの感覚ではなく、むしろ彼らが逝ってしまってからの感覚の中で生き続けるのではないでしょうか? 歳を重ねているということはそれだけ経験を積んでいるということでもあり、失敗も多く経験しているでしょう。時に彼らの言葉の中には私たち後身への『愛』が含まれ、自らのようにはならないようにという助言のようにも聞こえます。特に一つ世代を飛ばした者たちは(孫と祖父母)たくさん関わるべきではないでしょうか?」

「2つ目の窓」いよいよフランスで公開

「2つ目の窓」は今年のカンヌで上映され、10分以上のスタンディングオベーションに包まれた。審査員を1度経験し、再び見てもらう側に立ったとき、どんな変化があったのだろうか。  

「ずいぶんと楽しめるようになったと思います。映画を見てくれた人から町で声を掛けてもらったり、新聞の記事をきちんと受け止められたり。そうしていろんな考え方があるのだということを楽しんでいるのです」  

いよいよ来月からフランスでも一般公開される。  

「100館規模の公開は、私のこれまでの最高規模となります。より多くの方に映画を見ていただく環境が整いだしたことは、単純にうれしいです。フランスでの公開が成功することは今後の製作にも大きく影響するでしょう。とてもワクワクしています」  

この作品は、フランスとの共同制作で、フランス人の編集マン、サウンドデザイナーが参加している。河瀨監督のように深い日本の姿を描くときに、フランス人の感性や感覚というのは、どのように生きてくるのだろうか。  

「客観性をもたらしてくれます。時にその文化にはまり過ぎていると客観的なものの構築をしづらくなるのです。そこへ新たな方向から差し込んでくる光の役割をします。

この作品が、これまでの作品と異なる点があるとしたら、自分が撮りたいと思うよりも、撮らせてもらっているという感覚の中で映画が完成に導かれていった点ですね」

「2つ目の窓」 STILL THE WATER

2つ目の窓監督・脚本:河瀨直美
出演:村上虹郎、吉永淳、松田美由紀ほか
2014年10月1日より仏劇場で公開

亜熱帯の島、奄美大島に暮らす高校生の杏子と同級生の界人。杏子の母、イサは、ユタ神様として島の人々の心のよりどころとなっていたが、病に冒され、死期を迎えようとしていた……。自然と神と人が共存する奄美の大自然を舞台に、生命の源と命の連鎖の奇跡を描き出す。

 

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