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ロンドンのゲストハウス
dim 22 octobre 2017

バゲットが待っている - 焼きたてのパンでつながる社会 - 助け合いの心で開ける未来

温かいご飯を食べるときに心が和むように、焼きたてホカホカのバゲットを手にしたときは、ふんわりと心が温まる。そんなバゲットを誰でも気軽に口にすることができるようにと、市民の助け合いの輪が広がってきている。経済危機、戦争、領土争い、伝染病と、人々の平和を脅かすニュースが駆け巡る中、少しの発想の転換で資金もなく始められる草の根運動こそが、これからの社会を変える種なのかもしれない。

Une baguette en attenteとは?

2013年にジャンマニュエル・プリムさんが考案した、バゲットを買うお金がない人のために、匿名でバゲットを寄付する運動。寄付の方法は、コンセプトに同意したパン屋で寄付用のバゲットを購入するという簡単なもの。路上生活者など、バゲットが必要な人は、この加盟しているパン屋に立ち寄り、その日に寄付されたパンがあれば、無料で受け取ることができる。加盟店は公式サイトで検索することができる他、店頭には専用のロゴが貼ってある。 www.unebaguetteenattente.org

それはとてもシンプルな始まりだった

「バゲットが待っている」のコンセプトは、お腹を空かせた人のために、バゲットを1本寄付しようというもの。参加方法は至って簡単で、「バゲットが待っている」の活動に参加しているパン屋でバゲットを買うときに、自分が必要としている本数よりも1本余分に買う。この1本は寄付としてパン屋で保管され、お腹を空かせた路上生活者などがいつでもパン屋までバゲットを取りにくることができるのだ。

この活動に参加するパン屋は「バゲットが待っている」の専用のロゴを店頭に貼り、その日に何本のバゲットが“待っているか”を黒板にしるしておかなければならない。“待っている”ことが分かれば、バゲットを必要としている人もパン屋に入りやすいからだ。

「匿名でパンを寄付し、匿名でバゲットを取りに来る。パン屋が仲介することで、社会的な助け合いの輪がつながります」と語るのは、「バゲットが待っている」のアイデアを生んだジャンマニュエル・プリムさん。イタリアのナポリで発祥した「Caffè sospeso」というシステムに感銘を受けて考えついたという。

「イタリアのカフェ・ソスペーゾは、温かいコーヒーが飲めない人のために、裕福な人が2杯分のコーヒーを払うというものです。このコンセプトをフランス風に適応できないかと考え『バゲットが待っている』が生まれました」  

発案者のプリムさんは公務員で、普段はチャリティー運動などとは関係のない仕事をしているが、「バゲットが待っている」のアイデアが浮かんでからは、自身が住むピュイ・ド・ドーム県のパン屋にコンセプトを説明し、少しずつ活動を広げていった。その後、マスコミがこの活動について取り上げるようになり、全国に広がっていったという。  

「非営利団体などにお金を寄付することは、近年少しデリケートな問題になってきました。それは、非営利団体による横領問題が発覚したり、募金したお金の大半が団体を運営するための費用にならざるを得ないということを、募金者が知っているからです」

慈善事業に問われる明朗会計

確かにフランス人の中には、非営利団体への寄付に嫌悪感を示す人もいる。例えば2002年には、地理学者で経済学者でもあるシルヴィ・ブリュネルさんが、飢餓問題に取り組むAction contre la faim(以下、ACF)の代表を8カ月で退任し、その後フランスの非営利団体を批判するコメントをして話題になった。ブリュネルさんは国境なき医師団に長年勤め、その後もACFに12年間勤務。01年にACFの代表に就任していた。ブリュネルさんが退任することを決めた理由は、ACFが本来の「飢餓で苦しむ人を救う」という目的で活動しているというよりは、ビジネス化してしまっており、寄付金の使い道も明解ではなく、その悪習を変えることが不可能だと悟ったからだという。  

また09年には17の慈善団体が、数百万ユーロを不正に使用した疑いで起訴されている。これらの慈善団体は、フランスに住所があるだけで実体のないものや、さまざまな仲介業者が関与しているために、どこで何のために寄付金が使用されたのか不透明な部分がある団体で、改めて慈善事業の運営や経営管理の徹底が叫ばれた。この他にも、一部の団体に過剰な公的資金が流れている問題が明るみになるなど、寄付する側の不信感を募らせるような出来事が発生している。

「冷たいパン」ではなく 「焼きたて」でつながる心

「バゲットが待っている」の大きなメリットは、パン屋の協力さえ得られれば運営費を必要としないことだ。また、現金ではなく、品物を提供するため、前述のような横領問題などの不信感を抱くことなく、気持ち良く寄付することができる。バゲットはフランスでは決して高価なものではないので、気軽に支払うことができるのもポイントだ。  

フランスでは、赤十字などの非営利団体が売れ残りのパンを回収し、お腹を空かせている人へ配布する活動も行われているが、プリムさんはこの活動と、「バゲットが待っている」の違いの大切さを強調する。  

「『バゲットが待っている』のコンセプトで重要なのは、その日に焼いたパンでなければならないということです。これは、焼きたてのパンが消化に良いことはもちろん、もらう側の尊厳にも関わることだからです。ただ、『バゲットが待っている』に参加してくれているパン屋のほとんどは、前述のような他の非営利団体の活動にも参加しています。別のコンセプトにはなりますが、もちろん素晴らしいことだと思います」  

「バゲットが待っている」は13年から14年の間に賛同してくれるパン屋が急増し、現在は全国で150のパン屋がこの活動を行っている。ただ、賛同できないと断られることもしばしば。

「金銭問題などトラブルを抱えた客が店に近付くことになるので、問題が発生したら困るという理由で断られます。彼らの意見はもちろん理解できますし、その意見は尊重したいと思っています。ただ賛成してくれているパン屋は、自分たちがこの役割を担うことを誇りに思い、とても喜んでいます。そしてこの恩恵を受けている人の喜びも目の当たりにしているのです」

食料を売る身で、 空腹の人を放っておけない

Didoosのオーナー、ディディエ・ロペスさん
Didoosのオーナー、ディディエ・ロペスさん

ブーローニュにあるパン屋Didoosは「バゲットが待っている」活動に参加しているパン屋の一つだ。賛同する理由について、オーナーのディディエ・ロペスさんは次のように語る。  

「ある日、当店の前のゴミ箱の中をあさっている年老いた女性を見掛けました。そこで『もしよかったら、パンはいかがですか?』と声を掛けたのですが、『そんな!いいんです』と恐縮されてしまいました。この活動を始める前にも、食料を必要としている多くの人から、パンが欲しいと食料提供を求められることがありました。そのため、パンを無料でもらいに行けるようなシステムを作ろうと考えたのです。2013年9月のことでした」  

そしてインターネットで情報を収集する中で、既にロペスさんが考えていたものと同様のコンセプトが存在することを知り、「バゲットが待っている」に参加。本格的に活動を始めるようになった。ここの店では60サンチームを払うと、バゲット、もしくは温かいコーヒーを1杯分、必要な人に提供することができる。レジの上には小さな黒板がぶら下がっており、そこにはその日に提供できる数だけ、磁石が貼ってある。磁石の形は、心を表すハート型。


14時過ぎに店に行くと、これだけたくさんの寄付が集まっていた

「そもそも、私たちは赤十字の活動にも参加しています。週に2回、売れ残りのパンを赤十字の担当者が回収し、ブーローニュ中に配ってくれるのです。また、私が住んでいる地区は路上生活者が多いので、帰りに大きな袋の中にバゲットを詰め、配りながら帰ることもあります。また、当店の近くに路上生活者を見掛けたときには、積極的に『あそこへ行けばパンがもらえるよ』と声を掛けるようにしています。私は食べ物を売る身として、目の前に空腹の人がいるのに、知らぬ顔をしていることはできません」  

「バゲットが待っている」に賛同しないパン屋が心配しているように、このシステムを導入したことで実際に何か問題は起きたのだろうか?

「私たちがこのシステムを導入してから問題は一度も起きたことがありませんし、寄付する側の常連客たちもとても満足してくださっています。ただ確かに大きな都市の中央駅付近などは問題が起きるかもしれません。確かリヨンだったと思いますが、駅の近くのパン屋でこのシステムを導入したときに、朝早くから行列ができ、寄付されたパンがないと騒ぎ立てるというような問題が起きたそうです。こうなると、普通の客がパンを購入することすら難しくなってしまい、ビジネスになりません。ただこのようなケースはまれでしょう。自分を助けてくれる人に対して、誰が問題を起こそうとするでしょうか?」

経済危機と路上生活者

フランス国立統計経済研究所(INSEE)※によると、これまでに慈善団体による無料宿泊施設を利用したり、無料の食事の配給を受けたことがある成人は10万3000人に達したという。また、01年から12年までの間に、フランスのホームレス人口は50%も増加した。このような状況の中、温かいパンを受け取ることができる「バゲットが待っている」は、小さい活動ながらも、着実に人々の心をつないでいっている。前出の考案者、ジャンマニュエル・プリムさんは次のように語る。

「経済危機は確実に私たちの生活の奥深くまで押し迫ってきています。また、世の中には突然仕事を解雇されて失業してしまったり、病気になったり、離婚したりと、耐えられないような痛みを抱えている人が増えています。もし私たちが互いに協力し合う心を持たなかったら、壁にぶち当たってしまうでしょう。私は、食べるものがない、屋根のある部屋に住むことができない、家を十分に暖めることができない人がいるということが、耐えられないのです。各非営利団体に対する国家や企業からの補助金も少なくなってきているようです。せっかく良いコンセプトでも、運営資金がなく、続かなくては意味がありません」

このアイデアは、ピザやスープ、食事、本、映画や劇場の席など、他のさまざまな分野でも同じコンセプトで生かされ始めている。また、レバノン、スイス、カナダにも、この活動に参加しているパン屋が存在する。

「これは、この活動に国境がないことを証明してくれています。それは私にとってとても自信になります。私がこのアイデアを出したのは、必要としている人を助けるためです。シンプルなコンセプトでも大きなチャリティーの輪を生み出すことができるのだということを伝えたいのです」

最後に、このシステムを利用する路上生活者の声を一言、紹介しよう。

「私がパン屋に入り、焼きたてのバゲットを注文すること。これは私が唯一社会の輪の中に、自分の居場所を見つけることができる貴重な瞬間なのです」

※2012年初頭、フランスの人口2万人以上の地域で行ったアンケートでの調査結果

フランスの慈善事業団体

ラ・ミ・ドゥ・パン(La Mie de Pain)は、約125年前にポラン・オンフェールが作った団体で、経済的な問題や何らかの事情で社会に適応できない人を助け、応援する団体だ。創始者のオンフェールは1891年、ある女性が鳥にパンくずをあげているのを見て、「もしたくさんのパンくずを集めたら、人々を満腹にすることができるのではないか」と思いつき、食事の配給活動を始めた。1920年には非営利団体となり、今では路上生活者たちの食事や仮住まいを提供したり、就職の斡旋をしたりと、幅広く活動をしている。  

自立活動を応援する団体としては、エマウス(Emmaüs)が知られている。エマウスは路上生活者など、社会に適応できない人たちが働き、自ら資金を得るシステムを構築している。捨てられたものを修理、再生し、生活費を得るのだ。創立者のアベ・ピエール(アンリ・グルエ)は、リヨン生まれ。38年に神父となり、第2次世界大戦中はレジスタンス活動を行い、ユダヤ人などを積極的に助けた。49年に「エマウス」を創立。54年にはラジオ局から、その日に家賃が払えずに追い出された女性が路上で凍死したことを伝え、援助を呼び掛けた。このラジオ放送により、多くの人が心を打たれ、協力者が増加したという。

毎年冬になると話題になるのが、心のレストラン(Les Restos du Coeur)だ。これは11月~3月の寒い期間に、食事を十分に買うことができない人のために、無料で食事を提供することを主な活動としている。85年9月にコメディアンのコリューシュが発案し、翌年にコリューシュが不慮の事故で亡くなってしまってからも、この活動は続いている。89年には、コリューシュが好んで使った言葉「Enfoirés」という名前のチャリティーコンサートが生まれ、今や毎年このコンサートが開かれている。今では、温かい食事を提供するだけではなく、路上生活者に寝床を提供している。 

 
 

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