もし、自分や身近な人がフランスで亡くなったら……。
お葬式に呼ばれたら……。
日常的に気にすることがないだけに、突然対応しなければならなくなったときには、日本と異なる習慣や方法にとまどうことも多いはず。
まさかの時のために、頭に入れておきたいフランス葬儀事情をご紹介します。(文 / 樋野ハト 特集イラスト / 熊猫手作業社)
在仏日本人に聞きました。
Q1:フランスに来る際、死亡時に対応した保険に加入して来ましたか?

Q2:もしもフランスで死亡したら、どのように埋葬されたいですか?

死亡時にまずすべきこと死亡後にまず必要となるのが、病院などの公的機関で医師が発行した「死亡診断書」。自宅で亡くなった場合は、病院や医師に連絡をとり書類を発行してもらわなければならない。その後、葬儀会社(Pompes funèbres)を探し連絡 をとる。日本でも同様だが、葬儀会社を通さずに諸手続きを行うことは困難なため、葬儀会社探しは必須項目といえる。埋葬方法によって、準備や値段、手続き方法が異なるため、葬儀会社と連絡をとる際には"土葬か火葬か、遺体を母国へ運送するのか"をあらかじめ決めておかなくてはならない。なお、カトリックの場合、臨終時に神父に来てもらう習慣もある。
パリ市葬儀サービス www.servicesfuneraires.fr
パリ市に13カ所ある市営葬儀サービス案内サイト。 さまざまな宗教、遺族の意志に対応した葬儀が可能。 サイトでは葬儀見積もりが無料で出来る。
フランスにおける葬儀会社の仕事葬儀社は、お葬式の段取りはもちろんのこと、公的機関への諸手続きも行ってくれる無くてはならない存在。フランスの葬儀社は日本のように式の進行を仕切る業務は少ないが、遺体の保存処理・保管に始まり、棺の搬送や葬儀準備のほか、各種書類の発行など遺族と諸機関とのパイプ役を担ってくれている。ちなみに、教会での式の進行を取り仕切るのは神父であるため、葬儀ミサに関する打ち合わせは 喪主が神父と直接行う。また、フランスの葬儀会社は日本で言う仏具店的な役割も兼ねていて、葬儀に必要な供え物や墓碑の制作・販売なども行っている。パリの葬儀社の多くは墓地の周辺にあり、これは棺の移動などを考えて利用墓地近隣の葬儀会社を選ぶ人が多いからだそうだ。
葬儀会社の業務
■ 葬儀の企画及び準備 ■ 遺体の処理や保管 ■ 棺の搬送、納棺 ■ 火葬手配 ■ 公的機関への手続き& 各種書類発行 ■ 墓碑、献花(生花・造花)、葬儀用品などの販売など
フランス式のお葬式とはフランスは90%がカトリック教徒のため、最も多いのがカトリック式の葬儀。死亡確認後、お通夜に当たる弔問期間が1~数日間(場合による)あり“教会でミサが行われた直後に墓地へ移動し埋葬”という流れが一般的。もちろん、現在では多くの葬儀社が各宗教の葬儀に対応していて、無宗教者のための市民葬も可能。パリ市営の葬儀公社でも、希望すれば仏教式のお葬式が行える。葬儀当日まで遺体は葬儀社の運営する「Chambre funéraire」や、病院などの安置所へ保管されることが多い。日本では棺を“釘打ち”する習慣があるが、キリスト教では遺族の前で棺を閉じる行為をせず、式の数時間前に警察立ち会いのもと業者のみで蓋を接着した後、安置所から教会へ棺が運ばれる。
Chambre funéraire
多くは葬儀社の経営する施設で、遺体を安置する冷蔵ルーム。ホテルのような個室タイプのものと合同保管されるタイプのものがある。ここではまだ故人の棺の蓋は開けられていて、弔問客がここを訪れ最後のお別れをする場所であるため、"お通夜の部屋"と言う感覚。弔問客から贈られた花やメッセージボードが床に並べられ、埋葬の際にお墓へ供えられる。
フランスで火葬をするにはフランスで火葬を依頼するためには、まず役所からの許可を取らなければならない(葬儀社が手続きを行ってくれる場合が多い)。許可を得るには、医師による死亡診断書と共に、火葬を望む故人の遺言もしくは親族の承諾書が必要。カトリック教会が法令で禁止していた火葬を認めたのが1963年。歴史的にも土葬が一般的なフランスだが、1989年は5%だった火葬率は、2006年に27%までに上昇。パリにおいては40%と国内で最も火葬率の高い都市だ。パリ市の葬儀公社によれば、火葬を選ぶ理由として「エコロジー」「経済的」「自由な感じがするから」という統計が出ているそうだ。1975年には国内に5カ所しかなかった火葬場も、現在は自治体のもと全国124カ所にある。
フランスでは、骨壺を持ち帰ってリビングなどに置いておく遺族が多く、一見骨壺と分からない美しいものが好まれる。木製、銅製、陶器、メッキ仕上げなど、色・素材共にさまざまな骨壺のバリエーションがある点は日本との大きな違い。
お葬式にかかる予算例えば、パリ市の葬儀公社による通常の葬儀料金は、土葬葬儀3700€、火葬葬儀が2500€。ちなみに、葬儀まで遺体を保管しておく「Chambre funéraire」 などの料金は別途必要。土葬の場合は、長期間の保存に耐える重厚な棺と、納棺作業が必要なため火葬よりも高額。火葬料金はパリ429€、リヨン382.84€、ボルドー507.40€など、自治体ごとに異なり、料金は年々上昇傾向にある。また、日本のように遺族が棺を担ぐ習慣がないため、火葬、土葬いずれの場合も棺の運搬要員が必要とされるのはフランスならでは。とはいえ“葬儀は福祉の一環”という概念があるため、料金やサービスの規定が厳しく設定されており、日本では考えられないような低料金で葬儀が行える。
● 棺桶 / 土葬用648~1985€、 火葬用 473€
● 運搬要員4名 / 297.5€
● 霊柩車(運転手付き)/ 300€
● 進行責任者(1名)/ 148€
● その他、遺体保存処理料 295€、
墓碑の開閉作業料 595€(土葬の場合)、
棺搬送料0.95€ / km、 葬儀取り仕切り料 290€
パリ市葬儀公社による参考料金。葬儀社により価格は異なります。
フランスのお墓に入るには例えばパリの墓地に埋葬されるには、“パリで死亡した”、“死亡時にパリに住んでいた”、もしくは“すでにパリ市内に墓地を所有している”ことが条件とされている。フランスの墓地の管理は全て自治体が行っていて、土地を購入する場合はいずれの墓地も10年、30年、50年、永代と契約期間が決められている。墓地の規格は1×2メートルが基本。パリなら10年663€~永代10501€、リヨンは永代5756.36€など、料金は自治体ごとに異なる。墓碑は石の質・色などによるが、1×2メートルの大きさで1枚約1200€から、背面付きのものになると3000€以上。火葬の場合、共同の納骨堂「Columbarium」の1スペース(0.25㎡程度)の購入なら10年408€~50年2040€(パリ市)。
お墓の構造
墓碑の下の土に直に棺が埋められていると思いがちだが、実はフランスのお墓は地下室のような構造で、棺が棚式に納められている。田舎の方では左右に棚があり、なかには8つの棺が入れる大きなお墓も多い。ちなみに新たにお墓を掘る場合の 工事費は2段式が1785€、4段式で3550€(パリ市 の場合/フランス葬儀情報協会価格)。
フランスの遺骨事情フランスでは火葬が行われた場合、約70%の人が遺灰を自宅に持ち帰り、20%は墓地の散骨専用地を利用し、8%は墓地の納骨堂に納め、自然の中へ散骨する人はわずか2%なんだそう。フランスは散骨自由国で、行政上の規則はなく基本的にどこへ散いてもかまわないが“公道は禁止”とされている。船上や飛行機からの散骨を行う葬儀社を利用する場合は“故人の意思が明記された生前の文書が必要”とあり、家族が散骨に反対ならば分骨の提案をしている。ちなみに、日本でも特に散骨の規制はなく、“節度を持って”という法令のもと、場所や灰の量などは業者や遺族に任せられている。現在、日本でもフランスと提携した葬儀業者が地中海やモンブランへの散骨を請け負っている。
近年では、美しい 自然の中で散骨を実施するサービスもあり、地中海や大西洋の岬や小島を眺める船上から散骨する海洋葬は 175€、ヘリコプ ターを使ったモンブラン山頂上空からの散骨は870€ (フランス葬儀情報協会価格)。
お葬式でのマナーカトリックのお葬式に参列してみてまず驚くのは、普通の一般家庭や田舎での葬儀で喪服を着ていない参列者が多いということ。特に誰が服装を気にする訳でもなく、フランスでは装いでお悔やみを表現することはないようだ。ただ、親族に入る場合は黒い洋服を着用するのがベター。葬儀でのマナーとしては、まず、教会入口に記帳台があれば記帳をしておく。葬儀ミサ中は起立や着席が何度かあるので参列者に合わせておこう。説教終了後は、参列者がひとりづつ棺に聖水をかけて十字架を切るが、カトリック信者でなければ黙祷か最敬礼(さいけいれい)などでも良い。最後に、祭司がカゴを持って回るので参列者は寄付金を入れる(出口にカゴがある場合も)。寄付金は、小銭を入れる参列者がほとんど。
カトリック式のお葬式も、日本のように地域や宗旨などによってお葬式の流れはさまざまだが、主に祈祷に始まり、撒水、撒香、神父の追悼説教や聖書朗読、参列者による故人の経歴紹介のほか、聖歌や賛美歌が前後にあり、最後に出棺という流れ。式によっては、参列者ひとりひとりが献花を行う場合もある。
フランス的お悔やみの意日本ならば、遠方で参列できない場合は“弔電”を打ち、お葬式に参列する場合は“御香典”を持っていくのが常識。けれども、フランスのカトリック教会式葬儀ではそういった風習はなく、参列することによって金銭が動くことはない。お悔やみの意を表す供え物としては、献花が最も一般的。これは遺族の自宅に直接贈るよりは、葬儀が行われるまで遺体が安置されている「Chambre funéraire」などに届けられる方が喜ばれる。葬儀用の献花はバスケットなどに入れてアレンジメントされたものがほとんどで、必ず送り主からのメッセージが添えられている。また「Plaque」と呼ばれている故人へのメッセージを彫り込んだ小さな碑などを贈ると墓碑の上へ供えられる。
墓碑の上に供えられている「Plaque」。定期的にお墓参りができない家族が多いためか、最近は生花よりも造花の献花がほとんど。これらの供え物は、葬儀社でオーダーし購入することが出来る。
お墓参りの習慣は?言わばお盆
日本でお墓参りと言えば、お盆。フランスでは、国民の祝日になっている11月1日の「La Toussaint(万聖節)」がお盆やお彼岸に近い。この日は、全ての聖人を祝う日で「Fête de tous les saints(諸聖人の祝日)」を略して「Toussaint」 と言われている。故人を偲んでお墓参りを行う日でもあり、統計によれば47%のフランス人がご先祖や尊敬する著名人などのお墓参りをするそうだ。お墓参りの際には、鉢植えの菊を持って行く習慣があり、この時期の花屋さんには沢山の菊が並んでいる。また
、この時期10月末日から1週間程度学校は休みになり、フランス人的には秋のプチ・バカンスといったところ。もちろん、定期的に献花を変えるなど、日常的なお墓参りを行っている家庭もある。
多くの著名人が眠る20区のペール・ラシェーズ墓地には、お墓参りに訪れる観光客も多く、お墓マップも販売(2€)されている。ショパンのお墓など、著名人のお墓は参拝者による 献花で常に華やか。
日本で埋葬されるためには海外で亡くなった日本人が、母国に埋葬されるためには、遺体を 搬送する場合と遺灰を骨壺で運ぶ場合の2つの方法がある。死亡 状況などによっては、遺族の希望通りにいかない場合もあるが、 国内での死亡時とは異なるさまざまな手続きと経緯を経て母国 へ眠ることになる。(取材協力/日本航空)
日本へ遺体を運ぶのは、可能か?
── 可能か不可能か、という選択ならば“可能”。
ただし、これは場合によりけり。遺体の損傷が激しい場合などは、現地で火葬にした方がいいという判断が出されることもある。また、死亡の理由が伝染病であった場合は、遺体の状態での日本への輸送は認められていないため、必ず火葬してから持ち帰らなければならない。ほとんどの場合が航空機で搬送するため、遺体にエンバーミング(遺体衛生保全のための防腐処理)処理がされていることを条件としている航空会社が多い。
航空機で遺体を運ぶ際、必要な手続きは?
── 葬儀会社を経て、大使館や航空会社へ連絡。
現在、航空機で輸送する際に必要な公式書類は、病院等の公的機関の医師が発行する“死亡証明書”のみ。以前は、棺の中に遺体以外のものが入っていないことを証明する“埋葬(遺体・遺灰)証明書”(大使館発行)が必要だったが、現在は正式には求められていない。また、航空会社によっては、“防腐処理証明書”(葬儀社発行)が必要。これは、旅客便で輸送する場合に、腐敗臭などが漏れないように適切な処理がされていることを証明するもの。また、フランスから遺体や遺灰を輸送する際には、必ず警察による遺体運送許可の承認が必要。多くの場合、葬儀会社が大使館や警察などの公的機関や航空会社へこれらの各種手続きを請け負ってくれる。
機内での遺体の扱いは?
── 正確には“貨物扱い”だが、格別の配慮が。
通常、遺体は“貨物扱い”として輸送されるが、航空会社によって対応や取り扱いの方法はさまざま。通常、遺体は空港貨物輸送用の専用コンテナまたはパレットに搭載されるが、日本航空では一般の貨物と相積みにすることをせず、ひとつのコンテナまたはパレットに遺体だけを搭載をする配慮がされているそうだ。日本到着後は、あらゆる貨物に優先して運び出され、一般貨物にある通関という手順を踏まず、貨物というよりは“入国許可”に近い概念で対応される。
骨壺で遺灰を機内に持ち込む際は……?
── 航空警察へ、火葬証明書を提出する。
機内に持ち込む場合は、葬儀社の発行する火葬証明書(Certificat de funération)を空港警察へ提出しなければならない。しかし、貨物扱いで輸送する場合は、当該証明書の有無は求められないんだそう。ただし、貨物扱いの場合は日本に到着してから遺体同様の扱いとなり、税関で申告することで引き渡しが許可されるとのこと。
フランス葬儀情報協会 www.afif.asso.fr
在仏日本大使館 www.fr.emb-japan.go.jp
在仏日本人の葬儀のお手伝い
葬祭アシスタンス蓮(れん) TEL: 06 31 11 93 75(日本語)
モンブラン葬を請け負う業者
スイスエタニティ社 www.swisseternity.co.jp
宇宙葬をするには
(株)エターナル・ジャパン www.eternal-p.com/e0s.html
お葬式の手引きコラム 世界の埋葬
古来の伝統を守る国がある一方で、宇宙葬や散骨のサービス化など時代と共に多様化する世界の埋葬。日本人にとって“普通”である火葬も、所変われば禁止であり、屈辱とみなされたり、金持ちのみが行える葬法であったりと、宗教や土地によって埋葬方法や定義の倫理はさまざまだ。
火葬
● 仏教、ヒンズー教、一部の儒教など
仏陀が荼毘(火葬)にふされたことから、仏教徒に多い埋葬の方法。ちなみに世界で最も火葬率の高い国が、日本(99.7%)。火葬後に骨上げを行う習慣がある日本では、骨をある程度残すために700~800度に設定されているが、欧米では900~1200度で完全な灰にするという火葬方式。ビンズー教における火葬は薪を使った“野焼き”が一般的で、残った骨を川に流して水葬を行うのが一般的。
土葬
● イスラム教(土葬必須)、キリスト教、
ユダヤ教、ラマ教、儒教など
死者の「復活」の教義から土葬が一般的となっている宗教が多い。土葬の際は、まず遺体を洗い、防腐剤などを注入し2週間程は常温での保存が可能な状態まで保存処理が施され、棺ごとお墓へ納められる。キリスト教の場合は棺は頭を西側へ、イスラム教の場合は頭がメッカの方向へ向かうように埋葬されることが多い。なお、日本では、東京都や大阪府など条例で土葬を禁じている市町村もある。
水葬
● ヒンズー教(ガンジス川流域、インドネシア、
バリ島、チベットなどの一部)
ガンジス川などの“聖なる川”に亡人を帰すのが最高の弔いとして行われる、ヒンズー教徒の儀式のひとつ。一般的には、火葬後の遺骨を流すが、病死者や貧困者、子供などは遺体ごと重りを付けるなどして水葬される。チベットなどでも火葬の薪代が払えない貧困層は遺体を断片化して水葬が行われている。日本では船舶の航海中に船内の人間が死亡した場合のみ、水葬が許可されている。
鳥葬
● チベット密教、パールスィ-(インドの拝火教)など
鳥に遺体を捧げ“天に送り届ける”、“他の生命のための布施”として主にチベットで行われている埋葬方法。山中の鳥葬用石場で、僧侶や鳥葬職人などの手により遺体を断片化・切開、骨も石で粉砕し、禿鷹に食べさせ、遺体は数十分で欠片も無くなる。チベット国内には1000カ所ほどの鳥葬場があると言われている。現在の日本では死体損壊罪となる葬法だが、古来は行われていたそうだ。
風葬
● 西サモアやソロモン諸島、東部インドネシア、
スマトラ西諸島など
古来より伝わる最も原始的な埋葬。遺体を自然の力に任せて風化させながら白骨化する、自然葬法。風葬が行われる場所により、樹木の上に掲げる「樹上葬」や洞窟の中へ置かれる「洞窟葬」、板の上に載せる「台上葬」など細かく分類されている。日本では沖縄で見られた葬法で、風葬や土葬を行った数年後に海水や酒で遺骨を洗い再度埋葬する「洗骨」は現在でも一部の離島で行われているんだとか。
宇宙葬
● 宗教自由(遺族や故人の希望者による)
衛星ロケットに遺骨入りカプセルを積んで打ち上げる「宇宙葬」は、アメリカの民間宇宙会社スペース・サービス社が行っている。料金は約100万円。ロケットの寿命により半年~250年間地球軌道上を巡った後、大気圏に突入し、大気との摩擦でロケットごと燃えるため、故人は流れ星となれる場合もある。1997年に始まり全5回打ち上げられ、合計で約280名が宇宙へ飛び立っている。









