ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Sun, 10 November 2024

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

フューチャー・システムズ Future Systems

「フューチャー・システムズ」は、その名が示す通り世界でも有数の革新的なデザイン事務所としてその名を馳せている。言い換えれば、ジャン・カプリッキーとアマンダ・レェヴィーテのユニットは、異次元空間にあるような建築を作り出しているのだ。今回は、彼らが手掛けた建築物の数々を紹介したい。

ローズ・クリケット場を見下ろすメディア・センター
ローズ・クリケット場を見下ろすメディア・センター

ローズ・クリケット場

まるで、UFOのような物体。宇宙船のような白い流線型のフォルムの正体は、リージェンツ・パーク北西にあるクリケットの殿堂、ローズ・クリケット場に作られたメディア・センターだ。クリケット場にある他の伝統的建物を圧倒してしまいそうなほどの存在感を持つ建築物。全世界に中継するための試合映像は、地上から15メートルほど宙に浮いたかのように設計されたこのメディア・センターから配信されることになる。そこへ至るエレベーターや階段もまるでUFOを意識しているようだ。もちろん内部空間も異次元そのものに見える。

円盤が取り付けられたセルフリッジズの外壁
円盤が取り付けられたセルフリッジズの外壁

セルフリッジズ内部
セルフリッジズ内部

セルフリッジ百貨店、バーミンガム店

今度は「一つ目小僧か?」と思わせるようなバーミンガムにあるセルフリッジズ百貨店。「ブル・リング」と呼ばれるショッピング・センターの一画に、何か異様な雰囲気を醸し出す建物がある。よく見ると、外壁は青地に銀色の円盤が無数に取り付けられた曲面で出来ている。このアルミニウム製のディスクは、スペインの著名なデザイナーであるパコ・ラバンヌによるスパンコールのついたドレス、あるいは蛇のウロコをヒントにデザインされたそうだ。今にも動き出しそうな艶(つや)やかしさは、生命体のそれを思わせる。

店内に入ると一転、白を基調とした眩しいくらい鮮やかな空間が広がる。屋根に空けられた巨大な天窓からは、光が吹き抜け空間に降り注ぐ。上下階を行き来するエスカレーターからは店内を一望でき、来客の購買欲をそそっている。

フューチャー・システムズ
イズリントンに立つ変わった趣向の一軒家の正面(左)と背面(右)

イズリントンの家

シティから程近いイズリントンの閑静な住宅街にも、フューチャー・システムズが設計した一軒家がある。近隣はジョージアン様式の縦長屋が軒を連ねる、歴史的街並み保存地区だ。そんな景観規制の厳しい地域に未来的なデザインをした建物が許可されるのか。一般的にはかなり難しいが、彼らの取ったアイデアは興味深い。

正面と背面のガラス・ブロックや全面ガラス張りの外壁は、廃材市場から仕入れた古いレンガを敷き詰めた側面で包み隠されている。自己主張と調和がバランス良く同居しているのだ。もちろん、ここにも、未来的で斬新なアイデアが実践されている。宇宙船をイメージさせる丸みを帯びたドアやユニット・バス、鉄で作られた軽快な階段、そして床から天井まで総ガラス張りとなった傾斜した壁面などだ。

モノコック構造

最後に、フューチャー・システムズ独特の設計構造について説明しよう。一般に建築物は壁を積み上げたり、柱と梁でフレーム(構造体)を組むことによって骨組みが完成する。しかし少し建築から離れたデザイン界では、モノコック構造というシステムがよく使われる。例えば自動車、鉄道車両、そして航空機などの車体や機体を構成する一体構造のことで、甲殻類の鎧や卵の殻を想像してもらえば良い。フューチャー・システムズは、こういった有機的な形態にヒントを求め、モノコック構造を駆使することで自由な曲面デザインに挑戦しているのだ。

 

藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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