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Mon, 09 December 2024

第268回 ジョン・スノウ医師と麻酔

ロンドン中心部の繁華街ソーホー地区に「ジョン・スノウ」という名のパブがあります。1850年代にロンドンで流行したコレラの感染源が、パブの近くの井戸水であることを突き止めたのがジョン・スノウ医師です。当時、コレラは空気感染すると考えられていましたが、麻酔医のジョンは気体拡散の法則からそれを一蹴。臨床医の視点からも消化器系の病気は経口感染を最初に疑うべきと住民調査を始め、感染源を特定しました。

パブ「ジョン・スノウ」と井戸水のポンプ(レプリカ) パブ「ジョン・スノウ」と井戸水のポンプ(レプリカ)

もともとジョンは1813年、英国北部ヨークの貧しい村で生まれ、14歳からニューカッスルの外科医の下で丁稚奉公をしました。当時はまだ麻酔が無く、外科手術の際は患者にラム酒かケシの乳汁を入れたブランデーを飲ませるだけで切断手術が行われ、傷口を焼いて止血しました。患者を激痛から救う方法がないものか考えあぐねていたジョンは24歳になったとき、薬剤師と外科医の免許を取るため、ロンドンに向かいました。

ジョン・スノウ医師 ジョン・スノウ医師

19世紀前半はたくさんの有機化合物が発見された化学の時代です。産業革命を代表する発明家のジェームズ・ワットは、肺病の息子のために、人工製造された気体を医療に応用できないかを試みる、気体研究所(Pneumatic Institution)を支援しました。その気体研究所にいたのが化学者ハンフリー・デービーです。ハンフリーは笑気ガスと呼ばれる亜酸化窒素に麻酔作用があることを発見しました。

ハンフリー・デービー発明の笑気ガス ハンフリー・デービー発明の笑気ガス

この笑気ガスや、発見された有機化合物の液体エーテルを手術の麻酔として試みたのが米国の歯科医でした。でも、笑気ガスは効果が薄く、エーテルでは副作用が強く普及しませんでした。それに代わって注目されたのがクロロホルムです。スコットランドの婦人科医ジェームズ・シンプソンは毎晩、入手可能な揮発性物質を片っ端から吸引し、甘い芳香を放つクロロホルムに行き着きました。クロロホルムの麻酔効果は強力でした。

シンプソン医師によるクロロホルム実験の様子 シンプソン医師によるクロロホルム実験の様子

シンプソン医師は1847年に無痛分娩に成功しますが、その後に死亡事故が起きてしまいました。そこで冒頭のジョン・スノウ医師がクロロホルムの投与量を厳格に管理した麻酔器を考案。53年、クロロホルムによるヴィクトリア女王の無痛分娩に成功しました。吸入麻酔の難しさを理解するジョンならではの偉業でした。ちなみにシャーロック・ホームズなど探偵小説の描写にある、ハンカチに数滴たらしただけのクロロホルムで人間が気絶する場面は、コレラの空気感染を一蹴したジョンからすれば全くの虚言になります。

クロロホルムを使った探偵小説の一場面 クロロホルムを使った探偵小説の一場面

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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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