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Thu, 28 March 2024

英国メディアが報じた東日本大震災2周年

海外ニュースが充実していると評判が高い英国メディアは、遠く離れた日本に関する話題をも紙面上やニュース番組にて頻繁に取り上げている。とりわけ東日本大震災の発生から2年という節目を迎えた2013年3月11日の前後には、各メディアから関連報道が続出。私たち在英邦人でも把握しきれていないような日本国内の状況の詳細とともに被災地の復興に向けた動きを伝えたり、対応の遅れを痛烈に批判したりといった報道が見られた。

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日本政府の取り組み

東日本大震災からの復興に向けた取り組みにおいて、海外からの注目を集めるのはやはり日本政府の動向。震災発生から2年が経過したにも関わらず、遅々としてなかなか進まない政府主導の復興過程に苛立ちを見せ出した被災者たちの声を紹介するとともに、被災地が抱える困難を伝えている。

復興作業と花粉症対策に見る連携の難しさ

「エコノミスト」誌 ■ 3月9日

1万8500人の命を奪った東日本大震災が発生してから2年が経過したが、いまだ31万5000人近くの人々が仮設住宅での避難生活を余儀なくされている状況だ。被災者の苦しみとは全くの別次元だが、毎年2月下旬から5月にかけて、日本の人口の6分の1に相当する2000万人を苦しめているのがスギ花粉症である。鼻水などの症状や高額な医療費といった花粉症にまつわる諸々の問題は、通常であれば「しょうがない」の一言で片付けられてしまうものだ。

しかし、花粉症を緩和すると同時に、被災地での住宅再建を促す方法があるとするならば、どうだろうか。その方法とは、日本にある森林の4割を覆うスギの木やそのほかの針葉樹を間引く、というものである。

スギの木は、戦後に都市や街を再建するための木材として日本各地に植樹された。真っ直ぐにそして高く育つスギは、建築用の木材として最適だからである。しかし、やがて関税が引き下げられたことで輸入木材の需要が高まり、国内のスギの木の買い手は減少した。そしてスギの木が育てば育つほど、花粉の飛散量が多くなっているのである。

震災からの復興作業には莫大な額の公的資金が割り当てられているので、この資金の一部をスギの木の間引きを促進するための費用に充てることができる可能性はある。そのためには、農林水産省、厚生労働省、経済産業省ら各省と建設業界、そして森林を保有する高齢者たちが連携しなければならないのだが、これが難しい。そして、連係を取るための困難こそが、復興までに長時間を要している理由の一つなのである。

Economist
「一石二鳥」ということわざとかけた「Killing two birds with one tree」
との見出しでスギの木を間引くことの効用を説く「エコノミスト」誌の記事

被災者が絆を取り戻すのは遠い未来になりそう

「フィナンシャル・タイムズ」紙 ■ 3月11日

安倍首相は、東日本大震災の発生後の2年間に様々な困難があったことを暗に認めながら、地震と津波によって壊滅させられた被災地の復興に向けた取り組みは「時間勝負」であると述べた。

震災直後には体育館の床の上で避難生活を送っていた生存者たちの多くはその後、親戚の家や政府が提供した仮設住宅に移り住み、彼らの生活は改善した。しかし、東北地方の壊滅ぶりと震災後の時間の経過を見る限り、かつて各地域のコミュニティーを団結させていた絆を被災地の人々が取り戻すことができるのは、まだまだ遠い未来のことになりそうだ。

被災地の復興ぶりやその実態

複数のメディアが、震災発生直後と現在の様子を写した写真を比較して被災地が復興に向けて少しずつ歩み を進めていることを伝えながら、そのペースが遅れていることに対する被災者たちの不満の声などを合わせて 紹介している。また表向きには報じられることの少ない被災地の暗部に焦点を当てた記事もいくつか見られた。

「奇跡の一本松」がモニュメントとして再建

「デーリー・メール」紙 ■ 3月11日

大津波を生き延びた「奇跡の一本松」がモニュメントとして保存されることになった。88フィート(約27メートル)に達するこの「奇跡の一本松」は、東日本大震災において岩手県陸前高田市を襲った大津波が7万本の松原を押し流した際に、たった一本だけ生き残った木である。1896年と1933年に発生した大津波にも耐え残り、173年にわたりこの地で生き延びていたのだが、周囲の環境の変化などを受けて、6カ月前に枯れ死に至ってしまった。間もなくして一本松は伐採され、その位置に今度は人工的な処理を加えたモニュメントが建てられることになったのである。

除染作業の現場で暗躍するヤクザたち

「タイムズ」紙 ■ 3月10日

福島における放射線物質の除去作業の仕事に就いているのは、捨て身の覚悟を持った者たちか、もしくは犯罪者である。「危険」で「汚い」ということに加えて「実入りが良い」という条件がそろった除染作業は、日本のヤクザたちにとっての垂涎(すいぜん)の的と言ってもいい。警察によると、ヤクザのフロント会社は、人身売買や麻薬密売を一旦中断して、現在は福島における除染作業の労働力を供給することに注力している。

警察は、1月31日、作業員を違法に派遣した疑いで指定暴力団住吉会系組の幹部を逮捕した。暴力団に所属することが違法行為とは見なされない日本では、違法派遣などの容疑で逮捕するほかにヤクザを取り締まる方法がない。

ある日本人記者は、福島での除染作業においては中間業者が7段階にわたって入り乱れている状態だと言う。またこの仕組みの中では責任者が不法な行いをしているとの罪悪感を持たずに済むと説明しながらも、福島第一原子力発電所を運営する東京電力が作業員の素性を知らないはずはないと述べている。

福島第一原子力発電所の作業員

被災地に大きな影響を与えた原発事故。事故発生後も危険を顧みずに現場に留まったことで、後に欧米メディアが「フクシマ50」と呼んだ福島第一原子力発電所の現場作業員たちを称えながらも、日本国内においては彼らの功績に対する認知が驚くほど少ないという現状を伝える論調が目立つ。

「目に見える敵」に仕立てられた作業員

「ガーディアン」紙 ■ 3月6日

福島第一原子力発電所の作業員たちのカウンセリングを行う精神科医によると、放射能という見えない脅威にさらされた日本の国民たちは、同発電所の作業員を目に見える敵として仕立て上げた。廃炉作業の遅々とした進捗状況に対する国民からの非難を受けながら作業現場で働くことによる多大なストレスに耐えられなくなり、何人かの作業員たちは退職を余儀なくされたという。

昨年末に東京電力が行った調査では、調査対象となった現場作業員たちのおよそ7割の給与は、時給800円超に過ぎないことが分かった。ちなみに近隣地区における建設現場での時給の相場は1500円である。

感謝を示されることのない「フクシマ50」

「インディペンデント」紙 ■ 3月2日

「フクシマ50」の中の一人であった吉澤厚文氏は、当時の行動を自殺行為であったと振り返る。何しろ、制御不能寸前の状況に陥った原子力発電所に自ら志願して赴いたのだから。

福島第一原子力発電所へと出発する際、同僚たちは彼に向かって、まるで戦場に赴く兵士たちのような敬礼をしたという。当時の様子が戦時中の状況と似通っていたであろうことは想像に難くない。実際に、海外メディアは彼らを「神風」「サムライ」「フクシマ50」と呼んだのである。

だが、吉澤氏が耐えた苦しみに対して日本国民が感謝の意を示すことはほとんどない。彼らが震災で信頼を失った東京電力の社員であることや、他者が苦しみを感じている間に自身の功績をひけらかすことを良しとしない日本の文化などがその背景にある。

吉澤氏は、たとえ東京電力の経営陣に恨みを抱いていたとしても、その感情を表に出すような人物ではない。それどころか、元作業員たちにカウンセリングや健康診断の機会を提供した同社を褒め称えさえするのである。

彼らは誰も引き受けない仕事に就いている

BBC Online News ■ 3月11日

チェルノブイリ以来と言われる史上最悪の原発事故が収束し、操業を停止した福島第一原子力発電所が今は安全な状態にあると思うことができれば、どれほど安心できるだろうか。しかし、外国のテレビ記者向けに設けられた2時間に及ぶ同所内部の見学ツアーで目にした光景の中に、安心感を与えるものはほとんどなかった。4号機の冷却プールには、1500本以上に及ぶ使用済みの燃料棒が今も置かれている。3号機は震災から2年が経過した現在も手つかずの状態のままだ。何万トンにも達した汚染水の処理の問題も解決していない。

見学ツアーの最後に、同所の高橋毅所長へのインタビューのために10分の時間が与えられた。同所長は非常に疲れている様子で、目の周りには隈ができている。原発事故によって「ご不便」をかけたことについて長い謝罪が行われた後で、同所長は福島第一原発での除去 作業がどれだけ長い時間を要し、またどれほど困難であるかを語り出した。

私のような外部の人間にとっては、もっと迅速な対応をすべきだとか、メルトダウンを起こした原子炉がどんな状態にあるかをなぜいまだに把握していないのかと彼らを批判することは容易い。しかし、誰も引き受けたがらない仕事に彼が就いているということは紛れもない事実なのである。このような状況に対応した経験がある者などいない。同氏と3000人の職員たちは、全くの未知の領域へ足を踏み出しているのだ。そして初動こそつまづいたものの、その後、彼らはほとんどの問題を適切に処理していると多くの人々が評価している。

BBC Online
BBC記者による記事には、防護服を着用して、福島第一原子力発電所内部の
見学ツアーに参加した際の模様を映した動画も含まれている

地学・科学技術

史上最大規模の巨大地震が発生した東日本大震災によって、政治や社会的側面だけでなく、地学や科学技術といった分野においても、これまでの枠組みの見直しや新たな研究を迫られることになった。「ネイチャー」誌に代表される科学雑誌もそれぞれの視点から東日本大震災を取り上げている。

災害対策技術に秀でた日本で新たな技術革新

「デーリー・テレグラフ」紙 ■ 3月9日

2011年3月11日に東北地方の海岸線一帯を大津波が襲ったとき、気象庁でさえその規模を予測できていなかった。そこで同庁は、震災から2周年を迎えるに当たって、新たな津波の警報システムを発表。巨大地震の発生時にも機能停止に陥らない地震計測器や、停電時などに長時間使用できる電池などを導入した。

日本は世界で最も地震が頻繁に発生する国の一つとしてだけではなく、最も洗練された災害対策用科学技術を擁する国としても知られている。海底に設置された地震観測システムから、建物が揺れ始める数秒前に警報を鳴らす携帯電話まで、これまで様々な革新的な機器の開発を通じて、災害対策用の科学技術における最前線を走ってきた。しかし、空前の規模となった2011年3月11日の大地震を経験し、既存の技術では成す術がないとの現実に直面した日本は、2年の歳月と2500万ポンド(約35億円)の開発費をかけて、新たな技術革新を起こしたのである。

Daily Telegraph
日本関連報道が充実している「デーリー・テレグラフ」紙は、
日本の災害対策技術の発展について取り上げた

東北の巨大地震を宇宙空間も感知していた

「ネイチャー」誌 ■ 3月5日

2011年に日本の東北地方を襲った地震が宇宙空間においても感知されていたことが判明した。地上から260キロの距離に位置する人工衛星が、地震によって生まれた、人間の耳には聞こえない「可聴下音」と呼ばれる低周波の音を記録することに成功したのである。高性能のセンサーを備えた同衛星が感知したデータを使って、フランスとオランダの科学者が解析作業を行った結果、この事実が確認された。

この研究成果は、通常であれば困難とされる大洋の中心部などの遠隔地域で発生した地震の計測を、人工衛星を使って行うことができるかもしれないとの可能性を示唆している。


 

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