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Thu, 28 March 2024

イングリッシュUK トニー・ミルンズ氏インタビュー

もしもあなたが英国で語学留学生として暮らしているのならば、最近になって、肩身の狭さを感じ始めているのではないだろうか。英国内での移民規制が厳しくなってくるに伴い、語学学生がアルバイトとして勤務可能な時間が縮小されたり、通学している語学学校が取り締まりの対象となった挙句に閉鎖されるといった極端な話を耳にすることもしばしば。そんな中、英国の語学学生たちの味方となり、様々な支援を行っている「イングリッシュUK」と呼ばれるチャリティー組織がある。その会長を務めるトニー・ミルンズ氏に、昨今の英国における語学留学生事情について、話を聞いた。

トニー・ミルンズ氏
イングリッシュUKのCEO。1951年にイングランド中北部ドンカスターに生まれる。フィンランドでの語学指導やケンブリッジ大学などで教鞭をとった後、英国内の教育機関や政府関連機関にて勤務。1999年より現職。

イングリッシュUK
適切な認定を受けた、英国の英語学校で構成される全国的なチャリティー組織。英国の国際文化交流機関ブリティッシュ・カウンシルの認定を受けた英語学校や語学センターなど、400以上の教育機関が加盟している。コンサルタント活動やロビー活動のほか、生徒からの苦情の受付や英語教育の促進などを行っている。詳細は下記の日本語ページを参照。同ページにて認定校の確認などができる。
www.englishuk.com/ja/students

志を持つ学生にとっては、英国には理想的な学習環境、
そしてキャリアアップの機会が揃っていると思います

まず始めに、英国国境庁*1を相手取って先日起こした裁判*2についてのお話からうかがわせてください。非欧州圏出身の語学留学生が渡英する際に必要な、いわゆる学生ビザの取得条件についての「イングリッシュUK」の主張が、ほぼ全面的に認められたと理解しています。このときの高等法院の判断を、どのように受け止めましたか。

裁判の結果に関しては、大変満足しています。これにより、英国への留学を予定している語学学生が適切なビザを取得するために要求される英語レベルは、新規制が導入される3月以前の基準へと戻りました(※しかし同規制は再導入されることに)。イングリッシュUKに所属する英語学校はすべて、この結果を好意的に受け止めています。英国における英語教育部門は毎年15億ポンド(約1999億円)もの外貨収入をもたらしてきたにも関わらず、新規制の導入に伴い、この夏から秋にかけて英国に留学しに来る語学学生の数は、極端に減少する見通しとなっています。今回の高等法院の判断は、英国の経済にとっても喜ばしいニュースであると信じています。

裁判で私たちは、今回争われた新規制のような重大な決定については、英国国境庁からの一方的なガイドラインの付記としての通達という形ではなく、議会において審議した上で行われるべきという点を主張しました。また、英語を学び始める前に、一定の語学力レベルに達していることを要求するというのが、そもそも少し奇妙な理屈です。現行のように、A1レベル*3が適当だと思います。

ただ誤解して欲しくないのですが、裁判に訴えるというのは、私たちにとってはまさに最後の手段でした。今後は英国国境庁と建設的な関係を築いた上で、適切な移民規制の動きにも協力していきたいと思っています。語学学校側も、きちんと勉強もせず、学生ビザを悪用するような生徒を受け入れたくはないですからね。

在英邦人含め、英国で暮らす外国人留学生の間では、移民規制が年々厳しくなっていると実感している人が非常に多いかと思います。英国の留学先としての魅力*4は、段々と薄れているのではないでしょうか。

私はそうは思いません。例えば移民規制における昨今の大きな変更点の一つとして、いわゆる「学生ビザ」所有者の労働時間が縮小されるということがありましたが、制限の対象となるのは、よく誤解されているように学生全体ではなく、語学学生だけです。学位コースの学生はこれまで通り週20時間までの勤務が可能で、語学学生も週10時間までの勤務が認められています。

また依然として、語学学校から大学や大学院に進学そして卒業し、英国で新しい仕事を探すというキャリアを築く人は多くいて、そういった意味で、志を持つ学生にとっては理想的な環境が整っていると思います。さらに一つ付け加えるならば、現在ポンド安となっているため、外国人学生にとっては、随分と割安に英国での教育を受けられる機会が用意されていることになります。

認証を受けている学校に通う限り、突然の閉鎖などの事態について
心配する必要はありません

ただ最近では、「通学している語学学校が突然閉鎖」との憂き目に遭った語学学生の話なども耳にしますが……。

「通っていた英語学校が突然閉鎖」といったニュースは確かに語学学生たちの間でよく話題となっているようですが、実際のところ、きちんとした学校に通っている限り、学校が突然閉鎖されてしまうというケースは、非常に稀です。私たちイングリッシュUKの加盟校となっている学校を例に挙げてみましょう。過去17年間で、閉鎖に追い込まれた学校の数は、わずか10校のみ。つまり然るべき認証を受けている学校に通う限り、そうした事態を心配する必要はないと考えていいと思います。

また万が一閉鎖に追い込まれてしまった場合でも、イングリッシュUKの認定校であれば、通学生は、財政的な支援を受けられることになっています(下記「非常時のサポート・ファンド参照」)。つまり、改めて授業料を払うことなく、他校の同レベルのコースへと編入し、無事に留学生活を終えることができるのです。また該当期間における英国での宿泊費も補償されます。この詳細についてはイングリッシュUKのウェブサイトに記載されているので、是非ご覧ください。学校が閉鎖に追い込まれそうという事態が起きた場合、私たちのスタッフが駆けつけ、生徒たちがその後の留学生活をどのように過ごすことができるかについての相談に応じるなどしています。

繰り返しますが、イングリッシュUKの認定校に通っている限り、学校が突然閉鎖という憂き目に遭うことはまずありえないし、万が一そのような事態が起きたとしても、生徒はお金を無駄にすることはないのです。こうした補償措置は実は非常にユニークなもので、英国以外ではオーストラリアにしか存在しないはずです。ですから、英国は、今だって、語学留学先として最適の地なのです。

本インタビューを行った直後となる7月22日、政府は、「非欧州圏出身の市民が英語を学ぶために英国に留学するには、事前にGCSE(中等教育修了資格試験)レベルの英語力を保持していること」を必須条件とする内容を法制化し、同法が即日適用されることを発表した。同9日にイングリッシュUKが高等法院にて勝訴したばかりのこの問題は振り出しに戻ったことになる。この結果について、イングリッシュUKの広報担当者は、「非常に残念」としている。本誌では今後も誌面やウェブサイトを通じて、この問題を取り上げていく予定。

*1…英国国境庁 ^
英国の内務省の管轄下に置かれた機関。移民管理・規制などの業務を主に手掛ける。 www.ukba.homeoffice.gov.uk

*2…英国国境庁を相手取った裁判で勝訴 ^
英国国境庁は、2010年3月より、非欧州圏出身の市民が英語を学ぶために英国に留学するには、事前にGCSE(中等教育修了資格試験)レベルの英語力を保持していることが必須条件であるとする新規制を導入。イングリッシュUKは、こうした新規制が一方的なガイドラインの通知という形で実施されることを不当であるとして、裁判に訴えた。この訴えを受けて、高等法院は7月9日、こうした条件の厳格化は本来、議会において審議した上で行われるべきであったとして、イングリッシュUKの主張を認め、原告側勝訴の判決を下した。

*3…A1レベル ^
欧州評議会が定めた、ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages、CEFR)における初級段階で、英国の一般的な語学学校における「Elementary」に相当。IELTS1.5~2.0、TOEIC 180~220点程度。3月の改正時には、英国で語学を学ぶ学生に最低限必要とされる語学レベルが、B1(同「Intermediate」に相当)にまで引き上げられた。

*4…英国の留学先としての魅力 ^
イングリッシュUKによると、英語を学ぶために英国に留学する生徒の数は、年間50万人以上。全世界の英語学生の半数近くが、英国で学んでいることになる。
English UK
イングリッシュUKのウェブサイトには、日本語ページもある

非常時のサポート・ファンド
万が一、イングリッシュUKの加盟校が突如閉鎖されてしまった場合、イングリッシュUKは、学生のために、「サポート・ファンド」と呼ばれる資金を使って、財政的支援を行う。多くの場合、同じレベルの語学コースを持つ学校へ追加料金なしで転校措置を手配して学習を修了できるようにし、また、宿泊施設に支払った料金についての損害も補償する。

ロンドンの語学学校に関わる人々に聞きました

 

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