BBCや病院などで性加害を行ったジミー・サヴィル - 日本のジャニー喜多川氏の事件と類似か
日本では、大手芸能事務所であるジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川氏(2019年死去)による性加害事件が大きな注目を浴びています。これと「似ている」といわれているのが、BBCの番組司会者兼DJで、数十年にわたって性的虐待を行った故ジミー・サヴィル(Jimmy Savile 2011年死去)の事件です。どちらも芸能界で起こり、かつ大きな影響力を持つ人物による子どもへの性加害行為で、加害者の死後に多くの人が知るところとなりました。さらに10月9日からBBCがサヴィルを主人公にしたドラマの放送・配信を始めています。今回はこのサヴィル事件を振り返ってみましょう。
プラチナ・ゴールドの長髪に大きな目、口元には葉巻、トラック・スーツにじゃらじゃらとしたネックレスの組み合わせ。こんな格好がサヴィルのトレードマークでした。性加害行為が明るみに出た今では、その容貌自体が異様に思えますが、1960年代半ばから90年代がピークとなったBBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」や、子どもたちの願いをかなえる「ジムにおまかせ」の司会役として、お茶の間に広く受け入れられていた人気者でした。「トップ・オブ・ザ・ポップス」はポップスやロックの音楽チャートを紹介する番組で、ビートルズなど著名バンドが生演奏し、観客の10代の少年少女や若者たちが音楽に合わせて踊る様子が放送されました。幅広い年齢層が楽しんだ「ジムにおまかせ」には、マーガレット・サッチャー首相も登場し、会場からの質問に答えました。
サヴィルは慈善活動にも熱心で、巨額の資金を募金で集め、病院などに寄付していました。英北部リーズの総合診療所や同南東部ストーク・マンデヴィル病院、ブロードモア精神病院などを拠点とし、スタッフからは宿泊用の部屋や執務室をあてがわれ、その鍵も与えられていました。また、地元警察と親しい関係を築き上げ、王室メンバーとも親交がありました。その慈善活動の功績が評価され、1971年には大英勲章4位、90年にはナイト爵が叙されました。当時サヴィルによる子どもへの性加害について知っていた人がいても、その知名度や募金を集められる重要な人という点からその声は公にされませんでした。また、暴行を受けても「信じてもらえない」という経験をした被害者や、何をされたのか自分でも理解できず、後年になって気付く被害者もいたようです。
2011年10月の死去をきっかけに、BBCはサヴィルの性的疑惑をテーマにする番組を作ろうとしましたが、当時の編集幹部が「裏付け証拠が不十分」と判断し、中止されました。しかし翌12年10月、民放ITVが加害を暴露する番組を放送し、流れが一気に変わりました。BBCはすぐにサヴィルのBBC内の行動について調査を開始します。ITVの番組を見て警察に連絡を取ってきた女性が続出したことで、ロンドン警視庁も捜査を始めました。16年、BBCが控訴審の元裁判官ジャネット・スミスに依頼した独立調査の報告書が出ました。これによると、サヴィルによる性加害行為のほとんどは先の二つの番組の司会をしていたときに発生し、BBCのスタジオやサヴィルの楽屋などで行われていました。性的暴力を受けた被害者72人のうち、レイプ被害者は8人。最年少の被害者は8歳です。一方、15年2月までに発表された44の病院や医療組織での調査では、5~75歳の患者や職員など数百人にも上る被害者がいたことが判明しました。各病院の報告を検証した元法廷弁護士ケイト・ランパード氏は「病院への自由なアクセスを与えたことが、50年近くにわたり性加害行為を働く結果を招いた」と述べています。BBCがサヴィル事件をドラマ化した「The Reckoning」(ザ・レコニング 全4話)の放送には賛否両論がありそうです。でも、社会がサヴィルの加害を忘れないための一つの機会になり得るのではないでしょうか。
Jimmy Savile(ジミー・サヴィル)
1926年英北部リーズ生まれの司会者兼DJ。BBCの人気番組の司会者で慈善活動家という立場を利用して、未成年者を中心に性加害を繰り返した。2011年10月死去後に加害が明るみに。1964年、BBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ボックス」の司会となってテレビ界で活躍するようになった。享年84歳。生涯独身だった。