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英仏バイリンガル幼稚園・小学校
sam 27 mai 2017

21世紀の海外で日本の素敵を再発見 Neo Japon

大江ゴティニ純子
在仏アート・プロデューサー。Palais de Tokyo のゼネラル・コーディネーター、フランス現代アート基金のゼネラル・マネージャーなどを歴任し、現在はパリ大学で講師、国立美術館やアート・センターでの企画に携わる。京都の仏政府在外文化機関「ヴィラ九条山」特任館長。www.villakujoyama.jp

第18回
フランス人デザイナーが夢中になる
「墨流し」のおもしろさ

フランス人ファッション・
デザイナーのジュディット・ブルダンの
『SUMINAGASHI』シリーズ。デザイン界の登竜門デュペレ応用芸術高等学院で刺繍を学んだ後、インド滞在経験をもとに2011年より独自のブランドを展開。
紙と布の境界に挑むオリジナル作品がおもしろい。絹製のショールは大中小と3サイズ。
www.denovembre.fr

emilie pedron

仕事柄、毎年数え切れないほどの展示を見るが、今年前半おもしろかったのは、クラフトブーム再燃の中、フランス工芸連盟がパリの国立装飾美術館で開催したデザイン展だ。特に目に留まったのは『SUMINAGASHI』という作品。月面か水面か、無数の波紋が豊かにたゆたう。高さ2m、幅1mの壁に掛かった作品は近くに寄った瞬間かすかにもれた息でゆらめいた。実に素敵だ。一見写真かペイントに見えるこの作品、若手フランス人デザイナーのジュディット・ブルダンによる絹の大判ショールだと知った。さらに同じ会場で別の作品に目がとまった。製本を専門とする職人ユニットの作品だ。使用技法に「SUMINAGASHI」とある。

うむ、今パリでスミナガシ現象が起きている。

翌月私は福井県の恐竜博物館にいた。恐竜ファンとして、かねてフクイザウルスの発掘跡地を訪れたかったのだ。が、行く先々で目に留まるのは「越前和紙」、そして「墨流し」の和紙作品。なにせ日本が誇る和紙の産地である。越前和紙製の恐竜キットを買い込んだあたりから、恐竜どころではなくなってきた。この越前和紙の魅力が鳥肌が立つほどすごいのだ。興味は恐竜から「越前和紙」、そして「墨流し」へと完全にシフトしてしまった。

現存する最も古い「墨流し」の作品は、平安時代後期に制作された『西本願寺三十六人家集』の料紙である。王朝貴族たちは川に墨を流し、その変化する模様を楽しんだとされる。なんて雅な遊びだろう。水の豊かな日本ならではの美意識だ。模様を紙に写し取る技法が考えられ、詩歌を書く短冊や色紙に応用され、紙漉き(かみすき)の技術の向上に伴い和紙の装飾技法として定着した。戦乱の多かった武家時代には消えかけていたが、江戸時代に着物の染色法として復活した。そして「墨流し」は琳派(りんぱ)の作品や浮世絵にも応用され、現代に至るまで美術史に大きな影響を与えることになるのだ。

福井県越前市には平安時代から「墨流し」の匠が移り住み、今でも最古の技法が残っているという。水槽の水面に墨汁と油を交互に使い、筆で何重にも円を描く。すると水と油が上手く喧嘩し、年輪のような模様が広がる。そこへ息を吹きかけたり扇ぐことで染料が動き、波たち、まるで宇宙の星雲のような模様ができる。それを手漉きの和紙に写し取ると、プリントでは味わえない一点ものの美術工芸紙ができる。

実は西洋にも「墨流し」に類似したものがある。イタリアのマーブル紙だ。この技法の祖は16世紀のオスマン帝国時代のトルコで発展したエブル(雲)だ。この秘法が製本業者の間で流行り、ルネッサンス期にイタリアを中心にヨーロッパで広まり、大理石の模様に似ていることからマーブリングと呼ばれるようになった。

鉱物性や動物性の成分で色を出すマーブリングはカラフルで色のコントラストが強く、作り手主導で模様が生まれる。一方、「墨流し」は植物性の墨などを使い水の流れや風という自然現象を利用し、偶然がつくり出す模様を楽しむ。この世に二つとない作品ができる。

マーブル模様のトレンドが続く中、日本ならではの美意識と水の豊かな自然環境から生まれた「SUMINAGASHI」が今、世界言語になろうとしている。

 

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