※ 新型コロナウイルスの影響により、GPやNHSは通常と異なる診療体制を取っています。利用の際はまず電話かウェブサイトで事前に確認を。
今年も医療費が上がる?
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国民に不利な切り詰め政策を実行
英国の国民医療制度(NHS)は、英国で税金を払い国民保険(NI)に加入すれば無償で医療サービスを受けられる制度として、1948年に「ゆりかごから墓場まで」をスローガンに発足しました。しかしながら現在、この制度は、財政難と人手不足という致命的かつ慢性的な問題を抱えています。政府はこの状況を改善するため様々な策を打ち出していますが、どれも国民に不利な変更ばかりが目立ちます。例えば、処方薬はその時々の政府の方針により料金が上下するものの一つですが、今年度は医薬品1種類につき9.15ポンド(16歳以下、60歳以上、妊産婦などは免除)と、ここ数年で毎年徐々に値上がりしています。
国民保健サービス(National Health Service)の仕組み
NHSを利用する際の注意点 詳細を見る
NHSへの登録方法
NHS病院を利用するには、まず家庭医(GP: General Practitioner)に登録する必要があります。GPは自宅近くの医師を選ぶのが普通で、NHSのサイト(www.nhs.uk)のロケーション・サーチで自宅のポスト・コードを入れると、いくつか該当するGPのリストが出てきます。そのGPが新規患者の登録を受け付けているかどうかや、患者によるそのGPの評価なども分かります。また、2015年1月からは、自宅近くではないGPでも登録できるようになりました。勤務先に近いGPを選びたいときや、引っ越しても引き続き同じ医師に診てもらいたいときに便利です。ただ、中には近隣住民しか受け付けないGPもいるので確認しましょう。
次に、希望するGPが決まったら、電話または直接出向くなどし、新規登録のための申請予約をします。GPによってはパスポートや住所を証明できるものを持参するよう言われる場合も。当日は医師による簡単な問診や質問があります。登録完了後は、随時そのGPでの受診が可能になります。オンライン予約を受け付けているGPもあります。
GP登録フォーム
www.nhs.uk/Servicedirectories/Documents/GMS1.pdf
まずはGPを通してから
日本では、症状に応じて患者が内科、小児科、皮膚科など、どこの病院に行くかを決定しますが、英国ではまずGPで受診し、そのGPから適切な専門医を紹介してもらいます(歯医者は除く)。
緊急の場合はGPを通さず救急病棟(A & E)で治療や検査を受けることが可能ですが、通常はGPの予約はなかなか思うようには取れません。取れたとしてもずっと先であったり、待合室で長時間待たなければいけない場合がほとんどです。ただ、NHSでは緊急であるか否か分からない患者のために特別な電話番号「111」(救急は警察と同じで999)を用意しているので、困ったときには電話によるサポートを受けられます。この電話サービスは無料なうえ、24時間いつでも連絡可能。ほかにもNHSには「ウォーク・イン・センター」というサービスが各地にあり、ここでは軽度の症状に対する診察を予約なしで受けることができます。
自宅や職場近くにあるかどうか、下記リンク先でポスト・コードを入れて調べてみましょう。
ウォークイン・センターの検索
www.nhs.uk/Service-Search/Walk-in-centre/LocationSearch/663
ヘルス・サーチャージがまた値上げ?
政府はNHSの慢性的な予算不足を改善する一つの策として、2015年にイミグレーション・ヘルス・サーチャージ(IHS)という課金制度を導入し、欧州経済領域(EEA)外の国民が英国の滞在許可証を取得及び延長する際に、あらかじめNHS利用料を支払う仕組みにしました。
2020年10月以降、英国に6カ月以上滞在する場合、1年624ポンドを滞在許可証が定める年数分を前払いすることが義務付けられる可能性があります。この値上げはまだ正式ではないものの、これまでの1年400ポンドからの変更となり、5年のビザなら3120ポンドを滞在許可証申請時に一気に支払う必要があります。また、学生、Tier5(Youth Mobility Scheme)保持者も同様に、1年470ポンド、申請時には940ポンドの支払いという大幅な金額の変更が予想されます。
英国滞在が6カ月未満の場合は、サーチャージを支払う必要はありませんが、NHS病院で無料治療は受けられず、治療費の150%に相当する金額を負担することになります。
まずは一般医での診察が必要
GPから始まる英国の医療 詳細を見る
すぐには治療してもらえない?
英国と日本では、医療制度が大きく異なります。日本では、胃のもたれを感じたら内科、アレルギーが出たら皮膚科、運動中に肉離れを起こしてしまったら整形外科という風に、患者自身が各症状から判断して、どの病院に行くかを決めるのが通例。一方、英国では、いかなる症状であれ、まずは一般医(GP)で受診しなければなりません(歯科医を除く)。そしてこのGPから適切な専門医を紹介してもらうというのが基本的な形態となっています。
日英における診療の流れの違い

ただし、緊急の場合はGPを通さず救急病棟(A&E)で治療や検査を受けることが可能。また「ウォークイン・サービス」と呼ばれる機関では、予約なしで軽度の症状に対する診察を受けることができます。
一般医であるか専門医であるかに関わらず、英国の医療機関は国民医療制度(NHS)とプライベート医療に大別できます。NHSの診療は無料である一方、診察の予約が取れるまでに長期間の待機を余儀なくされることが多いというのが実情。一方のプライベート医療は有料ですが、比較的迅速に診察を受けられる場合が多いです。
NHSにおける医療機関の受診方法
❶ まずはNHSのGPに登録。NHSのウェブサイト(www.nhs.uk)の画面中央にある「Services near you」内の「GPs」をクリックし、ポストコードなどの住所情報を入力。
❷ 近隣のGPの詳細を記した一覧が出てくるので、その中から適当と思われるGPを選別。同サイトには、GPの住所に加えて利用者の評価などが掲載されています。
❸ 希望のGPが見つかったら、電話や窓口に直接赴くなどして、新規登録を申請。自身の住所が病院の担当地区に該当し、かつ新規登録を受け付けていれば、簡単な身体測定などを経て登録作業が終了します。
❹ 以後はGPで随時受診可(要予約)。必要に応じて専門医を紹介してもらうことができます。
プライベート医療での診察
NHSの加入手続きを経ることなく、プライベートのGPに直接問い合わせて予約を取れば、受診することができます。また保険に加入していれば、キャッシュレスで診療を受け付ける機関もあります。
*本稿では主にイングランドを中心とする状況について取り上げています。