2019年の流行語 気候温暖化を警告する「climate emergency」 - 英オックスフォード辞書が選出した今年の言葉
今年も、残り少ない日々となりました。クリスマスに向けて、職場であるいは家庭でさまざまな準備が進んでいる頃ではないでしょうか。
日本では、今年話題になった言葉に贈られる「新語・流行語大賞」(「現代用語の基礎知識」選)が発表され、年間大賞には、秋に日本で開催されたラグビー・ワールド・カップの日本代表が使ったスローガン「One Team」が選ばれました。日本代表となった31人の選手の中で15人が海外出身者で、チームを1つにまとめるために使われた言葉だそうです。日本代表は今年初めて決勝トーナメントに進み、日本中にラグビー・ファンを増やしたので、これを反映した選択のようです。
英国では、英オックスフォード大学出版局の辞書部門「オックスフォード・ディクショナリーズ」が、毎年末、その年を代表する言葉を選んでいます。昨年は「toxic」(有毒な、有害な・心をむしばむ)でした。
さて、今年の流行語は何でしょう。その年を言い表し、文化的に重要性があるとして選ばれたのは、今年になって一気に注目度が高まった「climate emergency」(気候の緊急事態)でした。「気候変動」(climate change)や「地球温暖化」(global warming)は既に私たちの語彙に加わってしばらく経ちますが、気候が緊急事態にある、と見なすのが今年らしいですね。オックスフォード・ディクショナリーズは、climate emergencyを「気候変動を減速化、または停止させるため、そして気候変動から生じる潜在的に取り返しがつかない損害を避けるため、緊急の行動が必要とされる状況」と定義しています。今年は、気候変動で世界の隅々にまで影響が及ぶことに人々の意識が高まったことが背景にあります。
オックスフォード・ディクショナリーズの調査によると、2019年はこの言葉の使用が急激に増え、9月時点で前年同月のほぼ100倍もの使用頻度に達したそうです。emergencyという語はこれまで、健康、病院などの言葉とともに使われることが多かったのですが、今年は気候関連での使用頻度が高まりました。
「気候の緊急事態」という言葉を意識的に使う編集方針を定めたのが、「ガーディアン」紙です。5月から「気候変動」を「気候の緊急事態」に、「地球温暖化」を「地球加熱」(global heating)という言葉に変えました。この方が「世界が直面する環境上の危機をより正確に表現できる」と判断したからです。気候に関する科学的な文献も気候の緊急性という言葉を流行らせる結果をもたらしました。科学誌「バイオサイエンス」に掲載された記事(11月5日付)には世界153カ国の1万人を超える科学者の署名が入った、「気候変動の緊急性について警告を発するのは自分たちの道徳的義務である」と書かれていました。また、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相を始め、世界各国の政治家もこの言葉を使うようになっています。
他にも気候関連で多く使われた言葉が、climate denial(人間の活動によって気候変動が起きていることの否定)、extinction(絶滅)、そして生体圏の破壊を意味するecocideなどです。Ecocideは大量殺戮を意味するgenocideと生体学・生態系(ecology)の合成語に見えますね。前年よりも681%多く使われるようになりました。また、二酸化炭素の排出や環境汚染に加担することになるため、飛行機の利用を嫌がるまたは罪悪感を感じるのが「flight shame」(フライト・シェイム)だそうです。さて、来年はどんな言葉が生まれるでしょう。
昨年末のコラムで、筆者は「ブレグジット関連、あるいはメイ首相の進退を表現する新しい言葉が、また一つ生まれるのではないか」と予想しました。残念ながら当たりませんでした。今年は予想を出さないでおこうと思います。
皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。