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Thu, 28 March 2024

第41回 UKIPが第1党 - パンドラの箱を開けた欧州議会選

UKIPが第1党 ― パンドラの箱を開けた欧州議会選

第一次大戦の開戦から100年、「戦争の大陸」に平和と繁栄を築こうという崇高な試みに欧州市民から強烈な拒絶反応が突き付けられた。先の欧州議会選(定数751)で、欧州連合(EU)からの離脱を唱える英国独立党(UKIP)が英国の第1党になるなど、EU懐疑派、極右・左派政党が3割近い議席を獲得した。

グローバル経済の過当競争が勝ち組と負け組を分け、世界金融危機で財政赤字が膨らみ、成長の限界が明らかになった。EU拡大が大量の移民を生み、雇用や年金に不安を抱かせる。高止まりする失業率。自国の議会よりブリュッセル(EU本部の所在地) が自分たちの未来を左右する。こうした矛盾が一気に噴き出したといえる。

欧州議会選はEU加盟国では総選挙や大統領選をにらみ政権の行方を占う「中間選挙」と言われる。自分たちの生活に直結せず、気軽に抗議投票ができるため、感情に流されやすい。しかし、今回の選挙結果は、もっと大きな流れの中で深刻にとらえなければならないだろう。ベルリンの壁崩壊後、一気に加速したグローバル経済は明らかに壁にぶち当たっている。ウクライナ危機は、「共産主義を捨て民主化すれば経済が必ず発展する」というEU モデルがどの国にも当てはまるわけではないことを浮き彫りにした。

フランスの極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)に反対している。欧州議会には、米国家安全保障局(NSA)の監視プログラムを暴露したスノーデン事件をきっかけに米国への不信感が渦巻く。グローバル化の痛みを和らげるため、欧州では保護主義的な傾向が出てくるかもしれない。「人の自由移動」には間違いなくブレーキがかけられるだろう。中道右派と中道左派が政権を争うこれまでの政治構造も崩れ始めている。

 

悪いのは一体誰なのか。EUと単一通貨ユーロが抱える構造的欠陥、欧州レベルのリーダーシップ欠如、EU官僚の危機意識の薄さ。債務危機をバネにユーロ導入国の財政規律を強化、常設の安全網・欧州安定メカニズム(ESM)、銀行同盟が構築されるなど、それなりの前進はあったが、南欧諸国の失業問題は後回しにされた。景気が後退しているときに緊縮策をとるのは、重体患者にダイエットを強いるに等しい。債務危機を鎮めたのは、緊縮策を強いたドイツのメルケル首相ではなく、大胆に金融を緩和した欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁だったのだ。

 

英国で27.5%の票を得たUKIPの支持層は、「8割超が英国は大戦後に悪くなったと考えており、典型的なタイプは白人、単純労働者、高齢者だ」とキャメロン首相の恩師であるキングス・カレッジ・ロンドンのヴァーノン・ボグダナー調査教授は分析する。昨年の世論調査で、UKIP支持者の10%が「新三種混合ワクチンは危険」と回答。主要3政党の支持者は各2~5%で、UKIP支持者の前近代性をさらけ出した。ボグダナー氏は「来年の総選挙は、どの政党も単独過半数に届かないハング・パーラメントになる。連立政権が誕生した前回とは異なり、少数政権になる可能性がある」と予測する。

単純小選挙区制をとり、保守党と労働党の2大政党が政権を交代してきた多数決型民主主義のふるさと・英国でさえ、先が全く見通せない混沌の時代に突入した。9月のスコットランド独立を問う住民投票、総選挙後のEU残留か、離脱かを問う国民投票を見通すのは極めて難しい。まさに地殻変動が起きているのだ。

英国は歴史的に、欧州は災いを運んでくると警戒してきた。チャーチル首相は大戦後の1946年、「欧州という家族を再構築する第一歩は、フランスとドイツの友好でなければならない。我々が、名前が何であれ欧州合衆国をつくるのなら今、取り組む必要がある」と演説した。英国経済の復活も欧州の単一市場なくしては成し得なかった。しかし、英国の歴代首相は欧州統合の動きと国内懐疑派による反動に挟撃(きょうげき)されてきた。キャメロン首相も例外ではない。

欧州は歩みを止めると後退し、下手をすると崩れてしまいかねない未完のプロジェクトだ。その崩壊は「西洋の衰退」という以上の意味を持つ。欧州の政治指導者には、嵐の中を突き進む不屈のリーダーシップが今こそ求められている。

 
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